早く早く、負け犬の裏庭で
秋は
夏の影は実在よりも濃いくらいなのに
秋の影の方がずっと致命的だ
それは物分りのいい様子をして地面で薄く微笑んでいる
黄金色の空とか朱色の夕日とか
薄甘い涼しい空気とか
通りすがりの子どもの声が夏よりもずっと
遠くまで伸びていく様子とか
優しいくせに秋は
夏ほど溶け合えなくて
手のひらが寒いのに気がついたら私は簡単に一人になる
それはいつでも美しいものの振りをしてやってくる。
*
秋の夕暮れは強く濃すぎるから
夜の方がずっと好き。
秋の宵は壊れかけた歯車が少しずつ回っているみたいに
ぎこちなく時間が深まっていく
夏ほどには自由になれなくて
夏ほど嘘をつくのにも向いていないので
喋る言葉も少なくなる。
今から世界がどんどん寒くなるけど
春の初めよりつめたい季節なんかないって
知っているから私は一人で
夜に笑う
昼間の影たちも道端をうろつかず大人しく
立ったまま眠りについて
犬の鼻先みたいにあたたかくてやわらかくてしめったものが
とてもよく似合う秋の夜。