早く早く、負け犬の裏庭で
十九、二十歳の女子
あたしの隠しきれない傲慢さを見抜いて、暴いて、引きずり出して、陽の下に曝け出させて、それから耐えられないくらい優しい眼であたしの醜さを見つめて、哂って、蔑んで、あたしの居心地を最高に悪くして頂きたい。あたしの綺麗さを愛するのではなくて、あたしの醜さを偏執的に好んで欲しい。時にあたしを憎み、時にあたしの汚さを疎ましく思うといい。感情が全て神聖なものだなんて幻想は棄ててしまえ。肌の触れ合いの甘やかさは本能がトリガーを引いてるだけ。手を繋いだときにその胸に生まれる庇護欲は裏で支配本能に通じているんだ。優しく愛を囁く必要なんてない。罵りあいぶつかりあい、呪いの言葉を吐き血みどろになって肩で息をしながら、それでも黒い瞳をぎらぎらと輝かせてお互いを見つめている時に、愛を叫んで。この感情は所有欲に他ならないと悟りながらも脳がねじ切れそうになるくらいの強い本能に任せて叫んで。その言葉なら信じられるし、きっとそれはあたしの今まで聞いた中でもっとも綺麗で汚くて、もっとも神聖な言葉になる。
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今は全てにキスしたい。そういう気持ちはみっともなかったり醜いものだったりするのかしら。そこにあるのはただ全てへのひたむきな服従と崇拝であるわけだけど。ときどき地面にひれ伏して訳もなく泣いちゃいたくなるのはやっぱりあたしの頭がおかしいから? そうやっぱりあたしは根本的なところで「マトモ」じゃないんだ。そう自覚してるからこそ、そんな発作に襲われたときは音楽に陶酔してやり過ごすわけだけど。「愛しすぎる性質は病気の一種」なんて呟きつつも、全てを愛してるなんて思うのは逆に何一つ愛せてないせいじゃないかしらという怖れに囚われる。あたしはまだとても不確定な存在で、多分どこまで生きていったってそれは変わらなくて、それでもずっと同じように世界にきらめきを見出せていけたらいいなと思う。そのためになら『少しくらいする苦労も厭わないんです』。椎名林檎はホントに言葉をリズムにのせる感覚が優れていると思う。以上、世迷いごと。
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小さい頃は、お風呂の中に潜るのが好きだった。水の中だとぼーっとした低音が聞こえるのが楽しかった。お風呂の底から水面を見上げるのも好きだった。魚になった気分になれた。潜ってるときは何も考えなかった。本当に魚になったみたいに。
そんな風に、別の生き物になりきるのが好き。犬の隣で眠るときに、犬になってみることもある。呼吸を犬に合わせて浅く短くして、「犬のこころ」になってみる。
人間じゃないものの真似をすると、不思議な気持ちになる。人間としての感覚を一旦忘れてしまうみたいな、自分の頭がおかしくなってしまったみたいな感じ。でもなんだか幸せなのだ。何もわからないことの幸福。幸福という概念さえないくらいに、自然で無感覚な幸福。
高校生の頃は、人間じゃないものになりたかった。魚みたいになりたい、って思ってた。光の無い世界に住む深海魚。目は開いてる、音も聞こえる、心臓だって動いてる。暗い中をまばたきもせず、ゆっくりと泳いでいく。時々眠る。それ以外のことは何もしない。何もわからない、何も感じない。表情もない。重くて暗くて濁った世界の中で、ただ目を開けている。その目に映るものはたとえ像を結んでも、そのまますり抜けてどこかに消えてしまう。魚は何もわからない。光の元に晒せないくらいに醜い、異形である自分のこともわからない。
そんな風に何もかも麻痺してしまえばいいと思っていた。そうすればもう辛くないし、それこそが自分にふさわしい生き方なんだと思ってた。光のある陸の上の空気の中では、とても生きていけないと思っていた。そこで何の障害もなく生きていける「人間」に、憧れていた。暗いところから。
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プリーツスカート、揺れてひらひら、錯覚しそうになる、「女の子」、華奢なヒール、手入れされた指先、髪の毛が風に揺れる、シャンプーの香り。
あたしを包む嘘/あたしを包みきれない嘘。
皮が一枚めくれて、露出する醜い肌。ほんものの肌。爛れて臭くて触ると指先が沈み糸を引く肌。
きれい/きたない。
美しくない自分の容貌、鋭くない自分の眼光、いつも眠っているみたいにぼんやり纏まらない意識、足の裏の感覚が消えてどこまでも沈んでいくような感覚、自分の凡庸さと醜さと弱さがかすみのように淡く、けれど根付いているみたいにしつこくあたしの周囲に漂っている。
服を脱いでもほんものの皮の上をにせものの皮が覆っている。日にさらされたことの無い胸元の白さ、二つの乳房の淫靡な造形、それが自分の持ち物であることにはっとして、後ろめたいような気持ちになる。美しくはなくてもそこにあるのはまさに性の気配。
これはただのあたしの入れ物に過ぎないんだ、と思う。誰も皮一枚めくってみないうちからあたしのことを判断しないで。女だと思わないで。
誰もが抱える圧倒的な闇が、あたしの内側にも巣食っている。それを無視しないで。忘れたフリをして放っておかないで。これを認めなければ誰も、あたしに近づく権利など無いのよ。
わからないくせに愛など語るな。束縛を望むな、独占しようとするな。そんなお前は世界一醜い。
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血反吐吐き散らして暮らす膿の様な存在になって誰も彼もから呪われたいと思うことは未だ私の精神に余裕のある証拠。
どうやったらうまくバランスが取れるの?