草原にもぐらがいた。漢字で書くと土竜らしいが、だからなんだというわけではない。
もぐらはあまり社交的な性格ではなかった。言ってしまえば根暗だった。
いつも暗い土の中にある自分の部屋の中にこもっていた。
そこにはなんでもあった。大きい薄型テレビがあるし、最新のゲーム機もある。本棚には漫画がいっぱい詰まっていて、お気に入りのゴルゴ13も全巻揃っている。申しわけ程度に文庫本もある。
とにかくないものはないというくらいの状態だから部屋から出る必要をもぐらは感じなかった。
問題は食事だけれど、それもマヌケなミミズのほうから部屋の中に落ちてくるので心配はなかった。
なんの不自由もないどころか、むしろ快適だったのでもぐらが部屋をでることはなくなった。
たまに友達のうさぎが訪ねてきたが、まともに対応することはなかった。
なにか欲しい物があるときは母もぐらに買いに行かせた。その間、彼は好きなことをして遊んでいた。
いつからだろうか。食べ物が落ちてこなくなった。
もぐらはふと自分の手に視線を落とすと、ずいぶんしわくちゃになっていることに気づいた。
もぐらはお腹がすいていた。
ミミズをとりに外に出ようと思った。
体は動かなかった。
目が霞んで、もぐらは「ああ、死ぬのかな」と思った。
お腹がぐーっとないた。