Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.1「MTGとの出会い~単色は強い~」

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 筆者が奥深きMTGの世界に足を踏みいれることになったのはある友人に誘われたのがきっかけである。まわりがドラゴンボールやポケモンに夢中になっている中でその友人は三国志演義やドン・キホーテを読み、相対性理論やフェルマーの最終定理に興味を持つなど当時から探求力にあふれた才人であった。彼――ここでは仮に水原くんと呼ぶことにする――とはKOFで対戦したりスレイヤーズ(当時アニメ放映されており、まさに全盛期だった)について熱く語ったりという間柄だった。そんな彼がある日「MTGっていうとてもクールなカードゲームがあるんだけどやってみない?」と言ってきた。最初はあまり乗り気でなかった筆者だったが、年柄まだ好奇心というものはちゃんと持っていたようで、気づけばすっかりMTGにハマっていた。水原くんは手持ちのカードから黒のクリーチャーと黒のスペルを何枚かと《沼(5th)》を筆者にあたえてくれた。このころのスタンダードはミラージュ・ブロック(ミラージュ、ビジョンズ、ウェザーライト)とテンペスト・ブロック(テンペスト、ストロングホールド、エクソダス)に第5版という環境だったが(この環境についてはまたあとで語ろうと思う)、当時のメタゲームで外せなかったのが「スライ」である。優秀な赤の低コストクリーチャー群に供給過剰と言えるほど充実した火力とテンペスト屈指の強力カードである《呪われた巻物(TE)》を加えた赤単色デッキの「スライ」はありとあらゆるクリーチャーとプレイヤーを焼き尽くした。そして水原くんがそのとき使っていたのがこのデッキだ。そして筆者が彼からもらったカードで組んだデッキは黒単である。レシピはよくおぼえてないが、たしかこんな感じだ。


《沼(5th)》……20
《アーグの盗賊団(5th)》……4
《ダウスィーの殺害者(TE)》……4
《ダウスィーの怪物(TE)》……4
《ブラッド・ペット(TE)》……4
《ダウスィーの匪賊(TE)》……4
《脊髄移植(TE)》……4
《恐怖(5th)》……4
《闇への追放(TE)》……4
《暗黒の儀式(TE)》……4
 あとなにか(《荒廃の下僕(TE)》とか《邪悪なる力(5th)》とかそんなんだったと思う)……4
 

 するどい読者ならこれをみてお気づきだろうが、筆者の初デッキであるこの黒単は初心者としてはじつにまともな代物といえよう。そのとき筆者のまわりには水原くん以外にも何人かMTGプレイヤーがいたが(いま考えると恵まれた環境だった)、そのほぼ全員が多色デッキ(三色以上)だったと記憶している。多色デッキと言ってもいわゆる「各色の弱点を補いあう」というものではなく、「手持ちのカードをできるだけたくさん使いたいから」という理由で多色化した感じである。とにかく強いと思うクリーチャーやスペルを色・コスト関係なしにぶちこみ、土地は基本地形のみで構成された――ペインランドやフェッチランドはおろかダイヤモンドシリーズすらはいっていない――マナ基盤がきわめて貧弱な多色デッキだ。むろんこのころにも「5CG」や青系のコントロールデッキなどトーナメントレベルの多色デッキは存在したが、それらのデッキとは根底からちがうのだ。そもそも水原くん含めてわれわれはミラージュ・ブロックのカードをほとんど持っておらず、ほぼテンペスト・ブロック+第5版構築状態だった。それでも《塩の干潟(TE)》《アダーカー荒原(5th)》などのペインランドや《反射池(TE)》や《モックス・ダイヤモンド(ST)》は存在したが、《不毛の大地(TE)》や《発展の代価(EX)》などの強力なアンチカードがあったし、資金に乏しいわれわれには経済的な面からみても多色デッキはあまり現実的ではなかった。そんな事情を理解していたのかどうかは知らないが、水原くんはカードをくれる際に「単色が強いよ」と筆者にアドバイスしてくれた。また低コストカードの有用性についても教えてくれた。多色デッキがどれだけリスクが高いか、いかにはやさが重要か、初心者の筆者に教えてくれた。プロメテウスが人類に火をあたえたように、彼はMTGの基本を筆者にあたえてくれた。おかげで《甲鱗のワーム(5th)》や《スリヴァーの女王(ST)》にあこがれることもなく「単色こそ至高、多色は初心者が使うにわかデッキ(笑)」というイメージが刷りこまれた筆者はしばらくのあいだ黒単で水原くんの「スライ」に挑むことになる。
 さて、勘のいい読者ならすでにおわかりだろうが、筆者は彼の「スライ」にほとんど勝つことができなかった。彼はルールにかんしてのミス(アンタップを忘れたりマナ計算をまちがえてマナバーンを起こしたりなど)は大目にみてくれたし、筆者のデッキもそうそう土地事故を起こさずにしっかりとまわってくれた。だが勝てなかった。もちろんプレイング技術に差があるのは明確だったが、どちらのデッキもそこまで技量のいる複雑なデッキではない。ではなぜ勝てないのか?
 つまるところ相性が悪すぎたのである。前述の筆者のデッキレシピをみてそれでも「スライ」に勝てるという自信があるなら、あなたは相当な手練かよほどイカれた酔狂な黒使いであろう。言い訳に聞こえるかもしれないが、それくらい筆者の黒単は彼の「スライ」に対して分が悪かったのだ。このときの水原スライには《火炎破(VI)》も《スークアタの槍騎兵(VI)》も《ヴィーアシーノの砂漠の狩人(VI)》も《呪われた巻物(TE)》も《ボールライトニング(5th)》もはいっていなかったが、それでも筆者は歯が立たなかった。テンペスト・ブロックのカードだけでも「スライ」は成立するのだ(実際この赤い悪魔はテンペスト・ブロック限定構築を支配し、プロツアーLAでは「スライ」が決勝で「ダンシング・ノーム」を圧倒した)。ごくまれに彼のデッキが立ちあがりにつまずき、筆者の《暗黒の儀式(TE)》からの《アーグの盗賊団(5th)》+《邪悪なる力(5th)》が撲殺するというようなことはあったが、トータル的にみれば錆びた銛一本で水中のマッコウクジラに真っ向から挑んでいるようなものであった。エイハブ船長も二体ならんだ《投火師(TE)》の前にはうんざりした顔で手札を放棄するほかなかっただろう。
 いっぽうで筆者の黒単デッキはほかの友人たちに対しては圧倒的な勝率をほこった。もっとも、これにかんしては「まともにまわるデッキ」と「まともにまわらないデッキ」という差が如実にあらわれた結果といえよう。場に島と山と《隠れ石(TE)》をならべたままなにもせず《根切りワーム(TE)》や《闇の天使セレニア(TE)》や《毒吐きハイドラ(ST)》を手札にかかえた相手をこちらの盗賊団やシャドークリーチャーが蹂躙するという感じだった。勝つのは悪い気分ではなかったが、必殺技も満足にだせない小学生に対してイグニスを使っているようなものだった。
 そんなある日、なにもできずに負けつづける状況に腹に据えかねた友人のひとりが多色デッキから緑単色デッキにクラスチェンジした。《ラノワールのエルフ(5th)》《繁茂(5th)》《巨大化(5th)》《訓練されたアーモドン(TE)》《雑種犬の群れ(TE)》《新緑の魔力(TE)》《スパイクの兵士(ST)》《踏み荒らし(TE)》《自然の反乱(TE)》などのはいった緑単色デッキは水原くんの「スライ」をあっさりとやぶった。相性のせいもあるのだが、筆者があれだけ苦戦した水原くんにこうも簡単に勝ってしまった友人に筆者はすこし嫉妬した。だがその友人に筆者はほとんど負けなかった。シャドーは緑単色ではとめられなかったし、黒には除法スペルが掃いて捨てるほどあったからだ。そんなわけで筆者と水原くんとその友人はちょうどグー・チョキ・パーのような関係となり、いかにして苦手な相手を出し抜くかに知恵をしぼった(そのころはまだサイドボードという概念をわれわれは重要視しておらず、基本的にメインデッキ同士のみでの対戦であった)。われわれは自分の色に愛着と誇りを持つようになり、何度もカードを検討し、レア度に関係なく色でトレードをおこない、暇さえあればデュエルをした。こうしてわれわれはおたがい切磋琢磨しながらMTG漬けの日々を送った。


 と連載第一回から長々と駄文を書いてしまったが、ひとまず今回はこのへんで筆を置くとしよう。とにもかくにも筆者のMTG生活はこのようにしてはじまった。そしてこれから時間と金という貴重なリソースを無尽蔵にうばっていく禁断の世界にどっぷりと浸かっていくことになる。

       

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