Neetel Inside ニートノベル
表紙

僕はポンコツ
2-4『勝負なんです』

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「カラオケに行くことになったんだけど、どうすればいい?」
「女とか?」
「うん」
「死ね」
 
 ツー、ツー。
 
 彼がわざわざかけた電話は、一方的に切られてしまった。
 
 
 
 
 
 事の発端は1日前、金曜日。
 
 
 
 
 
 いつものように立川と帰宅している(日常的なものになっていることに彼は気づいていない)ときだった。
「歌羅王家?」
 妙に目立つネオンの看板(まだ光っていない)。立川は興味を示した。
「なんやこれ……うたおうけ?」
「からおうけ」
「からおうけ?」
「からおうけ」
「……カラオケ?」
「うん」
 
『おうけおうけ、歌羅王家(からおうけ)でうたおうけ』(作詞作曲:商店街振興組合)
 商店街で流れていたコマーシャルソングが彼の脳内で再生される。
 
「ほへー、知らんかったなぁ。カラオケかぁ、歌羅王家(からおうけ)かぁ。
 みんなはココでカラオケるん?」
「隣の駅前に新しいのができてそっちに流れたから、むしろここは空いてる」
「ほほーう」
 
 イヤな予感。まさしく本能的な危機感。
 
「そういえばこっち来てからカラオケ、行ってないなー」
 
 ああ始まった、と彼は諦めた。巻き込まれる展開しか想像できなかった。
 (無理だと思いつつも一応)断り方を考えていると立川が言った。
 
「今度、友達誘って行こうかな」
「え?」
「ん?」
 
 ニタリ。彼女がほくそ笑む。「してやったり」と言ったような表情。
 しまった! いったい何が起こるのか、そもそもどんなトラップにかかったのか、それはわからないけれど、とにかく、しまった! だった。
 
「あれあれ、あれ? なになにその予想外、という顔」
「う……」
「んー、行く? 行っちゃう? 行くよね? 行こっか、行っちゃおう」
 
 コクコク。流れに沿って承諾してしまった。うまく丸め込まれたように感じたが、きっと自分が悪い。自分のせい。
 
 
 
 で、明日の土曜日、歌羅王家(からおうけ)に行こうとなった。正直何をどうすればいいのかわからなかったので友人に電話した。そして切られた(これが冒頭のシーン)。
 ひとまず服を組み合わせを考えてみる。ちょっと気合を入れた外出用の組み合わせ。
 次に、行くところを考えてみる。歌羅王家(からおうけ)……で、終わり。
 ……こんなもんだろうか。
 
 知らない、誰も教えてくれない、異性との休日の過ごし方。
 
 さてさて、どうなることやら。
 
 
 
 そして土曜日。待ち合わせの13時の5分前に歌羅王家(からおうけ)前に着いた。
 
 彼は思う。
 
 あの立川が、時間通りにやって来るものなのか。
 いや、来ない。きっと来ない。だって時間にルーズそうなイメージがあるから。
 
「やっほー、おまたせ」
 
 そんなことはなかった。
 
 
 
 彼は女性のファッションは詳しくない。どのブランドでどうちゃらこうちゃらなんて語ることはできない。が、立川の私服にはハっとした。させられた。
 おそらく季節に合わせた服装なんだろう。明るめのカラーがにぎやかな(騒がしい)彼女にぴったりだった。ピンクのスカート、花の髪飾りがやけに似合っていた。
 そして何よりも、脚。スカートから見える(彼の評価でトップクラスの)脚。思わずそのおみ足をまじまじと見てしまう。
「なんかごめん」
「え?」
「いろいろごめん」
 
「おー、広い。けっこう広いね」
 部屋は6人用ぐらいの部屋だった。それだけ閑古鳥が鳴いているんだろう、他の部屋からも音楽は聞こえてこなかった。
「うわ、いい機種だ」
 立川はリモコンで選曲し始める。彼は本を開き、眺める。こうして眺めるのが好きだったりする。あの曲があるのか、とか、あの曲はないのか、とか。そんなことを思うのが好きだった。
「よーし、歌うよー」
 最初から歌う曲を決めていたかのような速さ。彼女はマイクを持ち、一曲目から立ち上がる。
 
 
 
 ―― こっち向いて Baby   初音ミク ――
 
『強がってばっかでなんか
 損してる気がする、だってそうじゃんっ
 言えないようなコトがしたいの
 あんなコトとか
 
 やだ……どんなコト?』
 
『オトコってバカばっかね
 変なコト今考えたでしょ?
 キミって嘘がつけないタイプ
 だいぶ顔に出てる
 
 Are you ok?』
 
『情状酌量の余地ナシ
 まるでお話にならないわ』
 
『壮大なロマン語る前に
 現状分析できてる?』
 
『アアアアアアア!』
 
 
 
『キミって鈍感!!!!!』
 
 
 
「…………」
 彼は静かに本を閉じ、聞き入った。
 
 
 
『ねえっ!』

『ちゃんとこっち向いてBaby!
 NO! なんて言わせないわ!
 本気モードなんだから!
 思わず見とれちゃうぷるぷる唇で
 
 キミをトリコにするの!』
 
『今日こそ勝負なんです!』
 
 ・
 ・
 ・
 
「ふー、どうだった?」
「ん、けっこういい曲だね。誰の曲?」
「えっと……えへへ」
 うまいこと誤魔化された。
 
 
 なんだかんだで彼も楽しみ(意外なことにジャニーズの曲を歌う。ドラマの主題歌の影響である)、カラオケが終わった。
 
 2人は別れ、彼は帰路に着いた。
 
 
 
 
 
 帰り道、彼はふと思い出す。
 
『キミって鈍感!!!!!』
 
「…………」
 
 
 
 鈍感。
 
「……うーん」
 

       

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