その女はアリーネと名乗った。見た目の年齢は十四歳くらい。
からすの濡れ羽色とはこのことだと思わせる長くて黒い髪の毛。
美しく整った顔。
そしてなによりも一番印象に的だったのは、その顔の四分の一を覆い隠す眼帯だった。
「その目、怪我でもしたのか?」
「いや、怪我とかそういうわけで目を隠しているのではないんだよ」
「じゃあ、どうしてそんなにも大きな眼帯を?」
「ところで君は、なんと言う名前で歳はいくつなんだ?」
質問に質問で返された。どうやらアリーネはあまり眼帯の話はしたくないみたいだ。
そうだとしたら、もう聞くのはよそう。女の子の暗い顔はあまり見たくない。
「俺の名前は準一。歳は明後日で十四だ」
「!?・・・。まだ十四歳ではないのか!?」
歳を教えただけで、えらく驚いている。
「どうしてそんなに驚く?」
「ところで、準一はどうやってここに来たのだい?」
どうやら俺に質問権はないらしい。聞きたいことは山ほどあるのに。
「分からない。目が覚めたらここにいた」
「・・・そうか。だとしたら準一は寝ていたのかい?」
「ああ、そうだよ」
確かに俺は学校の授業が終わった後、すぐに家に帰って着替えもしないで寝た。
そして目が覚めたら暗闇のなかに居たのだった。
「ところで準一は」
「待ってくれ、俺も聞きたいことがある」
俺にも質問させてくれ。
「ははっ、ごめんよ。どうぞ何でも聞いてくれ」
「ここはどこなんだ?」
これは俺が一番聞きたかったことだ。そもそもここはどこなのか。
アリーネは家というからには家なのだとしても天井がない。そのかわりに、どこまでも続いていそうな
積み本がある。アリーネはまたははっと笑う。その笑顔は素敵すぎる。
「ここは私の家だ」
「それは知っている」
「準一が知りたいことは、この世界はなんなんだ、ということではないだろうか」
まさしくその通り。今は冬のはずなのに、ここは夏みたいに暑い。
暖房のかけすぎかなと思ったけれど、あたりを見回すとそれらしき家電がない。しかも窓が全快だ。
「質問を訂正する、この世界はなんなんだ?」
「この世界は君の夢だ」
は? 俺の夢?
「ごめん、私も訂正。君の夢というより十四歳の少年少女がみる夢だな」
まったくわけがわからん。
「君たちの世界では、準一のような人をこう呼ぶのだろう?」
アリーネの口から、はっきりとした言葉が聞こえた。
「中二病と」
俺の一番嫌いな単語だった。
「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
がばーと、勢いよく起き上がる。はぁはぁと、呼吸が乱れている。汗もびっしょりだ。
ふぅー、まさか夢の中でも中二病という単語を聞くとは思わなかった。
俺が、中二病と聞くだけでこんなにも不安定になるのには訳があった。
中学に入学し、学校生活を満喫していた俺は、段々と女の子に興味が湧いてきた。
いつしか俺はモテモテになりたいと思っていた。
しかしながら、イケメンではない俺。どうやったらモテるか検証してみたところ、
言葉遣いや思想をかっこよくすればいいのではないかと判断した。
結果、姉に「ちょwwおまww中二病ww乙w」といわれるまで友達に
「俺はこの世界を救ってみせる!」と言い続けていた。
今思うと、泣きたいくらい恥ずかしい台詞をよく堂々といえたもんだな。
本当に泣きそうになっていると、「準一~!ごはん!」と、無駄にやかましい声が聞こえてきた。
あくびをしながら部屋を出る。それにしても変な夢を見たな。夢にしてはすごくリアルで、
気温や相手の呼吸まで感じることができた。
できるのだったら、この夢はもう少し見ていたかった。そうそうあんな美少女、見れるもんじゃないしな。
もう一度、アリーネに会うことはできるのだろうか?