僕はポンコツ
2-5『彼の手紙』
朝、彼が登校すると、立川は友達数人とおしゃべりをしている。これはいつもの光景で、やはり人当たりが良いからか、男女問わず、彼女の周りには誰かしらいた。
彼はやれやれ騒がしいなといった様子で眺めつつ、席に座る。
担任がやって来ると、他の生徒たちも自席に戻る。立川の周りも誰もいなくなる。
そのとき、彼女は彼に言う。
「おはよーはよー」
最初は「何を言っているんだ?」と思ったが、彼女から元ネタ(ボーカロイドの曲)を教えてもらって、ようやくわかった。朝の挨拶らしい。
授業中にやってくる手紙。最初のころに比べ頻度は減ったが、それでも時々やってくる。
『昨日のドラマ見たよね? あの展開はないなーと思うんだけど、どう思う?(・ω・`)』
『フルーツ・イン・ザ・ルーム読んだよ!
うわーどうしようもないダメ男だなーと思ってたらまさかの誘拐劇! これどうなるんだろう!?』
『アサダくんってマンガは読まないの? ジャンケン限定っていうマンガおもしろいよ?』
この日は全部で3通。授業には集中したいので、手短に返事を書いて渡す。
『昨日のドラマ見たよね? あの展開はないなーと思うんだけど、どう思う?(・ω・`)
ありきたりだけど、無難におもしろいからいいんじゃないかな』
『フルーツ・イン・ザ・ルーム読んだよ!
うわーどうしようもないダメ男だなーと思ってたらまさかの誘拐劇! これどうなるんだろう!?
まだどうとも予想はできないけど、ハッピーエンドになったらいいなぁと思う』
『アサダくんってマンガは読まないの? ジャンケン限定っていうマンガおもしろいよ?
バクバクバクとワンパンマンは読んでるよ』
あれだけ鬱陶しかったのに、それが今ではちょっと楽しいな、思っていたりもする。
「ここわからへん」
「……この前言ったはずだけど?」
「わんもあぷりーずぅ」
放課後の勉強も続いている。あいかわらず立川の覚えは悪かった、が。
「んん~? アサダくん、これわからないのかねぇ?」
「むっ……」
この日初めて、立川に解けて彼に解けない問題があった。英語の長文問題。彼は文系教科は苦手(と言っても嫌味にしか聞こえない成績だが)だった。
押し寄せる劣等感、彼はじっと静かに自分を責める。
「教えてあげてもいいんだけど、にぇ~」
まるで鬼の首を取ったような彼女に、彼はカチンときた。
「いや、別にいいよ。帰って考える。ほら、そろそろ帰る頃合いだし」
「え、うぇ、ええっ? ちょっ、ちょっと、早くないっ?」
「まあこんな日もあるよ。さて、帰ろうかな」
立川はぷるぷると体を震わせ、言葉なく彼を訴える。立川をある程度からかうとこんな反応を見せる、彼はとっくに知っていた。そんな立川を見るのが好きだった。
本屋にも何度か行った。貸し借りもしているし、お互いのおすすめを教え合うのも楽しかった。
音楽に関しては、彼女の独特な趣味に最初は引いていたものの、無理やり聞かされる(音楽データが大量に詰まったメモリスティックを渡される)うちに特に問題なく聞けるようになっていた。
この日も、彼女から借りたメモリスティックをパソコンに差し込んだ。
そこには。
『Re:立川さんへ.txt』
多くのmp3形式のファイルの中に1つだけテキストファイルが入っていた。これは以前にメモリスティックを借り、それを返す際に入れた手紙…‥の返事。彼が立川に宛てた手紙、その返事だった。
"Re:"とつけているのがとても彼女らしい。
さて、どんな返事が書かれているか。
彼はその内容を思い出す。
少し卑怯だったかもしれない。
恐る恐るテキストファイルを選択する。
開いた。
血の気が引いた。