「まあ真奈はバスケ部には入らないとしてさ」
「……!」
鈴が真奈のバスケへの熱い想いをさくっと一刀両断にし、真奈が戦慄しているのにも関わらず次の話を振る。
「確かに部活は気になるんだよねー。ほらあたしも帰宅部だしさ。どんなもんなのよきょうこさん」
「あひゃしに振るかー。間池留もびっくりの幽霊部員だよあたしゃ」
きょうこが上体を完全にテーブルに寝そべらせて、口の動きだけでカップから氷を転がり出させながら言う。非常に行儀が悪いがその姿は無邪気な子どものようで愛らしく見える。
「……確かに。こんなのとは言え身近に運動部員がいることをすっかり忘れてた……。……で、テコンドー部はどうなの間池留」
「誰が間池留ひゃっ!」
カップを弄ぶのにも飽きたようで、きょうこはそう言いながらガバっと上半身を起こす。口元から垂れた一滴の水が細い首を伝い、かなり開いた胸元からその調度良い大きさの胸の谷間に落ちていく。
「ちべたっ! ……まー別にフツーだよフツー。練習行けば基礎から全体で練習して、その後まあ……組み手?みたいな感じのことやるだけさ。いちおー朝練とかもやってて真面目にやったら拘束時間長いし結構しんどいと思うよ。あたしは朝練なんて一回も行ったこと無いけどねー!」
「……そんな状態で除名にならないなんて、たまたまテコンドー道場を経営してた親に感謝ね」
「朝練とか大変ね。合唱部も真面目には活動してるけどさすがに朝練とかは無いわねぇ」
ここまで無言だったサヤが会話に参加する。どうやらサヤは合唱部に所属しているらしい。さっき本人が言っていたとおりきょうこはテコンドー部に所属しているようだ。
「でも確かになんかいいなあ。あたしら未所属だもんねー」
鈴が真奈に体を寄せながら言う。こちらの二人は帰宅部で間違いなさそうだ。
「……未所属ってなんか政治家っぽい」
真奈がいつもどおりぼそっと言う。
「確かにー。よく『未所属・新の何とかに清き一票を御願します!』とか言っているもんねー。でも未所属って何に未所属なんだ?」
きょうこがウグイス嬢の真似をおどけてやった後に、腕を組んで首をかしげた。
「なんかの団体にってことだよなー。部活な訳ないし……大人が入っている団体って何だ?」
どうもサヤ以外は大真面目に未所属の意味が分からないらしく三人で首を傾げる。
サヤはサヤでもちろん政党に未所属であることは知っているが、この3人がどんなボケを発してくれるのか少し楽しみになってしまったようで不自然な笑顔で口をつぐむ。
「……大人な団体。それはつまり会員制のヤバいお店ってことね……」
真奈が涼しげな顔で話をとんでもない方向に持って行こうとする。さすがにサヤもここまでの飛躍は予想外だったらしく、ドリンクを喉につまらせむせ返った。
「まじかよー! でも確かにそれなら未所属って強調するのはあたりまえだよなー。清き一票ってのはそんな清い自分と気が合う人は1つよろしくってことかー」
きょうこもなかなかのもので話にしっかりとつじつまを合わせていく。それを聞いて鈴が右手の平をぐっと二人の前につきだして顔を赤くしながら言う。
「さ、さすがにそれはなかろう……。ってかもしそうだったら未所属じゃない人は一体なんなんだ! 」
サヤはお腹を押さえて呼吸困難にあえいでいた。
「……思い出した……。前に選挙カーの演説を聞いたとき一回だけ未所属って言わなかった時があった気がする……」
「マ、マジか! その時はなんて言ってたんだ!?」
腹筋崩壊中のサヤも、そうきょうこが身を乗り出して聞いた時には少し落ち着いてきてドリンクに口を含んだ。
そんなサヤを尻目に真奈は記憶に自信がないのかおずおずと口を開いた。
「……た、たしか……起ちやがれ一本……みたいなことを言ってたような……」
サヤは盛大にドリンクを吹いた。