母「だから言ってるでしょ。勇者なんていないんだって……」
ソウ「そんなことないもん!父さんは、勇者はいるって言ってたもん!」
母「いい、ソウ。勇者なんて、いないのよ!」
「何度でも言うわ。勇者は、いないの」
ソウ「いるもんいるもんいるもんっ!」
母「勇者がいたら、父さん、死ななかったんだよ!」
「でも、父さん、魔物にやられちゃって死んじゃったじゃない!」
「勇者を探しに行くから、後は頼むっていったって」
「いないもの探しに行ったってしょうがないじゃない!!」
ソウ「うわーーーーーーん」
母「いい、ソウ。あなたは勉強して、高官になるのよ」
「魔物との戦いは、勇者がいるって思ってる人達でやればいいの」
「家族の平和も守れないような人が、世界の平和なんて守れる訳ないじゃない!」
「あなたは高官になって、勇者がいるって思ってる人達を見守っていけばいいのよ」
「それが、残された私の最後の役目なの」
ソウ「でも、でも、幼ちゃんの父さんも魔物に殺されちゃったんだよ?」
母「そうね……とても辛いことよね……」
「でも、残されたたった一つの宝物のあなたを失ったら母さん、生きていけないの」
「それは、幼ちゃんの母さんも一緒なのよ?」
ソウ「うん……わかった……」
母「それにね、勇者がいたとしても、あいつは倒せないわ」
「父さんの胸の傷、見たでしょ?」
「あんな大きい穴、いったいどうやって開けたというの?」
「きっと勇者でも倒せないほどの魔物なのよ」
「恐ろしい魔物なの」
ソウ「……うん……」
母「もう一度言うわね、ソウ」
「勇者なんて、いないのよ……」
幼「ソウちゃーん」ギュッ
ソウ「あ、幼ちゃーん」
幼「ウグッウグッ」ギュッ
ソウ「幼ちゃん、泣かないで?僕も泣きたくなっちゃうよ?」
幼「ヒグッヒグッ」
ソウ「……ッッック……ヒック」
幼・ソウ「うえええええええーーーーーーんん」
「うわーーーーーーん」
母「ソウ!幼ちゃん!」ギュギュッ
「大丈夫よ、まだ母さんたちがいるわ」
「あなたたちは、母さんたちが守ってあげるからね」
「ごめんね……ごめんねっ!!」ウグッウグッ
ソウがまだ6歳のころの、とある初夏、夕暮れのことだった――