Neetel Inside ニートノベル
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カスタムロボOriginalNovell
08『トップ・シークレット』

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 ホロセウムは豪邸の庭。ガンマ・レイとベルは、バラ園の中心で向かい合っている。形は、波紋の様に広がる花壇がいくつも並んだ豪勢な物。ベルは、まず俺の方に突っ込んで来るのではなく、左に向かって走り出した。
 リトルスプリンターの速さは、初見の俺には驚異的だ。もう見失った。
 しかし、俺は成長しているのだ。先ほどカトレアさんからベルの説明があった時、確実にスピードで勝負になると踏んで、ガンはガトリングにしてある。
 こいつなら、スピードのなさをカバーできるはずだ。
 花壇の隙間をベルが走り抜けるのが見え、ベルに向かってガトリングを連射する。しかし、まったく当たらない。一瞬で花壇の陰に隠れられたからだ。やはりスピードが段違い過ぎて、目視できているかも怪しい。
 そうこうしている内、足音が近づいてきた。おいおい。どこにいるのかさっぱりだ。
「こちらですわ」
 その声がどこから響いてきたのかはまったくわからなかった。が、俺は反射的に、後ろを向いた。そこに、ガンを構えるベルがいた。バックステップで距離を取る。そも、ガンだからあまり意味はないのだが、近くにいるよりはマシだと、そう思ったのだろう。
 放たれたガンからは、五匹ほどの蜂が飛び出し、ゆっくりとこちらに迫ってくる。これくらい、横にステップするだけで躱せる、なんて思っていたら、その蜂はこちらについてきて、モロに全弾喰らうハメになった。
「ぐぇッ――!」
 まるでトラックに撥ねられたみたいにぶっ飛ばされ、バラの花壇に背中を任せることになってしまった。ロボなので、トゲとかは別に痛くないが。
 立ち上がろうとしたときには、目の前まで蜂がやってきていた。
「やべぇ!」
 さっきはサイドステップでダメだったのだから、今度はジャンプだ。と、ぎりぎりまで引き寄せてからジャンプするが、俺の真上に落とされていたポッドに頭をぶつけ、爆発。
 まんまと罠にハマった、というような塩梅で、またぶっ飛ばされた。

  ■

 結果から、というより、結果しかないのだけれど。もちろん俺の惨敗だった。躱してはボムやポッドで足止めされ、結局ガンを当てられてしまうのだ。一発も攻撃を当てることができなかった。自分のカスタマイズへの理解、相手の戦略の読み。すべてが一流だ。確かに、これならカリンさんと同レベルだというのも伺える。カリンさんとやったあの時より、俺だって多少は強くなっているはずだからな。
 俺はヘルメットを外し、ホロセウムの端っこに引っ掛け、ガンマ・レイを回収する。カトレアさんはベルを回収し、キューブに戻すと、髪を掻き上げ、ホロセウムの傍らに置かれていたパソコンのような機械に向かう。キーボードを叩き、画面を見つめていると、なぜか驚いた様に目を見開き、カリンさんへ鼻を向ける。
「……なるほど。カリンさんの目も、あながち節穴ではなかった、ということですわね」
「でしょ?」
 二人はなぜか、俺を置いてけぼりで笑い合っているが、一体なんの話をしているんだろう。俺にも多少の説明が欲しい。
 そんな思いが顔に出ていたのか、カリンさんは、ポケットから初対面の時にいじっていた黒いケータイ電話らしき物を取り出した。
「この機械、覚えてる?」
 その問いに頷く俺。あの出来事は、印象的すぎて忘れられそうにない。
「これね、コマンダーの精神力を測る機械なのよ」
「精神力ぅ?」
 精神力って、心の力的なあれだよな。そんなものまで測れる様になったのか。すごいな。カスタムロボとかある時点で、世の中進歩したなーとかは思っていたが。
「一応、説明するけど」そこで口を開いたのは、なぜかミズキだった。「精神力っていうのは、人間の心の力とかじゃないわ。簡単に言うと、人間の脳に流れる電気信号の総称。それが強いと、遠距離や長時間などのダイブによる負担が減ったり、ロボの動きがよくなったりとかがある。――まあ、電池の電圧みたいなものね」
「ふーん。詳しいわね、ミズキちゃん」
 にっこりと笑い、ミズキの顔を覗き込むカリンさん。まだミズキの素顔を見てないから、気になっているのだろうか。
「まあとにかく」ミズキの素顔を諦めたのか、わざとらしい咳払いで、話に戻る。
「セイジくんはね、その精神力が人並みはずれて強いのよ」
「ほ?」
 え、全然ピンと来ない。俺そんな伏線張ってたっけ。
「それは、私も証明しますわ」とカトレアさん。「今、詳細なデータを取らせてもらいましたけど、確かに強いですわね。カリンさんも、人を観る目はあったようですわ。ARプロジェクトには、才能あるコマンダーが必要不可欠ですものね」
「え? ARプロジェクトって――確か、頓挫しちゃったんじゃなかったでしたっけ?」
 俺はカリンさんから聞かされた話を思い出していた。初対面の時、確かに言っていた。事情があって頓挫し、そのプロジェクトで作ったアルファ・レイをもらってきたのだと。
「あら。カリンさん、まだ話してなかったんですのね」
 目を細め、どこか咎めるように言うカトレアさん。そんな視線を躱すように、カリンさんは首を傾げる。
「こういうことって、社長から言うべきじゃない?」
 ふう、とやわらかそうな唇の隙間からため息を吐くと、カトレアさんは腕を組み、ゆっくりと喋り始めた。
「ARプロジェクト。正式名称、『アルティメット・レイ計画』事の始まりは半年前、訊いたことのない企業から外注が入った事がきっかけでした。究極のレイを作る、というその企画に、私は大人気ない話、ワクワクしてしまいました。カリンさんを企画担当に抜擢し、今までのレイシリーズを改良。そして、できた試作型がアルファ・レイでした。ガンマ・レイとベータ・レイは、その時設計図段階でしたの。後は、才能あるコマンダーに使ってもらい、データを取って、さらに改良していけば、いつか究極のレイに近づく。――はずだったのですが、どうも我が社に、企業スパイがいるらしいことがわかったんですの。アルファ・レイ達が狙われているとわかり、私は、ARプロジェクトを頓挫させた振りをして、カリンさんと秘密裏に進めていたんですの。セイジさんを、テストコマンダーに添えて」
「ちなみに」カリンさんがカトレアさんの隣に並ぶ。「セイジくんと初めて会った時、私を追っかけてきてたのが、その企業スパイの仲間らしいのよ」
「逃げられてしまって、誰が企業スパイなのか、知ることはできませんでしたけど」
「俺、なにしたらいいんですか?」
 自然、そんな言葉を口走っていた。それを聞いて、面食らったらしいカリンさんは、俺の肩を掴んで微笑む。
「なにもしなくていいわ。アルファ・レイを使って、負けないでいてくれれば」
 ――まあ、確かに、企業スパイ云々なんて、中学生の俺には何もできない問題ではあるが。
「負けないで、と言えば。セイジさん?」
「はい?」
 デスクに戻っていくカトレアさんが、毛先を弄りながら言う。
「あなた、次回のアヴァロンに出場するんでしたわね? もう他の出場選手は見ました?」
「いや、まだ……」
 そもそも、本当に出場するかも怪しい程なのだ。まだサンデーマッチで優勝した、という実感すら沸いていない。
「今回のアヴァロン、レベル高いですわよ。現在決定しているだけでも、期待のツインズ『サリー&エリー』を筆頭に、アイドルコマンダー『ユリエ』やタクマ塾幹部の『ナナセ』など。少なくとも、セイジさんの今の腕では、優勝は無理でしょうね」
 まあ、全国だし。そりゃあ、まあ。ほとんど記念に出るみたいなものだ。
「……それで、提案なのですが、セイジさん? 私が手ほどきして差し上げましょうか?」
 にやりと、怪しく笑うカトレアさん。
 その微笑みはまるで、食虫植物のような、蠱惑めいた笑みだった。

       

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