凛としてアナルファックピストルズ
凛としてアナルファックピストルズ(前)
今週末は彼とライブ。
これって…デートよね。
ま、今更そんな関係でもないよね。
ない…のかな・・・
†
どんな服が好きかな。
黒いゴシック、白いロリータ、
パンク、ジーンズ、ロック…?
彼はどんな服を選んでくるのだろう。
おシャレしてくるか、いつも通りか。
・・・
どんな音楽が好きなんだろう。
古い音楽、新しい音楽、実験的、王道、
ジャンルは…ロック?パンク?グランジ?
彼は。彼は。
・・・・・。
気の抜けた風船みたいに萎れていくベッドの上。
パソコンでもつけて新しい音楽でも漁ろうか。
変なバンドを見つけて、薀蓄を垂れてみれば…
彼は笑って褒めてくれるかな。
それとも不機嫌になるかな。
もしくは「ああ、そんなことは知ってるよ、それはね…」と、
新たな薀蓄を始めるかもね。
彼に会ったら、彼に言ったら、
彼はなんて答えてくるんだろう。
私をどう見てくるのだろう。
落ち着かない。寒い。
布団に入ってパソコンをいじくる。
動画サイトでは無限の音楽を検索できる。
客がメンバーより少ないようなバンド、
一人で1000人に向かって歌う人、色々いる。
私が知らない音楽がたくさんある。
漁って、漁って、朝になって…。
「わたしもバカだね」
数時間後。
もう眠たかった。
最後にその動画のリンクをクリックしたのはたまたまだった。
バンド名に惹かれたわけもない再生数が目を惹いたわけでもなかった。
ただちょっと…ほんのちょっと、サムネイルに映る人の横顔が、
知ってる人に似てる気がした。…それだけだった。
・・・・・
それは音楽インタビュー番組。
嫌に慣れなれしい男女のDJがアーティストを紹介し質問し
宣伝する下らないけどファンには貴重な情報源。
そんな感じの番組の録画。
『今晩紹介いたしますのは、インディーズながら東京では伝説的な人気を誇るも惜しくもそのまま解散したロックバンドXXXXの元ギタリスト・・・』
ヘッドホンを落とす。
落としても私には分かった。
多分きっと画面の向こうの男は、
私の知る声で、
いつも通りの調子で、
いつも通りに笑顔で、
多分きっと、
また、薀蓄を垂れている頃だろうと。
彼が!
「・・・騙したのね」
私は電源を抜いた。
灯りを消しベッドに臥す。
きっと眠れないと、分かってはいても。