Neetel Inside ニートノベル
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パンチラ同好会
七話「ゲシュタルト崩壊」

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 部室の扉をこじ開け、誰かが入ってきた。もうダメだ、暗室なんて安置に居ても写真部の奴らは普通に入ってくる。もうダメだ。終わった。そう、思った矢先、部室の方から声が聞こえてきた。
「すいませーん……。あれー、反応がない……誰もいないのかあ? 鍵開いてたから誰か居ると思ったのになあ」
 ん? 女生徒の声だと……? 確かこの部活に女生徒は居なかったはず。
「オカザキ部長、こんなとこでなにしてんですか? 早くしないと遅れちゃいますよ?」
 また女生徒の声がした。
「んーとね、この間の大会の写真出来上がったか訊きに来たんだけど、ま、今度でいっか」
 どこかで聞き覚えのあるような……声だった。いや、確かにオレは彼女の声……いや、今はそれどころじゃないか。幸い、オカザキ先輩も部活へ行ったみたいだし、アイツらが来る前に何とかして、このコンセント式盗聴器を挿し込まなければいけない。
 携帯のライトは思ったよりも弱く、物陰に隠れていたコンセントを探すのは至難の業だったが、とりあえずはコンセントを見つけ、盗聴器を仕掛けられたのでよしとする。
 後は、アリバイ作りだ。
 暗室からでたオレは、部室にある急須セットでお茶を入れ、買っておいたお菓子を並べ、他の部員達が来るのを待った。
 お茶を入れ二分もしない間に、部長が入ってきた。
「えっと……なんでタカシくん居るの……?」
 それもそうだよな、昨日、入部、しかも仮入部したばっかりの奴が、部長の自分よりも早く部室に居たなーんて、怪しさ抜群だよな。
「こういうのは社会的な序列的なあれでやらないといけないかなあ……と思いまして」
「えっ?」
「よく新入社員は誰よりも早く入社して掃除、そしてお茶を入れておく……っていう、あれですよ、あれ」
「……ってもねえ、一応ここ会社じゃなくて部活だから……その、なんての……そんな気使わないでいいよ」
 この男、明らかにオレのことを疑っていた。なにかしたんじゃないか、なにか仕掛けたんじゃないか。そんな疑りの目をオレに仕向けている。
「気合入れすぎちゃって……明日――」とオレが言いかけたところで「ああ、そんないいよ、明日はゆっくりきてね。ゆっくりと」と部長がオレを制止した。
 そんなこんなで、なんとか盗聴器を仕掛けることができた。そもそもオレ、これをどうやって受信するかマジで知らねーぞ。そもそも、こいつら盗聴してどーするっていうんだ? わからん。


 
 仮入部の七日間、オレは徹底的に監視されていた気がする。部活以外の時間も、明らかに誰かに付け狙われていた気がする。
 まあ、初めての部活動はなんだかんだで楽しかった。部員には馴染めなかったが、カメラで被写体を撮るのは……とてつもなく興奮した。
 勿論、人は撮ってない。校舎、花、風景、そんなのばっかりを撮っていた。まず、校内でオレに写真を撮られたいとか思う奴は一人も居ないだろうしな。



 仮入部期間も今日が最後だ。いやー楽しかったね。マジで楽しかった。部員の雰囲気は史上最高に最悪だったけどね!
「一週間という短い間でしたが、皆様にいろいろと鍛えられた気がします」
 オレはそう締めくくり、写真部を後にした。一応形式上、部長に「本入部するかい?」と訊かれたが「結構です」ときっぱり断ってやった。

 この一週間、なにをしたんだオレ。
 普通に部活を楽しみ、普通に学校に通い、そして部室に盗聴器を仕掛けた。それだけだ。
 あの二人とも、写真部に仮入部してから連絡を取り合っていない。
 不安がないと言えば嘘になる。相変わらずクラスではハブカれているし、正直な話虐められている。学校に行きたくない、もう、嫌だ。そう思うことも多々ある。今までは普通に一人で帰っていた夕闇に飲まれ始めた通学路も、一人で自転車をこぎながら走っていると寂しくて、寂しくて仕方ない。
 パンチラも最近全く拝めていない。ネットで探せば腐るほどパンチラ写真はあるが、それはオレが求めているものじゃない。やっぱり、パンチラは生で見ないと真の価値を発揮しない。写真のパンチラを見て興奮するのは中学生か、それまたパンチラに飢えている奴だけだ。いや、待てよ……オレ、確実に飢えてるよな……。
 そんな不毛な思考をしつつ一人家に帰る。やっぱり、寂しい。

 最近は家に帰り、すぐにスカイプにログインするようにしている。なぜかって、あの二人から連絡があるかもしれないからだ。
 スカイプを起動しても二人はログインしていなかった。
 オレのコンタクトは清々しいまでにあの二人しか居ない。ネットで誰かと出会ったりすることもしなければ、そもそもパソコン自体をそんなに使わない。
 あのパパラッチ以来、家族の中の立場も最悪に悪い。どうあがいても絶望と言うのはこういうことを言うのかもしれない。
 食事中も会話がなく、オレが自室へ戻るとリビングから家族の声が聞こえる、なんていうのが最近毎日ある。肩身が狭いとか、もうそういうレベルじゃない。こーいうとき、ねーちゃんが居てくれればなあとか思うわけですが、まあ、うん……。
 ベッドの上に寝そべり、携帯の待ち受け画面をひたすら眺める。電話もメールも来ない、ただ表示されている時計が時を刻み続ける。
 ふと、隣の家の隣接してる窓を眺める。ユカリの部屋であるそこは、あれ以来電気がついたことがない。いったいどこで生活しているのか、いやまあ、あの家で暮らしてるのは確実だが、まあなあ……。
 はぁ……なにも代わり映えのしない今日に献杯!



 朝、学校に行く。虐められた。

 家に帰る。無視された。



 朝、学校に行く。虐められた。無視された。

 家に帰る。家に誰もいない。オレを置いてみんなで外食に行ったらしい。今夜は夕食抜きだ。



 朝、学校に行く。無視された。

 家に帰る。無視された。



 もう一ヶ月くらいこの生活が続いている。我ながらよく耐えてると思う。……いやまあ、確かにそれだけのことをした訳だがね! まあ罰と思えばいいんじゃないかな!
 あの二人からも連絡がないし、畜生、学食のラーメンがまずいぜ!
 人間というのは――違うな、オレという人間ってのは、ここまで追い詰められると逆になんつーの! こう、パァーっと悟りを開くというかなんというか。もう、そうですねえ……賢者の領域ですよね。まさに、世界の中心と全てがオレ状態ですよ。
 夏休み前に、こう……どかーん! と一発花火を上げたかったが、結局は不発で終わるのか。こんな高校生活もありかもしれない。いや、ありだな。いいよお、もう何かに目覚めてしまったオレに勝てるやつなんていないよぅ!
 でも、やっぱり、写真部の奴らだけは許せねえなあ。許せねえ。日々募る写真部への怒りをカテに生きているわけですが、でもまあ、写真を撮るって行為は、とてもいいよ。勿論、盗撮なんていう変態的な行為は一切してないですよ。オレが撮ってるのは、だいたいが風景ですからね。その一瞬の世界を切り取る。んー素晴らしい。ある意味で、写真部に仮入部してよかったかもしれね。
 畜生、学食のラーメンがまずいぜ!

 放課後、一ヶ月ちょっと前までなら誰もいない教室を見つけて報告会をやっていたが、まあ、あれ以来、報告会は開かれてない。寂しいような、嬉しいような、なんとも言えない感情がオレを支配しているわけもなく、今はパンツのことで頭がいっぱいだったあの頃をあざ笑うほどの余裕が出来ちゃった――みたいなー?
 最近は日が伸びたせいか、授業が終わってしばらく立っても夕日を見ることはない。そもそも、夕日を見るまで学校に残ることがない。
 家に帰っても、なにもすることがない。最近ではパソコンを起動することもなくなった。
 一人じゃないのに一人状態。まあね、うん。いいんじゃないかな。この間、高校卒業したら家から出てけって親に言われた時は、さすがにどうしようかとも思ったけど、んまあ、いいんじゃないかな。
 ベッドに寝そべり天井を眺める。
 本当にいい天井だ。この家を建てた大工はいい仕事をしたな。関心、関心。

 ああ、ダメだ、もう、終わりなのか。このまま、本当に終わるのか? やり残したことが沢山あるだろ、オレ。例えば、もっと多くの女子のパンチラを拝むとかさ……いいのか? いやよくないね、良くないけど……。
 今日もオレの居ないリビングから家族の楽しそうな声が聞こえてきた。

       

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