Neetel Inside ニートノベル
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蒼き星の挿話
人との接し方(模索編)

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 今回の一件で果たしは自分の未熟さを再確認した。
 数百年、大衆を操りここまで国々の情勢をコントロールしてきたものの、人間個々人の意識、野望、望み、そしてそのモチベーションについて私は全く理解していない。それどころか、人間同士のコミュニケーションについてすら何も分かっていなかったのだ。
 幸運にも、今現在3大国を脅かす存在は無い。
 これを機に、私は人とのコミュニケーション方法を模索することにした。
 その手始めとしては、当面は宿屋兼飯屋であるスマイリーに居を定め、人々と交流するのが妥当だろう。幸い数人の顔見知りもできた。彼らとコミュニケーションを取ることで、人との接し方を学び、尚且つ私が人間であるということの証人になってもらう。

 これからの方針を決め部屋を出て一階に降りると、モルドが朝食を取っているところだった。
「よう、アレス。お前も一緒にどうだ?」
「…ああ」
 私はモルドの向かいの席に座って、ラナの母である初老の女性に朝食を頼んだ。
 料理が来るのを待っていると、モルドが食事の手を止め話しかけてきた。
「で、お前はこれからどーするつもりなんだ?」
「どう、とは?」
「仕事だよ。戦場はより西に移っちまったし、アテはあんのか?」
 そう、ここ最近のクレストは順調に国土を広げている。ここで大きく稼ごうとする傭兵は普通、戦地へ赴いて戦場で殺し、略奪行為などで荒稼ぎを行う。
 だが、事ここまで至れば、私がクレスト優位になる様に介入する必要はない。むしろ戦場に戦力が集中している今、国内の治安維持の方が重要だ。
 キサラギのように大きな国土、生産力で安定した国や、ミラージュのように国内の結束力が強いわけでもないクレストは、小さな内乱でも大事になる可能性がある。
 なら私のすべきことはクレスト国内における不穏分子、治安を乱す荒くれ者達の排除だ。
「私は当面の間は、山賊退治などをしようと考えている。お前はどうするつもりだ?」
「ああ、ワシはこの街の自警団と契約してるからな。まぁ保安騎士の真似事だ」
 自警団、保安騎士とは別に一般人が集まり、自分達の町を守っている。どうしても保安騎士より弱いというイメージが一般的に広まっているが、田舎町では案外そうでもない。国が重要拠点として考えている街と比べれば、どうしても騎士の質が良くないからだ。
 この町は街道も整備され始め、物資流通の拠点として後々有望な町だが、戦時である今優秀な騎士が配属されることは当分先なのだろう。
 そんな風に考えていると、一度テーブルに視線を落としたモルドが口を開いた。
「なぁ、聞こうと思ってたんだが、アレスはなんで――」
「はい、ご注文の品です」
 モルドの言葉を遮って、ラナがテーブルに料理を置く。
「おはようございます、アレスさん」
「ああ、おはよう」
 少しはにかんだ顔で挨拶をするラナに、私は無難に返事をする。その時極力不自然にならないように、私はラナの顔を観察した。どうやら昨日の件で不機嫌に見えたのは気のせいだったようだ。
「あの、昨日はすいません。お詫びと言ってはなんですが、今日の朝食代は結構ですので…」
「マジで!ラッキー!!」
 拳を握りガッツポーズをするモルド。
 ラナの表情が固まり、冷たい視線がゆっくりとモルドに向けられる。
「いや、あんたのは有料だから」
「アホか!昨日の一件で一番迷惑被ったのはワシだろうが!!」
「そんなのこっちが迷惑料欲しいくらいよ」
 二人は言い合いを始め、私はそれを見詰めた。
 そこには、遠慮も、敬意も無い。これが人間同士の、親しい者同士のコミュニケーションなのだろうか。いまいち私には判断ができない。
「まったく、お前のせいでアレスに呆れられてるじゃねーか!!」
「誰のせいよ、誰の!!」
「二人とも、仲がいいな」
「「誰が!?」」
 二人の声がハモる。息がぴったりだ。
 やはり、この二人は観察対象として申し分ないらしい。
 ラナは私の顔を一度見てから、モルドに向き直って睨みつけると、そのまま奥へ引っ込んでしまった。
「なんだってんだ…」
 そう言いながら椅子に腰かけたモルドは、何故か気落ちしているように見える。
「どうした?体調でも悪くなったのか?」
 私のその言葉に、モルドはジト目で私を睨みつけると、大きなため息を吐いて席を立った。
「なんでもねぇよ」
「そうか」
「ああ」
 そう言ってモルドは店を出る。外に出るドアを開け、そこで立ち止まって振り返らずにモルドは口を開く。
「負けねぇからな」
 それだけ言うと、モルドは外へゆっくり歩いて行った。
 その後、私は朝食を食べながらモルドの言葉の意味を考えたものの、結局結論には至らず、よりコミュニケーション方法の理解が必要であることを実感することとなった。

       

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