Neetel Inside ニートノベル
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僕はポンコツ
3-3『ああやっぱりこの人は』

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『何を悩んでるの?』
 
 何度、その言葉が脳内でリピートされたことだろう。
 いい加減うんざりしかかったころ、家に着いた。ようやく我が家、多少気も楽になった(ような気がした)。
 
「ただいまー」
 
 帰宅。遠くから母親の声が聞こえる。いまいち聞こえなかったが、おそらく「おかえりー」と言っているんだろう。
 自室に戻り、普段着に着替える。そして勉強。放課後の勉強会はずいぶん気が抜けていた。ここでがんばらないと。
 
 
 
 気づけばいい時間(夕食的な意味)になっていた。ちょうど一段落したところだったので居間に降りると、そこには妹がいた。
「あ、お兄ちゃん、ただいま」
「おかえり」
 彼の妹。彼曰く『中学3年生で高校受験を控えているにもかかわらず、ジャニーズ(嵐)が好きでロクに勉強もしない妹』(略してバカな妹)。
 そんなバカな妹は制服すら着替えず、録画していた嵐のバラエティー番組をお楽しみ中だった(短いスカートで脚を放り投げているもんだから目のやり場に困る)。
 この嵐のバラエティー番組がけっこうおもしろかったりするので、彼も座ってしっかり見ることにした。
「あはー、アイバくんかっこいいー」
「ははは」
 そんな感じで2人して楽しんでいると。
「お兄ちゃん」
「ん?」
 
「この前本屋でいっしょにいた人、誰?」
 
 まるで「浮気してないよね?」と尋ねる妻のようなトーン(ドラマの中でしか知らないけど)。
 
 ……見られていたのか?
 
 背筋がひんやり。が、別に怖がる理由もない。カマをかけるのもいいだろう。
「誰って……どんなヤツだった?」
「ふわふわヘアーの関西弁の人」
 
 ……見られていたのか。
 
「友達だよ、友達」
「ふーん」
 
 ぴりぴり。彼はトゲトゲな空気をひしひしと感じていた。何だってこんな雰囲気になっているんだろうか。
 
 イライラ。バカな妹は心穏やかではなかった。まさか兄が女を連れて歩く日がやってくるなんて。
 
「お兄ちゃんはその人のこと、どう思うの?」
「どうって、別に……」
「特になし? 本当になし? 気になることなし?」
「う、うん」
「ほんとに、ほんと?」
「本当だって」
 
 にんまり。
 
 バカな妹は笑みを浮かべる。彼の答えに満足したのか、先ほどまでの不機嫌な様子はどこにもない。
 
「あー、やっぱり嵐はいいなー。アイバくんかわいー」
「僕はマツジュンのほうがいいけどね」
 兄妹はところどころ笑いながら嵐のバラエティー番組を楽しんだ。
 
「ところでさ」

 ふと、彼は言った。
「なにさ、いま忙しいんだけど?」
「いや、ちょっと訊きたいんだけどさ」
「はいはい、さっさと言ってよね」
「『僕のこと、どう思いますか?』って訊くのは卑怯?」
 ぷつり。バカな妹はテレビを消した。
「……それ、あの人に言ったの?」
 おそらく彼女のことだろう(見られているわけだし)。「うん」と答えた。
 
 すると。
 
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 
 バカな妹の深い深い溜息。
 もう、どう言っていいのかわからなかった。あの関西弁女子が不憫すぎる。にんまり笑って安心したのがなんだか申し訳ない気がした。
 
「それ何が目的なの? ねえ、何が目的?」
「目的って……どんな評価をされているのかな、て」
「……あー」
 
 ああ、なるほど。
 
 
 
 この人はやっぱり、ずっと気にしているのか。
 
 
 
 バカな妹は、この理知的で愚かな兄に同情した。
 
「どんな返事をもらったの?」
「……まあ、いろいろ」
 その歯切れの悪い返事から、バカな妹もだいたい察しがついた。あの関西弁女子から手痛いしっぺ返しを受けたのだろう。
 
 さてどうしたものか。
 
 どこの馬の骨かもわからない関西弁女子の気持ちを代弁するのはシャク。
 しかし、同じ女性としてアプローチが報われないのは見てられない。この鈍感な兄には文句の1つぐらい言ってやりたい。
 けれど、どうせウダウダと悩んでいるだろう兄に追い打ちをかける趣味もない。
 
 測る。両天秤。妹と女の間でシーソーゲーム。
 
 ……決まった。
 
「あのね、もうちょっと女の子のこと考えてみようよ」
「え、え?」
「その人、お兄ちゃんのことをとても大切に思っているよ」
「……そうなの?」
 
 ひとまず関西弁女子の肩を持つ。これはあくまで、同じ女性として同情しただけ。
 
 そして。
 
「だからね、その人のこと、頼ってみたら、どう?」
 
 最後は兄が大事。
 
「お兄ちゃんが抱えているもの、打ち明けてみたらどうかな?」
 
 あの関西弁女子は、兄の救世主と思っていいんだろうか。
 バカな妹は、身内ゆえに救世主になれないことを知っていた。悔しかったが、そこは馬の骨を頼るしかなかった。
 
「……お前」
「あーあーあー! もうっ、あとは自分で考えて!」
 
 当然それ以外を譲る気はなく、彼女(関西弁女子)のアシストなんてするはずもない。あとは勝手に頑張ってくれと言わんばかりに放り投げる。
 
 
 それ以降、2人は込み入った話をすることはなかった。録り溜めていた嵐のバラエティーを仲良く見続けた。
 
 
 
 
 
 彼の悩みはあと少し、続く。
 

       

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