昨日の酒が少し残った頭で新宿行きの電車に乗ってそこから乗り換えを考える。クリスマスだというのに電車の中は合いも変わらず満員で、私はiphoneのボリュームを上げた。塞ぎきった耳の中に熱いハードロックが流れる。
今から高校時の友達宅に向かう。高校の時に仲良かった女三人は一人が現役で合格して東京に来て、後を追うように私ともう一人が合格して東京に来た。浪人してばらばらになってしまったのは結局一年間だけで、三人とも東京に揃う事になった。そして今日、クリスマス当日に私達は女三人で集まろうとしている。
はっきり言って、大学一年はよくわからなくて、環境に慣れるのに必死で、入ったサークルも人見知りをひた隠して続けた。昨日もサークルで飲み会があって、独り身万歳とか訳のわからないことを叫ぶ先輩と共に飲み明かした。私も流石にクリスマスくらいは恋人と過ごしたかったのだが、怖くてセックスを断った私に腹を立てたのか、あまりにも優柔不断な私に嫌気が指したのか、とりあえずわからないけれど二ヶ月前に振られてしまって独り身だ。
新宿で乗り換えてあと一時間近く電車に揺られる。三人共揃って、あまりにも大学の居心地とは違いすぎて私達は三人で遊びまくった。映画を見たり、ディズニーに行ったり、カラオケをしたり、クラブに行ったり、各自の文化祭を巡ったり、合コンをしたり。三人共特に成果を上げる事の無かった合コンは、私達の中でただ飯という行事になった。男にただでご飯をおごってもらう会。
友達の家の最寄り駅で待ち合わせをして、改札を出る前に一人に会って、二人でもう一人を待った。もう一人は遅れること一分くらいで来てくれて、三人で近くのスーパーに向かう。ここでクリスマスのための買出しをするのだ。
一人はコンサバ系でギャルが入った感じで、この寒いのにミニスカだった。それが家主で現役でうかった子の中川美香、私達の間ではミカだ。もう一人は長い睫を揺らしたナチュラル系でワンピースで、ファー付きの可愛らしいコートと手袋に耳あてという完全防備、それが一人だけ理系の香取奈津、私達の間ではナツ様だ。私は古着の小汚い格好で、マフラーとダッフルコートとアームウォーマーで着膨れしている。私は松尾優だからまっちゃんと呼ばれている。皆、雰囲気は違っていたけれどそれでも三人並ぶと酷く落ち着いた。
「どうしよっか、まずケーキ?」
「スーパーとケーキ屋どっちが家に近いの?」
「スーパーかな」
「じゃあケーキ持ってスーパーだね」
近くで人気のケーキ屋にクリスマスケーキを予約しておいて、三人でスーパーで買出しをしてミカの家にしけ込む予定だ。こたつでまったりとクリスマスを過ごす予定。
「私、先輩が手料理のチキン?何か鳥の中に色々詰め込んだやつくれたから持ってきたよ」
「何で作れんの!?凄いなナツ様の先輩!男でしょ?」
「うん」
「私もシャンパンとか昨日の残りの酒貰ったから持ってきた」
「まっちゃん昨日も飲み?」
「うん、サークルってそういうのダルイよね」
「いいじゃん、私なんか徹夜明けだよ」
疲労しているように見えない綺麗な顔をしたナツ様が笑う。会話は全然途切れずにケーキ屋に辿りついて、注文のケーキを貰う。箱が意外に大きくて、三人で完食目指そうと笑った。ケーキ屋の棚にはケーキの箱が積まれていて、私達以外にも家族連れやカップルが来ていて、女三人は少し場違いな空気を感じる。男三人の方が場違いかもと思っていると、ミカが知り合いが居たみたいで知らない人と話していた。
「男連れですな、ナツ様」
「そうね、リア充爆発しろ」
「いやいや、ミカの友達だから」
「じゃあぐっと抑えとく」
戻ってきたミカを迎えて、私達二人もその人に笑顔で会釈をする。こう言うと変だが、ナツ様の作り笑顔は本当に作ったかのように綺麗で、憧れている。
それから三人でスーパーに行って好きな物をカゴに入れ込む。普段優柔不断な私だが、この三人でいると好き放題に出来るから自分の意思がしっかりする。中華風サラダとクラブサンドとポテトと惣菜三品詰め合わせとお茶と氷を買って、家に行こうとする。
「あれ、ここコールドストーン出来たんだ?」
「結構前からあるよ」
「懐かしー、あれ歌われて三人でパニくったよね!」
「ホント衝撃だったわ、あれはメイド喫茶の最後に私の愛も、って言われた以来だわ」
「あれやばいよね、笑っていいのかどーなのか」
「笑っちゃダメでしょ、三人で固まっちゃって申し訳無かったよ」
「田舎出身で三人共もさかったしねー」
ミカの家に着いて、お邪魔しますと言いながらブーツを脱ぐ。玄関は色々な靴で溢れていて、私達は空いているど真ん中にブーツを置いた。部屋は暖房が効いていて暖かく、こたつの上に買って来た物を置いて全員でこたつに潜り込んだ。ミカはくつろいで良いよ、私もくつろぐと立ち上がって、出て行った。私とナツ様はコートを脱いでスーパーで買ってきたものを広げだした。ナツ様が勝手にキッチンからグラスと皿を持ってきて、私は酒とお茶と氷を冷蔵庫に仕舞った。こたつの上は色々な物がごっちゃになっていて、食べきれるかなと思う。洗面台でミカが顔を洗っていたから、勝手にしてるよーと言うと、うん、と短い返事が来た。ナツ様は電子レンジでチキンを温めている。
ケーキも広げて、豪華に盛られたこたつの上をナツ様と二人で携帯やデジカメで撮ったりした。洗面台から戻ってきたミカはすっぴんで、スエット姿になっていた。
「顔違うわー、うちらはそれ見慣れてるけどさ」
「そんなに違うかな、あ、次使いたかったらどうぞ」
「後でいいやー、ね、それより乾杯しよう!」
私が誘うと皆でシャンパンを注いで乾杯と言った後に、ミカがケーキの蝋燭に気付いた。ナツ様がライターを持っていたから、三人で箱の中に入っている蝋燭を全部立てて、何歌えばいいんだよーと笑いあって消した。
「あれナツ様吸うんだっけ?」
「大学入ってからね、煙草高くて自分じゃ買わないけど」
「まっちゃんも吸う?うち灰皿無いけど」
「私は浪人時代で卒業したよ、もう禁煙一年くらい」
「私は中学で卒業」
「早ぇー」
二人で大笑いしていると、ミカが立ち上がった。キッチンから包丁を持ってきて、三等分をしたけれど、その大きさに無理を感じて、更に二等分して、六等分になった。
「三等分難しかったのに……」
「まぁかわいそうにー」
「絶対思ってねー」
三人で笑いながらシャンパンを飲んでケーキと惣菜を食べた。チキンが凄く美味しくて、先輩凄いねーと笑った。
「ケーキマジ旨っ!!」
「やばーい、シャンパンで酔ってきたー」
「あのね、二人に見せたいDVDがあってさ。出来ればハマってもらいたい」
会話が成立していないけれど、それも楽しい。ミカは後ろの本棚からDVDを取り出して、セットをする。少し小さめのテレビ画面に映像が映って、UGLY BETTYの文字が目に入る。
「アグリーベティー?何、ガチ可哀想な題名じゃん」
「あー私これ知ってるー、前渋谷で見た!」
「すっごい面白いの、シーズン4で終わっちゃったし、4は面白くないけど、それまで最高だから!!ファッションが凄いキュートだしさ!」
ミカがリモコンをいじって、本編がスタートする。凄い衣装を着た主人公のベティーが出来てきて、笑いながら、飲み食いをする。
「ブランド名とかモロ出していいんだー」
「何か、眠くなってきた、徹夜明けに酒キツイわ」
「ちょ、ナツ様寝ないで、私ナツ様と彼氏の話聞きたいんだけど!!」
「彼氏?ああ、別れた別れた、あいつ九州行くんだってー」
「え!!ちょっと聞いてねー!!別れたの!?」
「明日話すー、おやすみー」
ナツ様そう言ってこたつ布団にもぐった。私達の起きろーとか、化粧落とさないのーという言葉は完全無視して眠りについた。ミカと二人で笑いあって、テレビを見た。確かに中々面白い。ミカが言うようにファッションもキュートだし。ただ、時代を感じてしまうけれど。一緒に見ていたミカは残りのケーキを片付けると、ラップを持ってきてこたつの上に置いた。
「私もちょっと寝る、あれだったらラップかけといて」
「マジか、ベッド行けば?」
「ちょっとだからー、ああ、もし寝たかったらあれ布団だから」
ミカも同じくこたつ布団にもぐって目を閉じた。何だよーと思いながら、ミカ側にあったリモコンを手にとる。友達が二人とも寝ているけれど、こんなに心地いい時間は無いなと笑いが漏れた。画面のアグリーベティーも家族と笑っていて、私は温くなったシャンパンをあおった。