草原にもぐらの母がいた。
彼女の息子のもぐらはひきこもりだった。
けれどもぐらの母は息子のことを信じていた。もぐらが一人前になる日がくると。
だからもぐらの母はもぐらになにも言わなかった。心のなかでがんばれととなえながら。
だからもぐらの母は息子のためにできる限りのことをした。
ミミズを追い込んで彼の部屋に落としたし、彼の要望もできるかぎり叶えた。
そんな日々は彼女が年老いて動けなくなるまで続いた。
まだ息子のことを信じていた。
「がんばれ。がんばれ。信じてるよ」もぐらの母は死の間際までずっとそう思っていた。
だけどもぐらの母は知らなかった。その想いがもぐらに届いていないことに。
だけどもぐらの母は知らなかった。言葉にしなければ伝わらないことがあることに。