Neetel Inside ニートノベル
表紙

パンチラ同好会
閑話「かぼちゃパンツを、君に」

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「タカシ氏、こんな伝説を聞いたことありますか?」
 ハロウィン間近の放課後、いつも通り三人でその日の成果を話し合ってると、カワサキくんが神妙な面持ちで語り始めた。
「とある部活のとある女子生徒が、罰ゲームでハロウィンの日にぼちゃパンツを穿いている……という噂を耳にしたのですが、信じますか?」
 オレは腕を組み悩んだ。かぼちゃパンツだと? あのメイドさんがスカートの下に穿いているあれのことか?
「カワサキくん、少し待ってくれ。かぼちゃパンツというのは厳密にはパンツじゃないんじゃないか?」
「いやまあ、そうなんですけどね。でも、やっぱり気になりませんか?」
 確かに気になると言われれば、ものすごく、いや、とてつもなく気になる。制服の下にあんなもふもふした物を穿いているとか、どんな趣味してるのかも気になる。しかも、某ワカメちゃんしかり、モフパンはパンチラ率が異様に上がる。
「……は……だが、個人……だな……」
 それまで沈黙していたショウゴが急に口を出したが、相変わらずの小声でなにを言っているの分からなかったので「大きな声で頼む」とオレがツッコミを入れると、「かぼちゃパンツは確かにズボンだが、個人的にはパンツだな……」と言ったと小声ながらオレらに聞こえる声で言った。
「しかもしかも、そのかぼちゃパンツなんですが、本当にハロウィン仕様らしいのですよ」
「と、言うと?」
「あの、ほら、ハロウィンになるとかぼちゃを繰り抜いてジャックランタンを作るじゃないですか。まさにそのかぼちゃパンツ……」
「まさか!?」
「そのまさかです」
 そんな馬鹿な話はない、そう思いたかった。かぼちゃパンツと言うだけでもう既に伝説の域なのに、それに追い打ちをかけるようにジャックランタン仕様だと……。
「で、タカシ氏、どうします?」
 どうするもなにも、オレの答えは決まっている。
「決まっているだろ?」オレは机の上に立ち。「我らパンチラ同好会、これより作戦名かぼちゃを実行する!」



 ハロウィンまで二日と迫っているが、カワサキくんの持っていた情報は、この間話したことだけで、それ以上のことはなにも知らないとのことだった。
 まず一に、どの部活がそのような罰ゲームを実行しているかを特定しないといけない。そもそも、部活動と行っても運動部、文化部を合わせれば相当な数になる。その中で更に、罰ゲームを受ける者を探さないといけない。砂漠で一粒の砂粒を探すようなものだ。
 ショウゴのイケメン能力を使って、女子からその情報を引き出すのもありかもしれないが、ショウゴは滅多ににそれをやらない。あいつが女子から情報を訊き出したことなんてあったっけな?
 女子で部活動か……仕方ない、死を覚悟してユカリに来てみるか。


「なによ」
 ユカリさんはオレに呼び出しを食らい明らかに不機嫌そうだった。
「あの、な、話があるんだ」
 放課後、体育館裏に呼び出したはいいが、見る限りユカリ表情からして告白的なあれと誤解している。普通十メートルも離れて会話なんてしないだろ?
「あのね、あたし、あんたみたいなヘンタイヘタレ興味ないから。マジでそういうの勘弁してほしいんだけど」
 ほら、やっぱり。告白じゃねーから! とおもいっきり突っ込みたいところを我慢してオレは口を開いた。
「いや、そういうのじゃない。今日は訊きたいことがあって呼び出したんだ」
「訊きたいこと……?」
 やめてください。そんなジトついた目でオレを見ないでください。新しい何かに目覚めてしまいそうです、ユカリ女王様。
「い、いやな、あの、その」
 オレがモゴモゴと口を濁していると、「ああああー、もう、なんなのよ! 部活始まっちゃうんだけど! 早くしてくれない!?」と怒り狂いそうなユカリさまを前に、オレはもう、何かに目覚めそうな衝動を我慢して罰ゲームについて訊くことにした。
「あのな、訊きづらいんだが、某部活の罰ゲームでハロウィンで何かするというか、なにかコスプレ的な、その一部的なあれだが、その……そういう噂聞いたことないか?」
「んーあー……?」頭をかきユカリは言った。「知ってるよ。それ。でも、なんであんたがそんなこと知ってるの? そもそもそれ訊いてどーするの?」
「いやな、あのな、いや、ほら、やっぱりハロウィンだし、オレも、そのハロウィン仕様? みたいな? アレで知りたかったんだけど、教えてマジで! 頼むよ、カツアゲされそうなんだよ!」
 やめてくださいユカリ女王様。そんな目でオレを見ないでください。本当にもうダメです。目覚めてしまいました。ああ、いたぶってください。かぼちゃパンツを見たいオレをその言葉で、その手でいたぶってください。
「んーまあ、別に教えても平気だよねえ……んとね、それ多分、ダンス部の罰ゲームだと思うよ」
 ダンス部だと……!? あの見せパンを装備し、くるくる回転して普通にパンツを露出するあの集団……のことか? 
「あたしも詳しく知らないんだけど、その年の大会でミスした人はハロウィンの時に特別な見せパン履いて一日過ごすって聞いたことがあるけど……今年はどうなんだろう。別にダンス部の子でミス――」
 オレは一刻も早くダンス部に接触するため「ありがと!」と話の途中だったが、ダッシュでダンス部が活動している多目的ホールへ走りだした。
 うしろの方で、人の話は最後まできけよーと聞こえた気がしたが、気のせいだろう。んなもん関係ねえ。

 多目的ホールでは、学校指定のジャージとは違う、ユニホームでもない、自身の動きやすい格好をした女子数人がダンスの練習をしていた。
 残念ながら、誰一人スカートを履いていなかったのでパンチラは拝めなかったが、スウェットの上からうっすらとパンティーラインが見えたのでよしとする……じゃねーよ。この中で、来るハロウィンにかぼちゃパンツを履くであろう女子を見つけないといけない。
 まず、ここにいる人数だけでも把握しなければ……一、二……五人か。勿論、名前はだいたい知っている。校内の女子のことなら我らパンチラ同好会の右に出る者は居ない。
 しかし、ダンスというのはよくわからんが、キビキビ動くなあ。ヘソチラで興奮したことなど皆無だったが、これはヤバイ。イイ。イイネつけちゃう。おへそペロペロしたい。
 多目的ホールの窓から中を覗くオレ、まさにヘンタイだ。誰かに見つかったらヤバイ。普通にヤバイけど、あのヘソ……ああああああん……。
『お前が見たいのはヘソチラじゃないだろ?』
 誰だ!
『俺はお前、お前は俺』
 なんだお前……。
『もうすぐここに誰か来る。多分だけどな』
 ……なんだと?
『ふっ。まあ俺を信じるかどうかはお前次第だけどな』
 お前はまさか……!?
 なーんて妄想にふけっていると、奥のほうから足音が聞こえてきたのでダッシュで逃げた。



 翌日の放課後、とある教室にて集まり、オレら三人は、来るべき明日の作戦会議を開いてた。ダンス部が怪しいと既に昨日の段階で連絡は送っていたので、二人には独自のルートで誰が罰ゲーム受託者なのかを調べてもらっていた。
「タカシ氏、色々調べましたが、今年のダンス部で大会でミスをしたと言う人は居ないみたいです」
「へっ?」
 そういえば昨日、ユカリがなんか言いかけてたど……そういうことか。
「俺が……た……だ」
「あん?」
 すこしイラついていたオレがそういうと、ショウゴは少し驚いた顔で「俺が調べた結果も同じだ」と言い返した。
 こいつは本当にめんどくさい。今度から、なにか言う時は紙に書いてもらおうか、そうしようか! そんなことも思ったが、でもまあ、それは辞めておこう。
「どうしますか?」カワサキくんが作戦司令であるオレにそう訊いてきた。
 どうするもなにも、いやまだ勝負は明日だ。
「いや、作戦は続行する。明日、我らパンチラ同好会は一斉作戦を行う。ターゲットはこの五人。勿論、ダンス部の生徒だ」
 ゴクリと二人がつばを飲む音が聞こえた。
「無差別にパンチラを狙うよりもターゲットを絞りパンチラを狙ったほうが楽だろ?」
「確かにそうですが、こっちは三人、あっちは五人。どういう風に狙いを分けるのですか?」
「勿論、二、二、一だ。くじはもう用意してある。赤が一。意義はないな?」
 二人が無言で頷く。
「確認しておくが、もし、自分のターゲットがかぼちゃパンツを装備していなかったとしても……分かってるな?」
「勿論ですよ。他人の獲物は横取りしない、ですよね」
 いっせいにくじを引いた。勿論、不正なんて無しだ。
 ……終わった。一瞬で勝負がついてしまった。
「タカシ氏……どんまい」
「……ざまあ」
 ショウゴ……なんでこういう時だけ普通に声が聞こえんだよマジで殺してやろうかああん!?
 涙目になりながら、五人の中から一人ターゲットを決める。一人しか狙えないオレが一番最初にターゲットを選んでいいよと、優しい二人が言ってくれたので、なんの躊躇もなくダンス部一美人の部長をターゲットとして選んだ。カワサキくんとショウゴは二人でジャンケンをした結果、ショウゴが先にターゲットを選んでいた。んまぁ、オレには関係ない話だがね!



 そんな訳で約束の日、十月三十一日はやってきた。天気は晴天。本日はいいパンチラが見れる。オレは朝から確信していた。
 マークするのは二年生のダンス部部長「オカザキ」先輩だ。一年坊主のオレが二年生の教室に行って監視をするなんて無謀な挑戦はしたくないので、地味に階段とか廊下でストーキングして、パンチラを狙うことにしたが、現実的にはそれだけだと厳しいので、休み時間になるたび、オカザキ先輩のクラスの前を通り、オカザキ先輩が教室にいるかどうかを確認した。勿論、誰にも気付かれないように気配は消しながら。
 オカザキ先輩はクラスの中心的な存在なのか、休み時間になるたびに教室の真ん中のほうで男女関係なくいろいろな生徒と話をしていた。どうやら、休み時間に教室から出るタイプの人間ではないらしい。いや、そりゃそうか、授業と授業の間の休み時間に大移動する人間なんてほとんど居ないよな。
 諦めるしかないのか……放課後まで我慢するしかないのか……悔しい! そんなオレの前にあれは突然いや、意識していたんだろう、時間割が目に飛び込んできた。自分でも奇跡だと思う。オカザキ先輩、次の授業体育じゃん。次の休み時間が勝負じゃん! 二年生の教室から女子更衣室に移動するとき階段降るじゃん!
 天がオレにパンツを見ろ、と言っている。そんな気がするほどの運命を感じながら、階段を下ってくる相手のパンツを見る……いやまてまて待て、下りだけじゃない。体育が終わった後、女子更衣室で着替え、その後、いやまてまてまて、よく考えろオレ。普通、体育の時って罰ゲームのパンツ履くと思うか? んもうしらん、そんなの関係なく、オカザキ先輩のパンツが見たいです!

 退屈な数学が終わり、鐘が鳴った瞬間、オレは教室から飛び出した。なんだあいつ……と後ろの方で聞こえたが、んなのどーでもいい。今、オレの頭の中にはオカザキ先輩のパンツしか眼中になかった。
 多分、先輩が通るであろう階段前で待機する。先輩が階段の踊場でクルっと体を回転させたその瞬間が勝負だ。
 いやでも、待てよ。家の学校の女子の体操着ってハーフパンツだよな。それを、いや待て、今は秋だ。確かジャージ解禁だったはず。ジャージの上からならかぼちゃパンツを履いていても平気な気がする。でも、部長がミスして自爆してかぼちゃパンツってありえるのか? そもそも、大会で誰もミスしてをしていないって話だし……わっかんね。
 休み時間に入り活気づく学校。いたるところで生徒の声が聞こえるが、オレが今聞きたいのはただひとつ。階段を歩く足音だ。オレくらいになればその足音が女子か男子か、そのくらい余裕でわかる朝飯前だね。
 足音が聞こえてきた。この足音は男子生徒三人。違う。いや待て、その中に一人女子の足音が聞こえる。んー……耳をよく澄ませる……声からして違う。……その後すぐ、四人の生徒が階段を降りていった。確かに違った。次だ。
 きたきたきた! 女子ですよ! しかも大量ですよ! これは、あれですね! 着替え組女子ですね。この声……キタァアア! この声、さっき教室の前で訊いたオカザキ先輩と同じ声ですよ。リーチですよ。しかし周りに女子が多すぎるて、こりゃー少しミスればヤバイことになるかもしれん……いや、行くしかない。
 踊り場で体を回転させ、次の階段を降りようとした瞬間、さり気なく階段を登る振りをして上を見る……するとそこには……スカートがあった。
 やってしまった。ああ、やってしまった。タイミングがほんの一瞬、本当に一コンマずれた。
 普通にオレの横を歩いて行くオカザキ先輩とその取り巻き達。悔しい……が、まだ終わったわけじゃない。降れば登る。それが階段だ。

 次の授業中は、ムラムラを抑えるのが大変だった。もう、かぼちゃパンツなんていう幻想より、オカザキ先輩のあのスカートの中にあるパンツが、パンツが気になって気になってしょうがなかった。
 アニメや漫画の世界では、ラッキースケベなる天から授かりし能力を発動しまくる主人公が多くいるが、オレのいるこの現代世界ではありえない。そういうのは天から授かるものじゃない。そうさっき核心した。そう、授かるものじゃなく、勝ち取るのもだと。
 授業が終わり、鐘がなった瞬間、ダッシュで教室を後にする。もう、ミスは許されない。次は放課後だが、放課後には報告会があるので、正直、時間という時間がない。ここが勝負だ。オカザキ先輩のスカートとオレとの一騎打ち。
 休み時間開始から五分。オカザキ先輩はまだ来ない。校舎は生徒の声で震えている。そんな声の中でオレは武者震いをする。勝つ。絶対に勝つ。そしてその時に見るべきパンツを想像して更に気分を高める。
 休み時間開始から七分。聞こえる。聞こえるぞ、あの足音が。さっきと同じ足音が。来た、勝負の時が来た。
 オカザキ先輩が階段を登る。勝負は一瞬。先輩が階段の踊り場に足を踏み入れた瞬間、さり気なく、超自然にオカザキ先輩のパンツめがけ視線を上に送る。ただそれだけ。
 体が震える。心臓の鼓動が早まる。手が震える。足が震える。
 なんだこれは、どれだけアドレナリンが出ているのだ?
 そして、その時はきたああ、あああ、ああああああ。今だあああああああああ。

 なにを見たかじゃない。なにを感じたかがパンチラには重要だ。エライ人はそれが分からないのです。
 オレは確かにオカザキ先輩のパンツを見た。まるで太陽のようなパンツだった。
 そう、オカザキ先輩はかぼちゃパンツを履いていた。ジャックランタン仕様のかぼちゃパンツだった。
 モノがモノだけに興奮はしなかった。ただものすごい達成感はあった。
 放課後の報告会でもオレはかぼちゃパンツを見たと二人に言わなかった。そして二人の話も全く聞いていなかった。
 ぽっかりと大きく開いた心の穴と、窓から見える夕日を比喩しながら、オレはただひたすら黄昏た。

       

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G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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