Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.2「パックを買おう~白き勢力~」

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 前回の文末ですこし触れたが、われわれは自身のデッキをより強くするための手段のひとつとしてトレードを駆使した。カードゲームの基本であり大きなたのしみでもあるトレードだが、通常はデッキに使っていないあまったカード同士でおこなうものである。記念すべきファーストデッキとして筆者は黒単ビートダウンを構築したわけだが、このデッキを構成するカードはすべて水原くんより無償でたまわったものである。そう、筆者はまだパックを買ったことがなく「トレード用カード」を一枚も持っていなかったのである。パックを購入しなければカードは増えないし、カードが増えなければデッキを強くすることもトレードをすることもできない。というわけで筆者はパックを購入するために友人たちとともに店にむかうことにした。
 筆者がはじめてパックを購入したのはストロングホールドがでたころで、友人たちと一緒にやってきた店にはミラージュ、ビジョンズ、ウェザーライト、テンペスト、ストロングホールド、そして基本セットである第5版が売っていた。その店はカードゲームの専門ショップなどではなく、ごく普通の個人経営の本屋さんだったのだが意外に品ぞろえがよく、アイスエイジ・ブロックやフォールンエンパイアやリバイズドなどの古いパックも置いてあった(アライアンスやリバイズドのパックには定価の倍以上の値段がついていた)。われわれはスタンダードで使えるエキスパンションをえらび、それぞれパックを買った。筆者がはじめて買ったのはたしかテンペストのブースターだったと記憶している。どんなカードが当たったかはもうおぼえていないが、あける瞬間のあの高揚感と新品の紙のにおいはいまでも思いだすことができる。こづかい制の筆者とってMTGのパックは決して安くはなく買い食いや漫画などを我慢しなければならなかったが、それでも自分で買ったカードを所有するというのはいいものだった。それ以降お金の許すかぎり筆者は友人たちとともに本屋にかよった。
 資金のかぎられたわれわれにとって、あまたあるエキスパンションのなかからどのパックを購入するかは非常にあたまを悩ませる問題であった。当時スタンダードで使用できる期間が1年を切っていたミラージュ・ブロックは購入の対象から除外され、テンペストかストロングホールドか第5版がわれわれの選択肢となっていたのだが、筆者は第5版をよく買っていた。《黒騎士(5th)》《ストロームガルドの騎士(5th)》《不吉の月(5th)》などの黒いカードは筆者にとってじつに魅力的であり、《神の怒り(5th)》《ハルマゲドン(5th)》《十字軍(5th)》《リバイアサン(5th)》《奈落の王(5th)》《夢魔(5th)》《シヴ山のドラゴン(5th)》《ボールライトニング(5th)》《極楽鳥(5th)》《ルアゴイフ(5th)》《ネビニラルの円盤(5th)》などのいかにもレアといったカードが揃っていたからだ。《貿易風ライダー(TE)》《呪われた巻物(TE)》《反射池(TE)》《モックス・ダイヤモンド(ST)》といったカードは当時のわれわれにはいまひとつピンとこなかったのである。ちなみに水原くんは《ボールライトニング(5th)》《ネビニラルの円盤(5th)》《呪われた巻物(TE)》がほしかったのでテンペストと第5版を半々くらいで買っていて、ほかの友人たちは最新のエキスパンションであるストロングホールドをおもに買っていた(多くのMTGプレイヤーにとって最新のエキスパンションはやはり魅力的だ)。
 そんなわけでカードプールがある程度充実してきたわれわれはデッキをより進化させるためにトレードをするわけだが、手もとにカードリストもネット環境もないわれわれにはそのカードのレアリティを知るすべはなく(エキスパンション・シンボルによってレアリティがわかるようになるのはこのあと発売されるエクソダスからである)、とにかく自分の色のカードを貪欲にあつめた。赤のカードは水原くんに、黒のカードは筆者に、緑のカードは友人Aに、といった感じにあつまっていった。
 そしてほかの友人たちも単色デッキに目覚めはじめ、多色デッキだった三人がそれぞれ白単、黒単、赤単となった。これによって白黒黒赤赤緑と勢力図が塗りかえられるのだが(われわれが住んでいるところが海のない県だったからか青は人気がなかった)、ひとりだけ多色をつらぬいた友人がいた(彼とは最終的にMTGプレイヤーとしてのつきあいがもっとも長くなるのだが、ここでは春日くんと呼ばせてもらおう)。《闇の天使セレニア(TE)》を持っていた春日くんはどうしてもそれを使いたいがために多色デッキにこだわりつづけた。そしてストロングホールドのパックを買っていた彼は《スリヴァーの女王(ST)》を引き当て、スリヴァーデッキを構築しはじめた。ストロングホールドにはほかにも《水晶スリヴァー(TE)》《冬眠スリヴァー(TE)》《酸性スリヴァー(TE)》《給食スリヴァー(TE)》と強力な多色スリヴァーがアンコモンで揃っていて、テンペストの各色スリヴァーとあわせて彼のスリヴァーデッキはなかなか強力なデッキとなった(不必要に投入された《闇の天使セレニア(TE)》とあいかわらずマナベースが不安定なことをのぞけば)。ちなみに春日くんは神がかった引きの強さを持っており、ストロングホールドでは《モックス・ダイヤモンド(ST)》も引き当てた。またテンペストでは《呪われた巻物(TE)》を2枚に《反射池(TE)》、エクソダスでは《ドルイドの誓い(EX)》《適者生存(EX)》などを引いた。そんなわけで彼のことをわれわれは「ゴッドハンド」と呼んだ。
 春日くんが《スリヴァーの女王(ST)》からスリヴァーデッキを組みはじめたように、ほかの友人たちもまた引いたカードをきっかけにデッキを構築した。《サルタリーのチャンピオン(ST)》を引いた友人はシャドー中心の白単ウィニー、《司令官グレヴェン・イル=ヴェク(TE)》を引いた友人は大型クリーチャー中心の黒単、テンペストで《モグの狂信者(TE)》《投火師(TE)》《ジャッカルの仔(TE)》などを揃えた友人は赤単スライ、というぐあいだ。そのなかでも白単ウィニー使いの友人に筆者と水原くんは苦しめられることになる。《サルタリーの僧侶(TE)》《サルタリーの修道士(TE)》《暁の騎士(TE)》などのプロテクションを持ったクリーチャーは黒や赤ではどうしようもなく、《コーの遊牧民(ST)》《コーの戦士(ST)》などのコー族も同様であった。また防御円や《暖気(TE)》《日中の光(TE)》などの対策カードも充実していて、《呪われた巻物(TE)》も《ネビニラルの円盤(5th)》も持っていない水原くんは苦肉の策として《黙示録(TE)》を投入するまでにいたった。筆者も《悪魔の布告(TE)》《夜の戦慄(TE)》を投入するなど抵抗をしてみたが効果はうすかった(彼は場にたくさんならんだクリーチャーから一番不要な《ヴァティ・イル=ダル(TE)》を船からほうり投げればいいだけのことだったし、《夜の戦慄(TE)》は《十字軍(5th)》で帳消しにされてしまう)。もっとも、《呪われた巻物(TE)》《ネビニラルの円盤(5th)》を積んでいだとしても一瞬で《解呪(5th)》されていただろうが(当時《呪われた巻物(TE)》対策としてメインから積まれていた《解呪(5th)》や《ウークタビー・オランウータン(VI)》などによって宿命的なまでに即割られた《ネビニラルの円盤(5th)》の数は全国のファミレスで一年間に割られる皿の数を上回った。起動までに時間のかかるディスクを割るのはきわめて容易なことであり、この皿割りコンテストは世界のいたるところで開催された。かくいう筆者も水原くんがのちに入手した一枚差しのディスクをよく割ったものである。もし読者のなかにパーミッション以外で奇跡的にこれをまわすことに成功した神がいらっしゃったらぜひ名乗りでていただきたい。元ファミレスの店長である筆者より名誉勲章を贈ろう)。
 それでも筆者と水原くんは単色歴の長さを生かし、プレイングと持ち前の攻撃力でなんとか勝ち切ることが多かった。白単使いの友人は防御円を張ってもクリーチャーを展開することを優先して土地をタップアウトさせることが多かったし、コー族のダメージ転化能力を生かしきれないなどプレイングミスも目立った(プレイングという点ではやはり水原くんが頭ひとつ抜きんでていた。筆者が《蠢く骸骨(5th)》《キイェルドーの死者(5th)》を火力対策に投入したときも彼は《火葬(5th)》をむやみに撃ったりはせず使いどきをしっかり見計らっていたし、再生するとタップ状態になることを考慮して火力やピンガーを冷静に行使してきた)。
 だが《白騎士(5th)》《白き盾の騎士団(5th)》や2枚目3枚目の《サルタリーのチャンピオン(ST)》《十字軍(5th)》が揃ってくると対策カードなど関係なく彼の白単に力負けするようになり、エクソダスで登場した《ヴェクの聖騎士(EX)》《大変動(EX)》はその状況に追い打ちをかけた。また4枚積まれた《魂の管理人(EX)》もビートダウンデッキにとって厄介な存在であった。なによりその友人が白単をプレイすることに慣れてきたというのが大きかった。筆者や水原くんからすれば彼が《浄化の鎧(WL)》を持っていなかったのが唯一の救いだったと言えるだろう(黒単や赤単にとってプロテクションクリーチャーにつけられた日には文字通り浄化されてしまうこの致命的なカードはおそろしいことにコモンなのである!)。
 このあたりで筆者(と水原くんはどうだったか知らないが)はおぼろげながら単色デッキというものにひとつの限界を感じはじめる。もちろんそんなものを感じるほど当時の筆者や水原くんのデッキは完成されてはいなかったのだが、《呪われた巻物(TE)》《憎悪(TE)》《ボールライトニング(5th)》を4枚揃えることはわれわれには不可能だったし、なんといっても「スライ」にとってミラージュ・ブロックのカードの欠落はあまりに大きすぎた。そういった経緯から筆者と水原くんはつぎなるステップへすすむことになる――そう、「多色化」である。次回はそれについて話したいと思う。

       

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