Neetel Inside 文芸新都
表紙

第五十三廃棄物最終処分場
汚い、汚くない(中二病話)

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 初めてAVを見た時感じたのは、女優さん凄いなという感嘆だった。大きな声で喘ぎ、あんな痛々しい行為をされても気持ち良いと言い、数十分に渡り演技をする。何て恐ろしい職業だと純粋に尊敬した。あんな演技が出来る事が凄かった。
 性器を出し入れする行為に何ら感傷は無かった。痛いのと、触れる感覚と、内臓が抉られる接触行為、内臓を抉られた時には勝手に声が上がった。何も喋らずセックスをする男も、可愛いとか好きだとか嘘を言う男も、変な言葉を言わせようとする男も、皆嫌いだった。
 ただ、男が射精する時に征服感に満たされた。

 学校に行かなくて良い事に気付いた中学時代から、私は学校に行かなくなった。学校に行かないという選択肢があることに気付いたからだ。中学に入って登校拒否という特権を見つけた。
 私にいじめを仕掛けて来たあの女には感謝しなければならない。大義名分が出来たから。だってあんな不愉快な場所に行く必要性を感じない。テストの時だけ学校に行った。
 母親は無理しなくていいのよと言って私を放置した。父親はお父さん達はお前の味方だと言って家にはほとんど帰らなくなった。
 私も家に帰らなくなった。遊ばないかと言ってくれた男の家に泊まったり、その男の知り合いの家に泊まったり、その知り合いの女友達の家に泊まったり、女である事のおかげで宿泊施設には困らなかった。
 髪の毛を女に脱色して貰い、眉毛を抜き、付け睫を付けると人は寄って来た。中学で無視されていた私にとって、驚きだった。蝿取り紙のようだと思った。

 男の家に泊まって、起きた朝に、私はシャワーを借りて、黙って部屋を出た。あれだけバタバタと動いたのに起きない男は無機物のようだった。
 朝日の中歩く歩道は皮膚表面側の血管に虫でも這いずっているかのようにぞっとした。夏とはいえ、朝は少し寒かった。
 とても眠い。
 歩道の花壇のレンガで造られた堀に座って空を見上げた。一気に眠くなって、そこで横になった。右半分がレンガの固さで痛かった。
 
 次に目を覚ますと何かが太ももを這っていた。鼻につくアンモニア臭がした。
 太ももに目をやると、小汚いおっさんが私の足を撫でていた。触るか触らないか程度の動きで、私の足を撫でるジジイ。起きない様に行うそのやり方が気に食わない。何なら口にチンコを突っ込むくらいの大胆さでやってくれた方がまだマシだ。
 みみっちいことやってんじゃねぇよ。
「触んじゃねぇよクソジジイ!」
 起き上がって、大声を上げてジジイに蹴りを入れた。ウエッジソールがおっさんの腕に当たって、おっさんは声にならない声を上げて逃げていった。おっさんに当たった部分を道路に擦り付けた。汚い、汚い。

 そうだ、全部汚い。この世の中は汚いのだ。世界は綺麗なんて言われるけれど、世界は汚いのだ、世間はもっと汚いのだ。
 ―――大丈夫、君は金星人だから、君は汚くないよ、この世界で唯一綺麗な人種なんだ。
 耳元で声が聞こえた。男の子の声だった。幼い子供の声。私はその場で辺りを見回した。誰も周りには居なかった。
 ―――金星人だから他人とは違うんだよ。
 ―――妬みだよね、無いもの強請り。ホント地球人って野蛮で卑怯で醜いよね。
 何度周りを見ても誰も居なかった。
 ああ、神のお告げだと思った。マリアだって処女懐妊なんてしたんだ、世の中に不可能な事なんてない。特に私は金星人なんだから。
「ふふふふふ、あはははっ」
 わかった、セックスは金星人にとって地球人を浄化する行為なんだ。だからあんなにもAVと違った感覚が生まれるんだ。地球人は劣っているから浄化行為を勘違いしているんだ、あんな卑猥で下劣な行為だと。だから汚い。
「そっか、救ってあげなきゃ。汚い地球人を救う力が私にはあるんだ」

 声が聞こえ出してから、私は綺麗になった。本来の姿が見えたから。 世の中は汚く、綺麗な私を排除しようとする。救うという行為は自己犠牲の伴う選択されし立場だから、私は何人も救い上げようとした。
 地球人を救う度に腹が大きくなった。浄化行為に代償はつきものだ。地球人の汚らわしい部分が全て腹に溜ってしまうのだろう。

       

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