西沼ガチバトル
荒れ狂う町内会!!
「うんじゃ、えー第……っ回目の会議、始め!」
久米会長の鶴の一声が多目的室に響き渡る。
「うおぉぉぉーーーーーー!!」
「ちょわチョワちょわチョワ!」
「負けるくわぁぁぁぁぁぁ!!」
うつ伏せに寝そべっていた男達が一斉に振り向き、駆け出す。
我先にと走り抜け、マットの上に飛び込む。
「はぁ……やっぱり駄目かぁ」
「取っっったどぉーーー!!」
「ぼーちゃん手加減しろよぉ」
本屋の店主、角川粗暴がぬるりと立ち上がった。
右手には小さな旗が握られている。
「会長、私はやりましたよ!」
「あー?」
「フラッグ、取りましたよ!」
「あぁ……」
ビーチフラッグの勝者にはワン西沼ポイントが与えられる。
そしてワンサウザンド西沼ポイントを貯めた者の願いは叶えられる。
それがこの西沼に流れる百年の掟。
「百点満点ですよ!!」
角川はついに条件を満たした。
多目的室に緊張が走る。
「本を管理する為の新しい機材が欲しいので、50万、いや30万円! 30万で良いんで下さい!」
「あー?」
会長は耳が遠かったが、周りの町民は近かった。
特に凄く近かったのが教師やってる猿賀さん。
「また競馬か!?」
「違うんだ! 今度は絶対に当たるんだ!」
次いで良く聞こえてたのが医者やってる石谷さん。
「はぁ……、だからあんなに早かったのか」
「どうせ株だろ!?」
「いや、俺は為替と見た……」
「違うんだ! 今度こそ儲かるんだ!」
「毎度毎度同じ事言ってるじゃねぇか!」
「懲りねぇなぁ……」
「会長! 今度こそ行けるんです!」
「あー?」
「会長! こいつまた賭け事に予算使い込むつもりですよ!」
「そうかそうか……」
「違うんです! 賭けじゃないんです! 確実に来る筈なんです!」
「うん……うん……」
「会長! 駄目ですよ、予算を溝に捨てる様な真似はやっちゃなりませんよ!」
「んだとゴラァ!」
今まで猫背だった角川さんが急に鳩胸になった。
お金の為だったら何だって我慢する。
でも、キレちゃう、だって男の子だもん、と彼は思った。
「黙って聞いてりゃ~。俺が下手に出てると思って良い気になりやがって」
「あぁん? 仕立て屋に出るんですか? ぼーきゅんは育ち盛りだから服も小っちゃくなっちゃったのかな?」
猿賀先生、教師の癖に文字が読めません。だから本屋が嫌いです。以上!
「上等じゃねぇか。俺の拳を口ん中押し込んで猿ぐつわにしてやるよ」
角川粗暴、根はチンピラ。略して根チン。以上!
「え、俺の口に手届く? 背足りねぇんじゃね?」
二人だけに聞こえるゴングが鳴り響く。
「猿賀ぁぁぁ!!」
「んだゴラァ粗暴!!」
血の気の多い二人は掴み合って揉み合って多目的室をごろごろと転がり始めた。
「いけー! 殴れー! 怪我したら30万で直してやるからジャンジャンやれー!」
「あわわわわ。石谷さん、良いんですか? 放って置いて……」
床屋の娘でアイドルやってる床鍋夏輝さんだけが慌てていた。
「良い! アレが俺の収入源だ!」
「えー、でも……。会長! 何とかして下さい!」
「あー?」
「二人を止めなくて良いんですか?」
「あぁ……うん。……何が?」
「暴れている!」
「あぁ……」
「あの! 二人を!」
「あぁ……」
「止めて下さい!」
「あぁ……うん。……誰が?」
「会長が!」
「あぁ、あぁ……そうかそうか。……何を?」
「あの、暴れている二人、角川さんと猿賀さんを、久米会長は、止めるべきだと、思うんです!」
彼女の熱弁虚しく、会長は寝ていた。
「えー。何でこんな騒がしい環境で寝られるのー」
そこで、彼女の眼に都合よく飛び込んできた光景があった。
禁煙の多目的室の隅で気配を消して喫煙しているお爺さん。
煙草屋の煙上銀、その人である。
珍しい苗字だから読みを教えてあげよう。
良い子の皆、たばかみ、と読もうね。
「銀さん!」
ちなみに床鍋はとこなべ、皆覚えたかな?
「あの二人何とかして下さい!」
背筋のシャキッとした老人がゆっくりと夏輝に視線を送る。
鋭い眼光を持つ彼の言動には、人を納得させる不思議な重みがあった。
西沼の銀、その名を知らぬ者はいない。
「もう頼れるのは銀さんしか居ないんです!」
「そうか……」
「そうです!」
迫り来る寿命を前に一歩も引き下がる事の無い白髪を撫で付ける。
その仕草一つ取っても、人を惹きつける不思議な魅力があった。
灰皿に煙草を押し付け、ゆっくりと口を開く。
「おっぱいパフパフ」
「……は?」
「それが条件だ」
セクハラ親父だった。