凛としてアナルファックピストルズ
凛としてアナルファックピストルズ(中)
プレシジョンベースを始めて開発したのは1950年、フェンダー社のレオ・フェンダー。
プレシジョンは「正確な」という意味で、ベースで初めてフレットを打ちつけ、訓練を積んでいなくても正確な音程を発することができるようになった。
それまでのベースはいわゆるフレットレス(フレットがない)ベースで、まぁバイオリンを想像すればわかりやすい。正しい教育と訓練を長年重ねてようやく正確な音程を出せるものだった。
もともとベースと言えば今で言ういわゆる「アコースティック・ベース」で、コントラバスやアップライトベースのような、人の身長ほどある馬鹿でかい楽器で、縦に置いて演奏するものだった。
オーケストラなどで弓を使ってボーイングするものを「コントラバス」、
ジャズなんかで指で弾くものを「アップライトベース」なんて呼んでたりするが、
実はどちらも同じもので名称が違うだけだ。
日本ではウッドベースという呼び方もあるがこれは和製英語でこの呼び方は日本以外ではしない。
「今では素人が始めたい楽器候補としてエレキベースを挙げるものも多くなったね。
弦が4つしか無いから簡単そう、なんて言うけど笑ってしまう。
ベースほど難しい楽器もないと思うよ。
楽譜通りに弾けばいいと思ってるアマチュアが多すぎる。
ベースは奏者の指と感性がバンドの空間を支配する楽器だと思う。
時にメロディアスにファンキーに、
時に正確に、時にずれて、強く、優しく、堅く、柔らかく、
クールに、暖かく、レガートに、スタッカートに・・・」
「それを分かってる君のベースは最高さ」
待ち合わせの駅。
「言いたいことはそれだけ?」
「…分かってる。何も言うな、今日はライブを楽しもう」
「ふざけないで」
悲しそうな顔だ。
心の底にある水が零れそうな時、女性はいつもこういう顔をする。
「・・・隠してて悪かったよ」
「隠してた?騙してた、でしょ」
「そうだ。そうだね。僕は騙してた」
「あんたは最低」
「・・・」
「若くして音楽で成功して、ギターも弾けて技術もあって…」
「・・・」
「なんであなたが私とバンドしようとしないのかずっと分からなかった」
「・・・」
「出来るはずないものね!プロデビューが決まってたなんてね!
私みたいな下手くその素人を心の中で笑ってたんでしょ。
薀蓄垂れる相手が欲しかっただけ?お遊びの相手と一緒に音楽なんて…」
「凛…聞いてくれ」
「くたばれ…クソ野郎」
踵を返し去る彼女。
「・・・・・はぁ」
ライブ会場はもう人で溢れている。
入場を案内するスタッフのアナウンスが流れている。
空は灰色で雨が肌にあたった。
「ありきたりすぎるだろ…雨は」
アナルファックピストルズ、破局!?
どうなる僕らの運命や如何に。
ヤフオクで3万のチケットの行方は?
あの頃僕らは無名だった。
綺麗な君の名、僕だけに咲いて。
凛と咲いて。