Neetel Inside 文芸新都
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千文字前後掌編小説集
ドッペルゲンガーの話

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 幼稚園一学期終業式の日の話。

 家に帰って昼ごはんを食べてから、ココ(上の子)はすぐにでも遊びに行きたがったが、外は37℃やら38℃やらの猛暑であるし、私もここ最近連日仕事で遅くなっているし、妻も育児で疲れているしで、みんなで一度お昼寝して、夕方から公園や買い物に出かけよう、ということになった。案の定、健三郎(下の子)も離乳食を食べてすぐに眠り始めた。

 しかし妻は洗い物や洗濯物、トイレ掃除など出来ていないのが気がかりだったようで、あまりぐっすり眠れずに、一足早く起き出したのだという。すると、皆で同じ部屋に寝ていたのに、トイレの電気がついており、誰かが中にいるのだ。驚き声をあげるよりも先にトイレのドアが開き、出てきたのは妻自身だったという。妻と妻が顔を見合わせた後、トイレから出てきた方の妻が「洗い物とかもやっといたから」と言い、すっと消えたという。確かに溜まっていた洗濯物も洗い物もトイレ掃除もきれいに片付いていたという。

 話を聞いた私は「ただの夢だよ。寝ぼけていただけだよ。本当は寝る前に家事を片付けていて、寝ている間にそのことを忘れてしまっていた。起きて片付いていることにびっくりして、もう一人の自分が寝ないで起きていて家事をしてくれていた、という思い込みから、もう一人の自分を幻影で作り出した、という夢だよ。そろそろ子供たちも起き出すよ。雨は大丈夫かな。寝ぼけていただけだよ。外はまだ暑いかな。買い物は何がいるんだっけ。おむつと離乳食とディズニーランドかな。寝ている間に忘れてしまったんだよ。明日も遅くなると思う。いわゆるドッペルゲンガーというやつだね。自分の幻だよ。健三郎の目が開いてるよ。ミルクとディズニーランド作らないとね。公園に行ったら雪だるまを作ろう。何せこんなに暑いから」と妻に説明した後トイレに行った。

 という話をたった今起きた私は妻に聞かされた。支離滅裂な説明をしていた私を追って私はトイレに入ったがもう私はいなかった。

(了)

       

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