Neetel Inside ニートノベル
表紙

超能力者派遣会社サイキックカンパニー
第二話「ネコミミをマニアックだと思わないその思考がマニアックだと僕は思う」

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「気持ち悪っ。ほんまにこいつなん? ルイちゃん」
 少年の純真な(?)妄想を蔑む言葉に別の少女の少しおっとりとした声が答えた。
「たぶんそうだよ。『みえる』から」
 二人の少女の会話はあきらかにケイをさした話で、けれどケイには言っていることはわからなかった。しかし、そんなことはどうでもよく、振り返って少女の顔を見た。勘が声の主たちが美少女だと告げていた。
 こういうことにたいしては非凡な才能を発揮するケイだからその予想通り二人の少女はかわいいといえた。
 ひとりはロングヘアーで女の子らしいおしとやかな印象を与えた。おそらくこちらがルイと呼ばれた少女だろう。
 もうひとりは外ハネのショートカットで一見つんけんとした様子だがフリルのミニスカートなんか履いている。そのギャップはケイの胸を高鳴らせた。もうひとつ彼が気づいたのは二人の顔がよく似ていることだった。
 ケイと少女たちの立ち位置はやや離れていたにも関わらず、いつのまにか彼はルイの手を握っていた。そのうえ「いい顔」を作って口説くのだ。
「お嬢さん。一目見た瞬間、僕はあなたの虜になりました。あなたのことを知りたい。どうですか? ご一緒にお茶でも」
 この男、これで大真面目である。
「え? えと?」
 いきなりのことにルイは眉を垂れ下げうろたえるだけで対応できない。見ず知らずの男にいきなり口説かれて対応しろというのが無理な話だ。
 ルイが抵抗しないのをいいことにケイは調子にのる。唇を付き出して強引にキスを迫るのだ。
 そのふしだらな男の後頭部にスパーンと快音。もう一人の少女のスナップの効いた平手が直撃だ。
「なーにすんのじゃ! あほう」
「それはこっちのセリフや! ルイちゃん嫌がっとるやないけ!」
「抵抗せんのじゃ! 了承言うことじゃろうが!」
「どないな頭してんねや! ケダモノ! 野獣! 変態!」
 一触即発。交差する視線のまん中で火花が散る。そんな二人のすぐ脇でルイは今にも泣きそうな顔でおろおろするしかなかった。
 ショートカットの少女がルイの方へ振り返る。彼女は憤慨した様子で言った。
「ルイちゃん、帰ろ! こないな連れ帰っても意味ないわ」
 話の意味もわからないのにケイは彼女を煽るように「帰れ、帰れ」と怒鳴っている。
 しかし、意外にもルイが難色を示した。襲われそうになったというのに世の中には奇特な少女もいるものだ。
 ルイの態度に納得のいかないショートカットの少女は反論する。それでもルイは意志を曲げなかった。
「ランちゃん。どうしてもって言うなら先帰っててもいいよ?」
「そういうことちゃうやろ!」
「あんまりわがままいっちゃだめ。お仕事なんだから」
 ルイは小さな子どもをしかるような仕草で外ハネショート――ランをたしなめた。
 ケイといきなり喧嘩になったあたりランの気が強いことは証明されている。だからもっと強い態度ででるのかと思いきやランはあっさりと折れてしまった。じっとルイを見つめたあとため息すらついた。
「……わかった。はあ、ほんまルイちゃんにはかなわんわ」
 一見するとおっとりしていて抜けてそうなルイも意外に芯がまっすぐ立っているらしかった。
 ランが納得してくれたのでルイは胸元で手のひらをあわせて嬉しそうな笑顔をつくった。
 ひとり無視されているケイは茶トラの猫に相手をしてもらっていた。不憫な男だ。
 ランはケイへ振り返った。その顔は苦虫でも噛み潰したようだった。ルイのために折れたとはいえいやなものはいやだしきらいなものはきらいだ。目の前の男は見れば見るほど軽薄そうな顔をしている。ならばそういう顔になるのも仕方がなかった。むしろケイのせいでこんな顔をしなければならない彼が悪いという超理論までランの中で展開していた。
「あのう。お名前教えていただけますか?」
 一歩前に出てルイがケイに訊いた。
 すると彼は。
「教えたらデートしてくれるけ?」
 なんてとんちんかんなことを言いだした。
「え、えーと。デートはちょっと」
 笑顔は崩していないもののやっぱり困っていた。
「ちょっとなんね? なんならいい? 住所? 電話番号? メルアド? 携帯持ってないけどさあ」
 といまどきの若者らしからぬことを言った。
「えと、私も名前を教えるってのはどうですか? だめですか?」
「鳥谷ケイです。お嬢さん」
 間髪入れずにケイは答えていた。
「まあ。いい名前ですね。タカシちゃんと呼んでも?」
「なんでや! 関係ないやろ!」
「はあ。嫌なんですか? じゃあケーちゃんと呼びますね」
 ルイはなにがだめなのか本気でわからないと言った風だった。しかし、なんの警戒もなく親しげに呼ぶそれが彼女の性格を物語っているといえなくもない。
 ニコニコしながらケイはどこかから取り出したメモ帳とえんぴつを持っている。えんぴつの先をぺろりとなめる。
「それできみの名前は?」
「私、箕田ルイと言います。こっちは妹のランちゃん。双子なんですよ」
 どうりで似ているはずだと納得しつつ二人の名前をメモする。案外アナクロな男だ。
「ルイちゃんか。かわいいきみにぴったりの名前だな」とここまではいいのだが。
「それで誕生日は? スリーサイズは? 下着の色は?」なんて調子にのって言い出すからまーた後頭部に痛い思いをするはめになる。快音が響いて、ランのほうもどこから取り出したのか手にはハリセン。
「おまえなあ!」
「あんたがしょーもないこと言うからやろ!」
 またまたいがみ合う二人の間に今度は割って入るルイ。二人の胸元を押しのける。
「まあまあ、ふたりとも。おはなしが進まないから ね?」
 そう言われたら反論のしようがない。
 ランは額に手を当てて、天を仰いた。
「まどっろこしいのはイヤゆうよりあんんたみたいなのとべらべら話したないから単刀直入に言わせてもらうけどなあ」
 ケイはヘラヘラした顔で話の腰を折る。
「のわりにはけっこうおしゃべりだと思うけど」
「ランちゃんて小学生の男の子みたいな性格なのね」
 くすくすと笑いルイは楽しそうだった。ついさっき話が進まないと言ったわりにはこうゆーこと言い出すから真面目なようでそればっかりというわけでもないらしい。
 そういう不真面目さはケイと波長が合うらしく二人して楽しそうにランをからかう。
「好きな女の子にいじわるしちゃう心理ってやつか。わからんなあ、俺には」
「いわゆるひとつのツンデレってやつよね。最近はやりの」
「まあ、俺ほどの美男子を前にしたらそうしたくなるのもわからんでもないが」
「あら。ケーちゃん言うほどかっこよくないわ」
「うぐっ。言うことは言うなあ、ルイちゃんも。双子揃ってキツい性格しとる」
「ふふ。でも、ケーちゃんくらいの顔なら浮気の心配とかしなくてすみそうね」
 なーんて少しうつむいてルイが意味ありげにつぶやけば勘ぐってくださいと言っているようなものだ。
「だめだ! ルイちゃん。きみのようなかわいいこがそんな男と付き合っちゃあ! そうだ! はやくそんなと別れて俺と付き合うべきだ。そうしよう!」
 ま、確かに浮気するような男は最低だ。ホント。マジで。
 だけどそれで付き合うのが女好きのケイじゃあ状況は変わらない。というか悪化している。この男に浮気するなと言ったって複数の女の子に愛を振りまくことが悪いことだなんて思っちゃいないし、それが自分の使命だとすら勘違いしている男だから無理な話だ(本当にイケメンでもないのにすごい勘違いだ)。
 ルイはケロッと舌を出していたずらな笑みを浮かべた。
「冗談です。私まだ男の子とお付き合いとか興味ありませんから」
「はっ! まさか」と邪推するケイの先回りをしてルイが言った。
「だからって女の子がすきなわけじゃあありませんよ」
 なぜかケイは嬉しいような悲しいような複雑な顔をしていた。
「えー、コホン」
 と、まー、わざとらしい咳払いが楽しそうに話すケイとルイの雑談を断ち切った。言えば更なりランだ。微笑の中に微小な怒りをたたえていた。
「ふたりとも言いたい放題やったな。ええ? だーれがツンデレや! うちがあんたに惚れとる? 冗談やないで、ほんまにもーいわしたろか思うたわ! そやけど話も進まんくなるやろ。せやから黙っとたけど……って、ルイちゃんが言うとったんやないか! ほんましょーもなしにぺちゃくちゃしゃべってえ!」
 どっちがぺちゃくちゃだとつっこみたくなるほど、しかしそんなつっこみをはさむすきもないほど矢継ぎ早に話すのでケイたちは黙っているほかなかった。
「ええか? こんどこそだまってよおく聞いとくんやで!」
 ランの顔は真剣でさすがに大マジな雰囲気が伝わってケイもごくりとつばを飲み込んだ。
「うちと一緒になりぃ」
 ポカーンと大口開けてままのケイ。簡潔すぎて意味が分からないというのもそうだが、とんだ勘違いをしていた。
「お義姉さん」とルイに呼びかける。
「あら。気が早くてよ」
「でもこれはツンデレ言うよりデレデレですぜ」
「そうねえ。いくら一緒にいたいからってランちゃんってだいたん」
 顔を真赤にしてランが弁解する。とうぜんプロポーズなわけがない。まあ、こんなギャグともつかないおはなしで真面目なお話しようとするから「一緒にきぃ」と「仲間になりぃ」がごっちゃになって恥をかかされたわけだ。
「ちゃ、ちゃうねん! まちごうたんや」
「照れんでええわ! 今すぐ一緒になろうね、ランちゃーん」
 性懲りも無くランに飛びつくケイ。その顔面に拳一撃。照れ隠しでもなんでもなく本気の嫌悪がこもったその一撃。「ぶへら」とかっこうのつかない断末魔を残し、キランと光ってケイは星になったのだった。
「しもた! どないしよ」
 帰らぬ人としてしまいさすがに後悔するラン。
「心配しなくてもおっぱいもませてくれたら生き返りまっせ」
「ほんまに? って、なんでおんねん!」
 いつのまにかケイはランの後ろに立っていた。しかも傷一つなく平気な顔をしている。
「うちに今殴られて飛んでったやんけ」
「そんなもん『お約束』っちゅーもんじゃ。なあ?」とルイに同意を求めると彼女も首肯した。
「はじめからそないなこと言うたら少年漫画みたくサイキックバトルストーリー展開できひんやん」
「ないない。そんなもんはない。わしが主人公のハーレムラブコメじゃもん」と、またケイはルイに同意を求めたが今度は首をかしげられた。
「ハーレムかは知らないですけど大真面目なおはなしにはならないでしょうねえ」
「そないな風に頭から否定されると『押すなよ、絶対押すなよ』言われてる気分やわ」
 まあ、今後の展開はさておいて問題は今。ながながぐだぐだとやってきたがルイ、ランの姉妹はなんのためにケイに会いに来たのか。
 
 その答えはまた次回。

       

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Neetsha