Neetel Inside ニートノベル
表紙

勇者なんかいない
士官編

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母「おはよう、起きなさい、ソウ」
「今日からあなたは16歳、王様にお仕えする日でしょ?」
「無事に高官の試験に一発で受かるなんて、流石母さんと父さんの息子ね」

ソウ「ん…おはよー」

母「さっさと起きて顔洗ってらっしゃい」
「朝食、食べて行きなさいね」

ソウ「んー」ムクッゴソゴソゴソ

母「今日はあなたのデビューの日だから、母さん、はりきっちゃった」

ソウ「んー」モグモグモグ

母「どう?おいしい?」
「あら、あなた寝癖ついてるわ」
「ちゃんと髪とかしてから王宮に行くのよ?」

ソウ「んー」モグモグモグ

母「あれから10年ねー……あっという間だったわぁ」

ソウ「……んー……」ゴクリ
「母さん、今までありがとう」

母「あらっ!何よこのコったら」

ソウ「父さんの分まで、僕、頑張るからね」

母「なーにいってんのよっ」
「まずはちゃんと働いてからそういう偉そうなこといいなさいよ」
「お給料の金貨、貰ってから」ガチャッ

幼「ちょっとソウ!起きてるー??」
「今日から士官でしょー??」

母「あらっ幼ちゃん、おはよう」

幼「おはようございます、おばさま」
「ちょっとソウ、何してんのー早く呑み込んでよー」

ソウ「……あいかわらずうるさいなー幼」

幼「なによー心配してきてるんでしょうが!」
「ソウはいっつも夜遅くまで起きてて朝寝坊が大得意になっちゃったんでしょ!」

ソウ「それは、僕が勉強してるからで」

幼「いいから早く食べちゃいなさいよ―」
「あー、もう、寝癖ついたままじゃんかよー」
「おばさま、くし、貸して下さいね~」グシグシグシ

ソウ「いてっ!!!」

幼「ほらーじっとしててよー」

母「幼ちゃん、いつもありがとねー」

幼「いえいえ、いいんですよこのくらいー」

ソウ「いててててて」ゴックン……グッ
「ンンンンンン」

幼「はい、これ」

ソウ「んぐっんぐっ」ゴクリ
「ぷはー死ぬかと思ったー」

幼「もーホントに落ち着きがないんだからー」

ソウ「そ、それは幼が髪の毛引っ張るからー」

幼「あ、食べ終わったわねーじゃあ、おばさま、いってきまーす」

母「気をつけるのよ―」
「幼ちゃん、あなたも今日から准士官だものね」
「またソウのこと、王宮でも宜しくお願いね?」

幼「もちろん、任せて下さいっ!」

ソウ「ちょ、か、かってにきめんなよー」

幼「ほら、大事なメガネ、忘れてるわよ」

ソウ「わーってるって」スチャッ

幼「おばさま、いってきまーす」

ソウ「んじゃーいってくるから」

母「あ、ちょっと二人とも、そこに並んでみて」
「立派になったわね~」
「幼ちゃんの方が、ちょっとおっきいみたいねー」
「数時間違いで生まれてきたのにね―」
「ふふふっ」
「カカア殿下が見え見えねっ」

幼「ちょ、ちょっと、おばさまったら!」

ヨウ「な、なにいってんだよ母さん!」

母「冗談よ、冗談」
「ほら、早くいってらっしゃい」

幼・ソウ「行ってきまーす」スタスタスタ

――王宮

幼「おはようございまーす」

兵士「おう、おはよう」
「今日からの入官予定か?」

幼「はいっ本日付で准士官としてお世話になります」
「幼といいます」
「宜しくお願いします!」
「で、こっちが本日付で士官としてお世話になる」

ソウ「ヒョ、ソウといいます」
「よ、よろしくおねがいします」ブルブル

兵士「何だお前、自分で挨拶もできないのか?」
「なよなよしない、びっとたてぃ!!」

ソウ「ふぁ、ふぁいっ!」

兵士「よし、では二名ともついてまいれ」
「王宮に案内しよう」
「それから……よくぞ入官してくれた」
「ようこそ、王宮所属の官達よ!!」
「君たちは非戦闘要員ではあるが、王国を守る立派な官だ」
「これから、よろしく頼む」

幼・ソウ「は、はいっ」

――16歳の誕生日、王宮に使える日のことだった

     

兵士「んでこっちが応接の間で」
「あっちの廊下の突き当たりが書庫だ」
「士官は自由に読んでいいぞ」
「そのソファに座ると良い」
「ふかふかで気持ちが良いんだよな」

幼・ソウ「へー」

兵士「まぁ、時にはサボるのも仕事の内だ」

幼・ソウ「は、はい」

兵士「よし、着いたぞ」
「ここが王の間だ」
「ここから先は、あそこにいる高士官が案内してくれる」
「しかしお前ら、いつまでくっついて歩いてんだ」
「ここから先は玉座、無礼をすると」

幼「は、はいっ!大丈夫です!心得ておりますですっ!」
「御案内、ありがとうございました」

ソウ「あ、ありがとございました」

兵士「ふん、まぁいい」ジロリッ
「おい、幼といったか……ふぅん」

幼「な、なにか?」

兵士「いや、何でもない」
「さぁ、王がお待ちかねだ」
「行くがよい」

高士官「やあ、よくきたね」
「ようこそ、王宮の士官へ」

幼・ソウ「はじめまして」

高士官「うん、うん」
「君たちのことはよく知っているよ」
「10年前の勇者探索の旅で、二人とも、父上を亡くしているね?」

幼・ソウ「えっなぜそれを」

高士官「あの探索隊の中に、私もいたんだ」
「かつて私も戦闘官でね、魔物と戦っていたんだよ」
「だがあの日、とてつもない凶暴な魔物が現れてね」
「ほら、見てご覧」ブルブル

幼「腕が……」

高士官「君たちの父上は亡くなられたが、私は幸いにも腕一本失っただけで生き延びることができたのだ」
「君たちはまだ知らないだろうね」
「あの日、何が起こったのかを」

ソウ「いえ、大体のことは知っております!」
「10年前の勇者探索は誰の命令でどこに行く予定、パーティは誰だったか、誰が編成したのか、どんな魔物達にやられたのか」

高士官「ソウ君、流石だな」
「わが国で最も若く高官の試験に受かっただけのことはある」
「君があと10年も士官として勤めれば高士官にもすぐになれるだろう」
「だが……恐怖は歴史の文字に書き表すことなど不可能なのだよ」
「知りたくないのか?本当の歴史を」

ソウ「本当の……歴史?」

幼「何……それ?」

高士官「あの日……我々は勇者が誕生するといわれている北の大陸に向けて船を出していたのだ」
「大陸が見え、上陸した我々はすぐに魔物の群にぶち当たり、戦った」
「我々もちょっとやそっとじゃ倒れない、勇敢なものばかりであったからなぁ」
「その魔物の集団を殲滅しようとした時、だった」
「空が真黒になり、上空から大きな槍を抱えた魔物が下りてきたのだ」
「その魔物はこういった」
「時期勇者が生まれるだろう、だが、勇者は俺様がぶち殺す!勇者など居なくなるのだ、探すだけ無駄な事よ!」
「その時、ソウの父親は大きな槍の魔物に切りかかったのだ」
「もちろん幼の父親も援護呪文を唱えておったし」
「私も攻撃態勢をとり、二段構えの攻撃であった」
「だがその時、魔物は瞬時に突進してきて大きな槍で私たち3人を貫いたのだ」
「そして我々をあっという間に串刺しになった私たちは皆半殺しになった」
「それから私は気を失ったのだ」
「気が付いたら腕から流れる血に群がった小さい魔物達が私の腕を喰いつくしている痛みで目が覚めた」
「全員魔物に食い散らかされていた」
「私は最後の力を振り絞り、閃光呪文を唱え、小さな魔物たちを怯ませた隙に帰回道具を使用して皆の死体とともにこの国へ戻ることができた」
「私たちも修業を積んでそれなりに強くなった」
「現にそこらの魔物になどやられるようなことなどなかった」
「それが一匹のとてつもない魔物に全滅させられたのだ」
「恐らく魔王はその魔物なんかよりもずっと強いだろう」
「もちろん勇者は我々なんかよりもはるかに強いだろうが」
「所詮……人間の力なんか……程度が知れてるんだ」
「それから私は高官になり、戦闘から身を引いた」
「まぁ片腕しかない戦士など何の意味もないがな」
「わかったかい?あの日、なにが起こったのか
「勇者なんかいてもいなくても、どっちでもいい」
「できるだけ、この命を、長く使いたいんだ」
「死んでいった、彼らの分までね」

ソウ「じゃあ……父さんは、犬死にしたっていうんですかっ!!」

幼「ちょっと、ソウ!」

高士官「そうはいわないよ」
「君の父上は立派に戦って亡くなったんだ」
「相手が異常に強かっただけだよ」
「もちろん、幼ちゃんの父上も、ね」

幼「あたしは!……あたしは……よく、わかりません」
「10年前は6歳だったし、よく覚えてません」
「ただ、今は士官として頑張って、お母さんを楽させてあげたいです」

高士官「うん、今はそれでいいと思う」
「さあ、二人とも、王が待ってる」
「玉座に案内するよ」

幼「はい」

ソウ「……」
(違う、父さんは犬死になんかしないんだ)
(勇者はいたんだ、それを探しに行った父さんは嘘つきでもないし)
(弱虫でもない)
(ただ、実力がなかっただけ??)
(もうちょっとで勇者に会えたかもしれないのに)
(その大きい槍をもつ魔物にさえ出会わなかったら良かったのに)
(結局、運が悪かっただけなのかなぁ)

幼「何考えこんでるの?」
「ほら、もう王様に会うんだからね」
「少なくても、今から士官になるあたしたちには」
「勇者を探すことよりも重要な仕事がいっぱいあるんだからねっ」ギギギー

高士官「王、これが本日付で我が国の士官となる者達です」

王「よく来てくれた」
「わが王国の為に十分に働いてくれることを期待しておるぞ」
「それから、そなたたちの父上は誠に残念であったな」
「父親の分まで、我が国につかえてくれることを切に願っておる」

幼・ソウ「はいっ」

高士官「では王、これで」
「さがってよいぞ」

ソウ(1人の魔物に国自慢の戦力が壊滅させられて自信がないだけなんだ)
(この国自体延命させることにシフトチェンジしているみたいだ)
(じゃないとこんなに士官を募集するとは考えられない)

幼「この後って、何するんですか??」

高士官「うん、それぞれ仕事を教えていくからね」
「君は私について回るんだ」
「色々教えていくよ」
「幼ちゃんは、先ほどここまで案内してくれた兵士がいるだろ?彼にまずはついて回るんだ」

幼「えーあの人ですかぁ???」

高士官「はっはっはっ」
「准士官は非戦闘要員ではあるけど戦闘要員のことを熟知してなくてはいけないからねぇ」
「さ、ここからは別行動だよ?」

ソウ「宜しくお願いします」

幼「はぁい」

兵士「王に挨拶は済んだのか?」

高士官「では、この娘をよろしくおねがいしますよ」

兵士「はっ分かりました!!」

幼「お、おねがいしまぁす」

兵士「お、おう!宜しくな」ニヤニヤジロジロ

ソウ(こいつ、幼のこと、見過ぎだろ)

     

高士官「よし、ではまずは君は書庫へ行ってもらおう」
「書庫の本をラベル通りに並べ替えるんだ」
「ラベルがない場合はちゃんと作って張るんだよ、いいね?」
「だいたいのことはよく書庫にいる老人に聞けば教えてくれる」

ソウ「はい」
(まぁ下っ端だから当然だな)

老人「若いの、新入りか?」

ソウ「はい、ソウといいます。宜しくお願いします」

高士官「じゃ、老人さん、お任せしますよ」

老人「まーったく、隠居だと思って碌な扱いせんわい」
「ほれ、ちゃんとならべるんじゃぞ」

ソウ「って老人さん、ちゃんと戻して下さいよー」

老人「それが君の仕事じゃろうに」

ソウ「全く、こんなことは自分でやって下さいよー」

老人「ソウ、といったかな」

ソウ「はぁ?」

老人「君は10年前に死んだあの勇者探索隊の息子だろう」

ソウ「御存じなんですか?」

老人「そりゃあ君のように本ばかり読んどるからのぉ」
「こんな話を知っておるか」
「勇者と導者、5人そろえば闇を打ち消し光が現れ」
「光が勇者と導者を闇に変える」

ソウ「??なんですか、それ?」

老人「古い言い伝えじゃよ」
「この書庫のどこかにそれが書かれた本が眠っておる」
「まずはそれを自分の目で見つけることじゃな」
「これが士官の初めの仕事じゃ」

ソウ「あ、はいっ」
(そうか、それなりの情報がここには埋まっているんだ)
(やりがい、ありそうだな)

老人「では、ワシは帰る」
「ぼちぼちゆっくりでええ、ここの書物、全部あさる気でいればええ」

ソウ「はい、ありがとうございます」
(よーし、じゃ左上からいくかな)
(うーん、立って読むのだるいなぁ)
(あ、居心地のいいソファがあるっていってたな)
(あそこで読むことにしよう)ゴトッゴトッドサッ
(ふー)
(誰もいないから寝そべって読もうか……)
(士官って楽だなー)
(こんなことしてて報酬貰えるなんて)
(……ホントにこれで、いいのかなぁ)
(父さん達が命をかけて戦ったのに、僕はソファで読書)
(何か、間違ってるよ)

――

幼「兵士さーん、ここどこですかー?」

兵士「ま、その、なんだ」
「訓練所だ」

幼「だってここ、野外ですよ?」
「お城の裏って森になってて、魔物でるじゃないですかー」

兵士「だから訓練所だといってるだろ」
「これからお前を鍛える」ドン

幼「きゃっいったーい」ギュ
「私の肩から、手、どけて下さい」

兵士「嫌だと言ったら?」ギュギュッ

幼「きゃ、ちょっと!痛い!やめてー!!!!」

――

(ヤメテー)

ソウ(??今の声は??)
(幼??)
(声はどこから……城の裏手……森の方だ)
(幼っ!魔物に襲われたのかっ??)
(待ってろ!幼っ)ダダッ

兵士「よく見ると、お前、可愛い顔してんな」
「俺の女にしてやる」
「あんなひょろひょろのガキにはもったいねえぜ」ギュッ

幼「イタッ!ちょ!!やめろーっ!!」バキッビシッ
「あんたなんかに好き勝手やられるくらいなら」
「士官なんてやめて戦闘要員の兵士になるわ!」
「もちろん、あんたを倒してねっ!」

兵士「ほう……あの体勢から膝と肘の連撃か」
「やはり、なかなかやるな」
「士官にしとくのがもったいない」
「俺が訓練してやるか!!!」

ソウ「早動呪文っ!」ガサッ
「幼、大丈夫か?」

幼「ソウ!!いったーい」
「ちょっと!どこ触ってんのよ!」
「もっと早く助けに来なさいよね!」

ソウ「ごめんごめん、ちょっと寝てたみたいだ」
「でも」
「今ので身体はあったまったよ!!」

兵士「この野郎!兵士の俺に喧嘩売るとはいい度胸じゃねえか!!」
「貴様、ぼこぼこにしてくれるわっ!!」ドガッ

ソウ(木に喰いこむほどの攻撃力か……流石、戦士だな)
「幼、離れてて」

幼「ダメ、私も戦うわ!」

ソウ「うん、だから、ちょっと離れてて!」
「援護はタイミングを見計らってしてもらうから」

幼「分かった!」

兵士「何をちょこまかと!」
「早動呪文の効き目は熟練者ならば数分は持つが貴様程度ならばもう効き目も切れているころだろう」

ソウ(この兵士、自信過剰なだけあって知識も凄い)
(けど、それを悪用するなんて許さないっ!)
「いけっ回転刃呪文っ!!」シュバッ

兵士「ぬん!!見え見えだ!」ヒュッ
「次ははずさぬっ」ボゴッ

幼「次も喰らいたい??」ガシャッ

兵士「く……飛び道具か……ボウガンの改良とみた」
「が……その程度の殺傷能力では俺は止められんぞっ」
「くらえぃ!」ドヒュッ
「グ……が……ああ……」ドサッ

幼「さっき避けた回転刃呪文ね!ブーメランみたい!」

ソウ「うん。戻ってくるのとこいつが避ける方向を考えて放ったんだ、一応」

幼「すごーい!たまにはやるわね~」

ソウ「えへへっまあね」

「コラーッ!!なにをしておる!!」

ソウ(あ、やべー高士官だ)

高士官「何事か、これは」

幼「私が兵士に襲われそうになったんです」
「肩を掴まれて、俺の女になれ、と」
「これがその証拠です」グイッ

高士官「いや、な、なんと!みせんでもよい!」
「兵士をひったてい!!」
「しかしよくぞ二人で兵士を倒せたな」
「この者は我が国でも10の指に入るほどの兵ぞ」

幼「私とソウの二人で戦いました」
「私たちは、父親を亡くしてから少しでも強くなりたいと思って、自分たちで修行して参りました」

高士官「そうか……だがもうそなた達は士官だ」
「そのような力は無意味」

ソウ「いや、それは違う!!」
「確かに僕たちは士官です」
「でも、士官が戦っちゃいけないなんて決まりはないはずです!」
「確かに力はないし」
「まだ三つしか呪文使えないし」
「一人じゃ何にもできないけど」
「僕と幼は戦えます!!!!」

幼「ソウ」グスッ
「ソウの言うとおりです!」
「私達、戦えます!!」

ソウ「幼」

幼「うん」

ソウ「僕達は」

幼・ソウ「戦いたいです!!」

高士官「何を言ってる!君たちは」

王「良いではないか!!」

高士官「王っ!」

王「悪者を懲らしめ、更に戦えるという若者を縛り付ける術など、ない」
「ソウ、幼、十分に戦ってきなさい!」
「そなた達は今から我が国の兵士です!!」

ソウ「は、はい!」

幼「ありがとうございます!」

     

ソウ「母さん、ごめん初日からへましちゃった」

母「え?へまって何しちゃったの?まさか」

ソウ「兵士倒しちゃった」

母「あんたって子は……んとにもう、母さん、知ってるんだからね」
「あんたと幼ちゃん、毎日毎日村の外の広場でこっそり戦いごっこしてただろ」
「父さんが亡くなってから、毎日毎日」
「あんた、勉強できたから何にも言わなかったけど」
「母さんね、ちょっぴり嬉しかった」
「さあ、疲れたでしょ?もう寝なさい」
「あんた明日から兵士になるんでしょ?体力回復しとかなきゃ」
「ただでさえ人よりも体力ないんだから」
「それに幼ちゃんだって」

ソウ「あーもう、わかったわかったよ」
「おやすみ」タッタッタッ
(母さん、知ってたのか)ゴソゴソゴソ
(何か、嬉しいな)……グーグー

――

母「ソウ、起きなさい、幼ちゃん着てるわよ―」

ソウ「……んー」ゴソゴソゴソ

幼「ソウ、おはよー」

ソウ「んー」
(幼、元気ないな)

幼「今日、お城、いくよねー?」
「昨日あんなことになっちゃったからさ、なんか足が重いのよね」

ソウ「うん、わかる」

幼「でも、もうなっちゃったもんはしょうがないっか!」
「さ、さっさと行くわよ―」

ソウ「おー」ボリボリボリ

――
幼「でもさ、昨日、ソウが助けてくれてよかった」
「私一人だと倒せなかったかもね」
「ありがと」

ソウ「んー、うん……」

幼「でも今日から兵士かぁ」
「いったい何するんだろうね??」
「あーでも士官の方が楽だったのかもー」
「ちょっと失敗しちゃったかな」

高士官「おはよう」

幼・ソウ「お、おはようございます!」

幼「あ、あの、昨日は」

高士官「早速だが、本日の任務を命ずる」

ソウ「え?」

幼「は、はい」

高士官「この島の南端に洞窟があるのを知っているな?」
「その南端の洞窟の最下層にこの国に伝わる光草が生えているんだ」

ソウ「光草って、あの夜でもほんのり発光するっていうこの国の特産品で他国へも輸出してるというあれですか?」

幼「あ、あの高っいやつだー」

高士官「そう」
「入手が困難なため、高価で売買されているんだ」
「あの光草は我が国にとって重要な商品でもあり、素材でもある」
「だが、南端の洞窟には魔物が出るため、簡単には採りには行けない」
「そこで、兵士が依頼されて採集に行っていた、という訳さ」

幼「じゃ、じゃあ他のベテランの兵士さんに行ってもらった方が良いんじゃないですか??」
「私たちじゃ役不足で」

高士官「君達が昨日のしてしまったあの兵士が光草採取任務に就いていたんだ」

ソウ「え……」

幼「うそ……」

高士官「それに、君たちの実力を見るのにもうってつけだしね」
「君たちは戦えるといったんだ」
「どの位戦えるか見せてもらおう」

幼「そ、そんな、だってあれは」グイッ

ソウ「分かりました!南端の洞窟へ行って光草を採って参ります!!」

高士官「よし、ではここに旅の支度を簡単だが用意した」ドサッ
「これを持っていくがよい」
「光草は最下層のどこかにある」
「場所の特定はできん」
「毎年生える場所が変わるからね」
「じゃあ、健闘を祈るよ」

ソウ「了解です!」
「では、行って参ります」テクテクテク

幼「ちょっとー、大丈夫なのー??」

ソウ「心配ないって」
「この辺の魔物ならきっと僕たちで何とかできるよ」
「それに」
「昨日の兵士が採取できてたくらいだ」
「僕たちにだってできるさ」
「もう、後戻りはできないんだ!」

     

ソウ「ここが入り口みたいだね」

幼「うん」

ソウ「じゃあ、いくよ?」

幼「ゆっくりにしてね?」
「怖いから……」

ソウ「うん」ゴクリ
「たいまつ、貴重だから大事に使おうね」ザッザッザッシュボッ
「幼?」

幼「待って!……手、繋いでもい?」

ソウ「うん……」ギュッ
(暗くてひんやりして磯のにおいがするな)スタスタスタ

幼「ひゃっ!」ビクッ

ソウ「どうしたの??」

幼「首になんか冷たいのがかかった……」

ソウ「あちこちから水滴が垂れてきてるからね」
「気にしたら負けだよ、先へ進もう」スタスタスタ

幼「あ、あそこ、動いてるよ?」

ソウ「うん……でたな」
「魔物だ」スッ
「幼、準備は良い?」

幼「うん……任せて」ゴクリッ

ソウ「いくよっ!!」ブン

幼「ふっ!!」チャッドフッ

魔物「ぷぎゃあああああああああ」ドタッ

ソウ「ふぅ」
「高士官に貰った手頃な棒だけど、結構使えそうだ」

幼「あたしも、ボウガンの矢いっぱい貰ったし、ナイフも貰ったわ」

ソウ「何が起こるか分からないから、なるべく体力は温存していこう」

幼「うん、分かった」スタスタスタスタ

――

ソウ「ここが、最下層みたいだ」
「潮の音が聞こえる」

幼「そうね、洞窟の通路が明るくなってきたわ」

ソウ「魔物も結構出てきてたから、さっさと採取して帰ろう」

ドンッ!!!!

魔物「グガガガガガガガガアアアアアアア」」

ソウ「でかい!来るぞ!」

幼「先手必勝ね!」スチャッドカッ
「温存してた強化ボウガンの矢を喰らいなさいっ!」ドフッドフッ

ソウ「早動呪文っ!」スッ
「えいっ!」ボゴッ

魔物「グガガ」ザシッ

幼「きゃっ!」ドカッ

ソウ「幼、大丈夫か?」
「回復呪文っ」ポウ

幼「ありがと」
「もうソウの呪文使えるの、一、二回でしょ」
「あいつの外皮硬いからこっちの攻撃なんて全然効かないみたいね」

ソウ「うん、僕の攻撃なんて尻尾にクリーンヒットしたのにびくともしなかった」

幼「来るわ、とりあえずバラけましょ」ダッ

ソウ「うん!」ダダッ

魔物「ゴガガガガガガガガガーーーーーー」ブバァァァッァァァァ

ソウ「こいつ、火を吐くっ??」ダダッ

幼「なにこれ、ヤバくない??」ダダッ

ソウ「幼、一か所にボウガン撃ちまくるんだ」
「逃げ回ってボウガン連射」
「僕があいつの気を引くからその隙に装填して!!」

幼「了ー解」ガシャッガシャッ

ソウ「こっちだー!喰らえー」ドゴッ

魔物「ガガー」ブンッ

ソウ「尻尾に集中すれば背後から攻撃できる!」
「幼っ!尻尾の付け根だ!」ドゴッ

幼「いっくわよー!」ドフッドフッドフッ

魔物「ガガガガガガーーーーー」ブバァァァッァァァァ

幼「危な……あつっ!!」ドサッ

ソウ「喰らえー!!!!」ドゴッ
「もう一発だー」ブンッ

幼「ソウ、危ない!!」

ソウ「えっ?」ドゴァッバキキッ
「うわぁーーー!!」ドフッ
「げほっげほっ……い……息が」ゴフッ

幼「ソウー!!」ダッ

魔物「グガガガガガガーーーーー」ブバァァァッァァァァ

幼「きゃああああーーーーー」バリバリバリバリプスプス
「あ……熱い……」ドタッ

ソウ「お、幼っ」ズリズリズリ
「今、助けるよっ」ハァハァ
「か、回復呪文っ」ポワァ

幼「げほっげほっ」
「ソウ、何で?自分にかけなさいよっ!」

ソウ「幼、ごめんね……僕のせいで」ゴフッ

幼「ちょ、ちょっと、しっかりしなさいよ」
「肺の毛細血管が切れただけでしょ?」ギュッ

ソウ「簡単に言うなよ……結構苦しいんだよ」ゴフッゴフッ

幼「あたし、まだ戦える!」
「あいつの尻尾の付け根、ぶよぶよになってるから」
「集中して攻撃してみるね!!」ダダッ

魔物「グガガガガガーーーー」ブン

幼「くっ、当たるもんですか」
「喰らいなさいっ!」ドガガガガッ
「次はナイフで!!!」ザシッ

魔物「グガガガガーーーー」ドウン

幼「やった!尻尾が使い物にならなくなったわ!!」
「ねえ、ソウ、みてみて!」クルッ

ソウ「幼、危ないっ!」

幼「えっ??」バキッ
「きゃあああああ」ドカッ

ソウ「幼ー!!」

魔物「グガガガガーーーー」ドスッ

ソウ「く……やられるっ!」
(こんなとこで死ぬのか……)
(父さん達の仇を取る前に)
(こんな奴に倒されてしまうのか……)
(僕らはなんて無力で弱いんだ)
(糞……糞っ!)
「くっそおおおおおおおお!!」ダッ
「魔物っ!まだ僕は生きてるぞっ!」
「喰らえー!」ダッ
「螺旋刃呪文っ!!!」ドガガガガガガガァァァァッ

魔物「グガガガーーーーーー」ドタッ

ソウ「やった……」ドタッ
「ふぅ……」
「何とか土壇場だけど新しい呪文、使えたぞ」
(でも、もう手が震えて身体中ぼろぼろだ)

魔物「グガガガガガガガガーーーーー」ドスッ

ソウ「え……まだ動けるのかっ??」
「くっ……」
(ここまでか……)
(こんなところで死んでしまうんだ……)
(母さん、ごめん)
(父さん、勇者、見つける旅に出る前に)
(僕は死んでしまうんだ……)
(やっぱり、勇者なんていないんだ……)
(いないんだよ……)

魔物「グガガガガガーーー」ブンッ

ソウ「うわああああーーーー!!!!」

「ふんっ!!!!!」ドカッ

ソウ「え……?????」

高士官「ふーっ、間に合ったようだなー!!」

ソウ「高士官さん」

高士官「ひよっこどもがどうなってるか気になってねー」
「ついつい来てしまったんだよー」
「折角のあいつらの忘れ形見に死なれちゃ困るしね」
「ソウ、幼、無事でよかった」
「さーて、腕は一本だけど」
「君達がこいつに大ダメージを与えてくれたおかげで」
「片手一本で済みそうだよっ!!!!」ダダッブンッ!!!!

魔物「グガガガーーーー……」ドンッ!

ソウ(つ、強い……)
(僕らが弱すぎるのか)
(でも……)
(高士官さんは勇者じゃなくても……)
(僕にとって勇者だよ!!!)
(父さん、勇者、いたよ……)

幼「く……ソウ……大丈夫??……こ、高士官さん??」

高士官「やあ、気がついたみたいだね」
「君達、よくやったよ」
「この魔物は年に一度しかこの洞窟に来ることはないんだ」
「もちろんその前後はこの洞窟に光草を取るのを禁止している」
「でも、昨日のどたばたが合ったせいでね」
「ちょっと忘れてしまっていたようだ」
「ま、連絡不行事項ってことでねー」
「それにしても、よくこいつ相手にここまで戦ったねー」
「こいつはこの辺では相手にならないクラスの魔物だよ」
「とても強いんだ」
「だから君たちも善戦した方だよ」

ソウ「え……?」

幼「ひどーい!私達、死にかけたんですよー!!」

高士官「まぁまぁ、試験は合格だよ」
「さあ、早く光草を採って来るんだ」
「ほら、そこに生えてるだろ?」
「城に戻ったら、まず休息することを勧めるよ」

ソウ「あ、は、はい」

幼「んもー」

高士官「よく、頑張ったね!!」
(お前達の子供たちは、立派になってるぞ!!)

     

ソウ「これが光草か」

幼「綺麗ねー」

高士官「そうだよ、それが僕らの国の源さ」
「それがあって外貨を稼げるんだ」
「他にこれといって資源もない国だからね」
「さぁ、さっさと採集してしまおう」

ソウ「ん?なんだこれ?」キラッ

幼「ん?なぁに?」テクテク

高士官「おお、それは滅多に見つけることが出来ない光草の種だよ」
「きっとさっきの魔物はこれを目当てにここへ来ていたんだろう」
「君達の戦利品だ、採っておきなさい」
「ホントは王に献上しなければいけないけど、内緒だよ?」

ソウ「ありがとうございます!」キラッ

幼「綺麗ね~光が閉じ込められてるみたい」

高士官「よし、もう十分採ったね?じゃあ戻ろうか」
「みんな、こっちへ」
「脱出呪文!」ブワワッ

ソウ「……っうわっ眩しいっ」

幼「っんー!外っていいわねー!」
「一時はどうなる事かと思ったわ!」

高士官「さあ、城に戻ろう」テクテクテクテク

――

ソウ「ただいまー」ガチャッ

母「おかえりっって!あんた、何その怪我!」

ソウ「うん、ちょっとね」

母「ちょっとって!もーこれだからあんたは」

ソウ「母さん、きっと、勇者はいるよ」

母「そんなことより幼ちゃんは大丈夫だったの?」
「あんた気をつけなさいよー」
「幼ちゃんは女の子なんだからねー」

ソウ「分かってるって!」
「母さん、勇者は、いるんだよ!」
「絶対に、僕が見つけてみせる!」

母「そうね、きっといるわね」
「父さんが命をかけて探してたんだもの」
「きっと、いるわ」
「いてくれなきゃ、困る」
「我が家の男はみんな夢中だものね」

ソウ「母さん……」

母「さ、早く休みなさい」

ソウ「うん……」

母「どうせ、旅に出るんでしょ?」

ソウ「え?まだ何も聞いていないけど」

母「いいの!男の子なんだから、折角だから外へ出てみなさい」
「世界は広いんだから」
「勇者が見つかんなくったって、帰ってきて士官になればいいじゃない」

ソウ「うん……ありがとう、母さん」

母「おやすみ」バタンッ

ソウ(母さん……こうなるの、分かってたのかな)
(うっ、痛い……戦いの後ってこんなにも苦しいんだ……)
(あー、凄く眠いや……)グーグーグーグー

――

幼「ソウ、おきてるー?」ガチャ

母「あら、幼ちゃん、怪我の具合はどう?」

幼「おばさま、おはようございます」
「平気ですよー」

母「ソウも幼ちゃんも丸一日寝てたんだもんねー」
「きっと、壮絶な旅だったんでしょう?」

幼「いえいえ、大したことありません」
「あー昨日お城に行くのさぼっちゃったから行きたくないなぁー」

母「なーに言ってんの!あなた達が帰ってきていきなり寝ちゃった後、お城の人たちがわざわざお礼を言いに来てたの、知らないの?」

幼「へ?そうなんですか?」

母「あなた達が頑張ったから、無理に起こすことはしないでほしい、目が覚めて城に来れるようになってから城に来いと伝えてくれ、って言われてるのよ」

幼「あー、お母さん、何にも言ってなかったなぁ」

ソウ「んー」

幼「あーソウ、起きたー?おはよー」

ソウ「幼?……怪我、大丈夫?」

幼「うん、平気」
「ソウは?」
「どこも痛くないの?」

ソウ「んー、分かんないけど」
「とりあえず、何ともないみたい」

幼「ソウ、良かったー」

母「幼ちゃんも旅にでるんでしょ?」
「気をつけてね」

幼「へ?旅?あたしが?」

母「きっと、王様が旅立ちの許可をくださるわ」
「だって、あなた達は10年前の探索隊の子孫ですもの」

幼「んー、勇者を探す旅かー」
「あたしは正直、勇者とかどうでもいいなぁ」
「でもソウが危なっかしいから、面倒見なきゃね」

母「幼ちゃん、ソウのこと、宜しくお願いね」

幼「はいっ!なにがあってもソウをおばさまの前に連れて帰ってきます!」

ソウ「幼、いいのか?もう帰ってこれないかもしれないんだよ?」

幼「何言ってんのよ!今の聞いてたー?連れて帰ってきますって約束したじゃない」

ソウ「幼……」

幼「さて、ソウ、王様に会いに行きましょう!」

ソウ「うん!」スタスタスタスタ

――

王「さて、今旅のソウと幼の活躍、御苦労であった」
「高士官からよく聞いておるぞ」
「ソウと幼は10年前の勇者探索隊の子供たちであったな」
「無理にとは言わんが、どうする?父親の後を継いで、勇者探索の旅にでるか?」

ソウ「はいっ!」

幼「あ、あたしもですっ!」

王「よろしい、即答だな」
「では今からそなた等二人に特別指令、勇者探索を命ずる!」
「よいな、無事帰ってくるのだぞ?」

幼・ソウ「はいっ!」

高士官「王様、実は私からも一つお願いがございます」

王「ん?なんじゃ?」

高士官「私も彼らとともに勇者探索の旅に出とうございます」
「つきましては、高士官の任を解いていただきたく存じます」

王「なぜじゃ?」

高士官「彼らだけではやはり実力がなさすぎます」
「先日の南端の洞窟の一件、私がいなかったら彼らは死んでいたでしょう」
「折角旅立つ彼らがみすみす死ぬと分かっていながら送りだすのもおかしな話」
「私が道中鍛える、というのはどうでしょうか」

王「ふぅむ……」

ソウ「高士官さんっ!」

幼「やったねーソウ!高士官さんが来てくれるなら余裕だよぉ!」

高士官「それに、私は本来あの旅で朽ちていく身でした」
「それがおめおめと今まで生き残ったことは、あいつらの子供たちをしっかりと育てろとの神の導きと思っております」
「王様、どうかお許し下さい」

王「ん、よかろう」
「二人のこと、宜しく頼んだぞ」

高士官「ははっありがとうございます!」

幼・ソウ「宜しくお願いします!」

高士官「よし、びしばし鍛えるからねー」

幼「ええ~そんなぁ」

王「では改めて三人に命ずる」
「勇者探索の旅に出て、勇者を探して参るのだ!」

高士官・幼・ソウ「はいっ!」

       

表紙

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