前回でマスクス・ブロックが退場し、あらたにオデッセイ・ブロックが登場するわけだが《サイカトグ(OD)》というサイコなクリーチャーをキーカードとした「激動サイカ」を中心に「マッドネス」「ノワール」「バベル」といった新鋭のデッキが新環境のメタをゆるがし、つづくオンスロート・ブロックでは「ゴブリン召集」「ウェイク」「アストラルスライド」などの個性的なデッキがうみだされた。とくに黒いセットとして発売前からおおいに話題となったトーメントやデュエリスト・ジャパンの記事に掲載された「バベル」でThe Finals予選をたたかうささぬーこと笹沼氏の写真がいまだに印象的であるが、このころの時期はそれほど熱心にマジックをやっていたわけでもなく記憶も断片的でまともな文章になりそうにないので《時のらせん(US)》で時間をすこしすすめよう。
いまからさかのぼること10年前の夏に第8版が発売された。これよりカードデザインが旧枠から新枠へと変更され、のちにモダンというフォーマットの礎となる。またわれわれのあいだでは伝説の1マナ2/1クリーチャーとして神格化されていた《サバンナ・ライオン(8th)》やType1で制限カードに指定されていた(こともある)《地獄界の夢(8th)》などのレジェンド級カードの再録もあって筆者のモチベーションはふたたび高まり、秋に発売されたミラディンより筆者と春日くんは箱買いを再開した。このころになると筆者もネットを利用して最新の情報をあつめるようになっており、ミラディン発売直後から「親和がはやい」「親和がヤバい」「3ターン目に呪文や能力の対象にならない8/8飛行に速攻でなぐられた」「《大霊堂の信奉者(MRD)》のおかげで《エイトグ(MRD)》がジョークじゃなくなってる」「親和から神話へ」とはやくも機械軍によるターミネート的な未来を予見するハードな書きこみで魔法のiらんどのBBSはにぎわっていた。
筆者もさっそく手にいれたばかりのミラディンのカードをかきあつめて「親和」を組み、8年前よりずっと凛々しくなった《サバンナ・ライオン(8th)》を切り込み隊長とする春日くんの白ウィニーを相手になんどかまわしてみた。そしてすぐに「親和」が新枠という新時代の幕開けにふさわしいとんでもないデッキだということを実感する。かつてのラース・サイクルの「スライ」や「スーサイドブラック」をもこえうる刹那的はやさと開始数ターンで手札をダンプする圧倒的な展開力で相手を蹂躙する様はまさに《機械の行進(MRD)》だった(このカード自体はアンチ親和であるが)。
また《稲妻のすね当て(MRD)》の奇襲性は反則レベルであり、除去耐性のない《ブルードスター(MRD)》《エイトグ(MRD)》を安心して運用できるという点でもじつにたのもしい存在だった。その代償として《ブルードスター(MRD)》《エイトグ(MRD)》《大霊堂の信奉者(MRD)》の共存する筆者の〝よくばり親和〟はマナ基盤の安定性に欠け、勝つときはボロクソに勝つが負けるときはボロクソに負けるというぐあいであったが「これが最前線のデッキなんだ」という矜持が筆者をふるい立たせてくれた。つよいデッキを使うというのはすばらしいことだった。《稲妻のすね当て(MRD)》からの《ブルードスター(MRD)》を警戒して《レオニンの空狩人(MRD)》をブロッカーにのこすか《エイトグ(MRD)》からの《大霊堂の信奉者(MRD)》&《爆片破(MRD)》で即死するくらいなら総攻撃をしかけるべきか春日くんは悩みに悩んだ。以前なら場にみえているカードだけをみてプレイするだけだったが、いまのわれわれは相手の手札も考えながら慎重に考えるようになっていた。筆者は《王の咆哮(MRD)》を警戒しながら《金属ガエル(MRD)》を攻撃におくりだすか考えなければならなかったし、春日くんは《踏みにじり(MRD)》をすりぬけて《崇拝(8th)》をなんとか通そうとおとりのクリーチャーや《栄光の頌歌(8th)》をじりじりとプレイするしかなかった。このころにいたってわれわれは〝駆け引き〟というものをおぼえたのだ。
このほかにも『装備品』という現代マジックでは定番となったメカニズムが登場して先述の《稲妻のすね当て(MRD)》を筆頭に《骨断ちの矛槍(MRD)》《ロクソドンの戦槌(MRD)》《浄火の板金鎧(MRD)》などがこれまでのカード・アドバンテージを失いやすかったエンチャント(クリーチャー)にかわってビートダウン系のデッキでよく使われた。また《時間の滝(MRD)》《強奪する悪魔(MRD)》《メガエイトグ(MRD)》《歯と爪(MRD)》《精神隷属器(MRD)》といった派手なカードもそろっており、《ボトルのノーム(MRD)》《トリスケリオン(MRD)》となつかしのマスコットもラインナップされたミラディンという新次元での試みはみごとに大成功した。
……かのように思えたのだが、ウルザ・ブロックでしくじって以来しばらく息をひそめていたR&Dはそれまでの鬱憤を晴らすようにまたしてもとんでもないカードをつぎなる拡張セットであるダークスティールで2枚も刷ってしまう。その1枚がモダンプレイヤーにはおなじみの《電結の荒廃者(DST)》であり、発売直後からミラディン・ブロックのトップレアに踊り出たこのエレクトリックなカニはその不安定さから長丁場のトーナメントで勝ちきれなかった「親和」を一躍トップメタに押し上げた。このアーティファクト・クリーチャーの登場によって「親和」がいよいよシャレにならない存在となったことを当時のプレイヤーは身にしみて感じたことだろう。筆者も箱からでた《電結の荒廃者(DST)》を使いながら「これがトップレアの力……」と春日くんをたたきのめしながらしみじみ思ったものである。
しかしR&Dがぶっぱなしたもう1枚の凶悪カードである《頭蓋骨絞め(DST)》にくらべれば《電結の荒廃者(DST)》などちょっとよくできたブリキのオモチャにすぎなかった。たしかに新ミラディンの《饗宴と飢餓の剣(MBS)》や《殴打頭蓋(NPH)》も強力無比な装備品であったが旧ミラディン随一のこいつもなかなかにイカれている。このカードのテキストには「あなたの手札はなくならない」とハッキリと書かれており、さらに「親和」においては「あなたはもう負けることはない」とまで記されている。これは誇張でもなんでもなく本当にそのとおりで「飲みの〆にはラーメン、親和の〆には《頭蓋骨絞め(DST)》できまり!」という触れこみをみた筆者がためしに4枚ぶちこんでみると筆者の手札はエベレスト山頂に降り積もる雪のように二度となくなることはなかった。それが果たしてしあわせなことであるのか未熟な筆者にはまだわからなかったが、なんにせよこれでもう《アクローマの復讐(ON)》をおそれる必要はなくなった(運悪く彼女の逆鱗にふれてパーマネントがすべてなくなってしまってももう一回最初からゲームをはじめればいいだけなのだから)。
もちろん「1000円はらったら2000円のおつりがかえってくる」みたいな反資本主義的なカードがゆるされるはずもなく《頭蓋骨絞め(DST)》はウルザ・ブロック以来のスタンダード禁止カードとして永久に凍結されることとなった。だが〆をうしなってなお「親和」は《電結の荒廃者(DST)》《霊気の薬瓶(DST)》を主軸としてスタンダード環境を牽引しつづけ、2つめの拡張セットであるフィフス・ドーンで《頭蓋囲い(5ND)》というこれまた強力な装備品を手にいれた「親和」はもはやだれにも手がつけられなくなり、最終的に《大霊堂の信奉者(MRD)》《電結の荒廃者(DST)》と6枚のアーティファクトランドを禁止カードに指定されて機械の猛攻は終焉をむかえた。
終わってみれば禁止カード9枚というウルザ・ブロックも裸足で逃げだす名誉ある記録を樹立したミラディン・ブロックはテンペスト・ブロックやウルザ・ブロックとならんで筆者の記憶にいまでも鮮烈に焼きついている。その強烈なインパクトの反動かはわからないが、つづく神河ブロックのはじまりである神河物語が発売されてまもなく6年にわたる筆者のマジック・ザ・ギャザリング生活はなんの前触れもなく唐突に終わりを告げた。
さて。
若かりしころの筆者のみじかくも夢と希望にあふれたドミニアの冒険が幕をおろしたところでこの「MTGについて少し話そうと思う」もそろそろ終わろうと思う。約3年間のあいだこのようなニッチかつ私的な文章におつきあいいただいてただ感謝である。
これを書きはじめた当初の筆者にとってMTGは過去の思い出であり、それをほかのMTGプレイヤーに伝えたい一心で文章をつづっていた。だが深い夜の闇のなかでこの《最後の言葉(DST)》を打っている現在の筆者にとってMTGはもう過去ではなく〝たしかなるいま〟であり、また8年ぶりにMTGに復帰した基本セット2013のプレスリリースのときのように孤独でもない。だからもうこれを書きつづけていくことに意味はない。なぜなら筆者はMTGについてすこしどころかおおいに話すべき仲間をみつけたからだ。
だがこれが読者諸君らとの今生のわかれではない。マジック・ザ・ギャザリングというすばらしいゲームをプレイしつづけるかぎりわれわれはどこかのショップでめぐりあう可能性がアンリミテッドのパックから《Black Lotus(UN)》を引くレベルで存在しているのだから(そのときはどうかアンタップや占術をわすれても大目にみてほしい)。
また遊戯王勢が幅をきかせてMTGにおいては《不毛の大地(TE)》であった新都社にも『マジック日和(もりん先生)』『MTGガールズ仮(ひなた先生)』『MTG雑記(道民先生)』と現在では3つものMTG漫画が連載されている。これからは彼らが新都社のMTGをひっぱっていってくれることだろう。筆者も一読者として応援していきたい。
ではこのままエンドまで――すべてのプレイヤーがマナにめぐまれますように。