Neetel Inside ニートノベル
表紙

パンチラ同好会
八話「決別」

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 それは突然のことだった。
「ねえ、知ってるー? 写真部のあの噂ー」
「知ってる知ってる。パンチラ写真を売りさばいてたっていう、あれでしょ?」
 朝、教室に入るとどの生徒も同じような話をしていた。勿論、聞こうと思って聞いたわけじゃない。またまたクラスメイトの話し声がオレの耳に入ってきてしまっただけであって、聞き耳を立てるなんてことは……し、してないと思う。
 というか、何故、こいつらは写真部が裏でパンチラ写真を売りさばいていたことを知っているんだ? あれはオレたちくらいしか知らない真実だったはず。何故だ?
「つーか、マジやばいっしょーこれ。停学とかそういうレベルじゃないよねー」
「だなだな、裏掲示板ってやつ始めてみたけど、ちょっと俺ドン引きだわー。つーか俺のこと書いてあるし……」
 ほう、裏掲示板とな。確か、前にも裏掲示板に悪口書かれた生徒が自殺騒ぎを起こしたって事件があったなあ。多分そこと同じところか? んー、いったいなにが起きているのだ?
 もう少し周りの話を聞いていたかったが、先生が教室に入ってきてしまい、それ以上のことは聞けなかった。

 放課後、いつも通り家に帰る。
 休み時間に、何度かさっきと同じ話題と思われる話し声が聞こえてきたが、そこまで新しい情報がなかった。
 盗み聞き――ち、違う、聞こえてきた話をまとめると、写真部の誰かと写真部部長がパンチラ写真を売って儲けたというのが裏掲示板に書かれ、それを立証するようにパンチラ写真を撮っているところを撮っている写真と、部員の会話音声が裏掲示板に貼られた――ということらしい。
 一度も裏掲示板というものを見たことがないが、多分、この高校の裏掲示板だろう。普通に考えて、それしか考えられないんだけど。
 会話音声ということは、多分、あの写真部に仕掛けた盗聴器で登頂したものだろう。あれはオレが仕掛けたが、仕掛けただけで、オレはその盗聴音声を持っていない。そもそも、裏掲示板のURLすらしらない。
 と、なるとあの二人しか考えられない。いや、絶対あの二人だろう。
 とりあえず、家に帰って久々にスカイプにログインするしかない。あの二人もすぐにログインする――そんな気がする。

 家に帰り、久々にパソコンをつけ、スカイプにログインする。
 あいつらの家は電車で数駅先なので、オレより帰るのは遅いと言うのが分かっていたので、暫くパソコンの前で待っていると、ショウゴさんがログインしました的なポップアップが出てきたので急いで通話をクリック。
<よお、久々だな>
「ああ、久々だな」
 通話なのにチャットかよ。まあ、いちいち聞き直さないでいいから楽なんだが。
<あれだろ、今、巷を賑わしてるあの噂について聞きたいんだろ?>
「うむ。あれはやっぱりお前らの仕業なのか?」
<おうよ、俺とカワサキ……んでもってお前の、三人の仕業だ>
 やっぱりな。ってオレもかよ。いや、確かに盗聴器仕掛けたのオレだし、オレの仕業でもあるわけだけどさ! でもなんか腑に落ちないと言うか、一矢報いた感がないというかさ!
「で、一番気になってやまないのが、その盗聴音声と写真部のやつがパンツを盗撮してるのを盗撮している写真なんだけど……」
<ああ、裏掲示板行けば二つ共みれるよ?>
「いやその、オレ、裏掲示板のURL知らないんだわ」
 仕方ねえなあ。とレスしながらショウゴが貼ってくれたURLを踏むとエロサイトだった。
「なになに? パンツの奥底に眠る秘境探検隊!! なによこれ」
<あ、悪い。ミスった。これこれ>
 そうレスしながらショウゴは別のURLを貼った。
 もしかしたらまたエロサイトなんじゃねーのとか思いながら、貼られたURLをクリックすると、確かにオレの通っている高校の裏掲示板と思われる掲示板だった。
「んで、なにこれ、どれ見ればいいの?」
<あんたバカァ? 今、どのスレッド見ても同じような内容だからどれ見ても変わらんが、んまあ、見るなら伝説の始まりがいいよな! これだ! これ、コレ見ろほら!>
 また新しいURLがスカイプに貼られたので、それをクリックする。クリックした先には「写真部パンチラ写真売買の真実」と言うタイトルのスレッドだった。
 スレッドの投稿番号一番にはこう書かれていた。

  写真部の噂を耳に、いや、真実を手にしたのでスレッドを立てました。
  こちらも随分危ない橋を渡っているので、匿名でレスさせて頂きます。なお、このレスを最後に、私はこの掲示板には書き込みをしません。
  
  私が今回手に入れた情報は、スレタイそのままです。
  数々の賞を受賞し、県内でも有名な我が高校の写真部。でも、その影で盗撮をしている――と言う噂は前からありましたが、今回、決定的な証拠を手に入れました。
  まずはこれをお聞きください。
  mp3.

 オレはお聞きくださいと書かれた後に貼ってあったmp3ファイルをクリックして再生した。
『なあ、副部長くん、あの○○○(上からピー音が被さっており、誰だか分からない)のパンチラ写真、いくらで売れた?』
『三千円ですね。まあ、そんなもんでしょ、あんな汚パンツに三千円もだす猿ばっかりで、ホント助かりますよね、部長』
 オレはこの二人の声を知っている。いや、一週間も放課後を共にして忘れることなど出来るわけがない。そう、明らかに写真部部長と副部長の声だった。
『んー、まあ、僕もそうだけど、興奮する人は興奮すんだよ』
 部長と思われる声の男は、明らかにオレの知っている喋り方とは別だったが、声からして絶対に写真部部長だ。ひつこいようだけど。
『そういえば、この間撮った△△さんのパンチラですけどこれ、鼻血モノですよマジで。超食い込んでてあれの形丸わかりっすよこれ。売ればマジでイイ金になりますよ、マジで』
『ほう、それはとてつもなく気になるわけですが、その写真は何処に?』
『只今現像中です、部長殿』
『そっか、それは楽しみだ。……そういえば今週分の金がまだ届いてないな』
『そういえばアイツら、配分が少ないって言ってたんでもしかしたら……』
『あー、まあいいか。いいよ、いい。金は二の次だし、われわれの本来の目的は――』
 ここで音声ファイルは終わっていた。
 音声ファイルを聴き終えたオレは、下にスクロールバーを動かし、投稿番号一番の続きを読み始めた。

  これは写真部部長と、副部長の会話です。捏造は一切ありません。ただ、被害者を守るため名前の部分にはモザイクをかけさせてもらいました。
  しかし、音声だけでは信じれない。そんな人もいると思いますので、盗撮中の写真を撮ることに成功したので、ここに貼っておこうと思います。

 バーを下にスクロールすると、沢山の画像が現れた。
 物陰にカメラを仕掛ける写真部部員の画像やら、小型カメラと思われるものを靴に仕込んでいる写真部部員の画像やら、部長、副部長も含め、写真部部員全員のそのような画像が沢山表示されていた。

  どうでしょうか?
  私は先生に言うつもりはありませんが、写真部がこういうことをしていると言うのを皆様に知って欲しく、今回、ここに投稿させて頂きました。
  それでは。
 
 そう書き残し、投稿番号一番の書き込みは終わっていた。

「なあ。これ本当にお前らなのか?」
 全てを読み、聴き終えたオレは、異様に乾いている喉を使い、ショウゴに話しかけた。
<そうだ、この文を打ったのはオレ。膨大な盗聴音声からこの音声を見つけたのはカワサキ。そして写真を撮ったのはオレとカワサキ。そしてなにより、盗聴器を仕掛けたのはお前>
「な、なあ。IPアドレスとか言うのからお前らのこと調べ上げられるんじゃ?」
<その可能性は皆無だな。今は漫画喫茶という便利店があるんだぜ?>
 オレは、もうそれ以上なにも言えなかった。多分、写真部の奴らはもっとなにも言えなくなってるだろう。 
<あいつらは“紙”でお前のことを晒したからな。こっちはネットで晒そうと思ったんだが、どうだ? なかなかインパクトに残るだろ?>
「ああ……」
 オレは何度も何度も、投稿番号一番の書いた文を読み返した。何度見ても、そこには同じ事しか書いていないが、なんだろう、この心の喪失感は。
「あ……んと……ありがとう?」
 この場合、感謝をするべきなのか、どうなのか、オレには分からないがとりあえず「ありがとう」と伝えておいた。
<もうすぐ、カワサキのやつもインするだろうから、あいつにもちゃんとお礼言うんだぞ?>
「あ、ああ」



 翌日の放課後、オレは先生に呼び出された。
 もしかしたら、いや、もしかしなくても写真部絡みな話なんだろうなあ……などと考えながら生徒指導室へ向かった。
「失礼します」と指導室の前で挨拶を入れ、生徒指導室に入る。そこには、写真部員全員と写真部顧問と生徒指導員の先生と校長と思われるおっさんが、缶詰状態とまではいわないが、狭い指導室の中にいた。
「これで写真部関係者は集まったということで……間違いないかね?」校長と思われるおっさんが、頬杖をつきながら呆れた顔で言った。
「はい」
 写真部顧問はとてつもなく肩身の狭そうな顔をしながら、しかも、その顔が独特すぎて吹き出してしまいそうになったので、オレは手を思いっきり握り必死にこらえた。
 どうやら、現生徒で写真部に関係した生徒を手当たり次第に呼び出したらしい。
「でだな、学校の裏掲示板なるものの書き込みについてだが、これは真実なのかね?」
 校長が話を切りだし始めたので、オレは「ちょっと待ってください」と話を止めた。
「なんだね?」
「あの、オレ体験入部はしましたが、今回のことについては関係ないんですけど?」
 写真部員の視線を感じた。それもとてつもなく鋭い視線だ。
「そうだったとしても、一応、話は聞いてもらうよ。悪いがね」

 全校朝会とかでは、わざと長々としゃべっているのかと思っていたが、この校長、話が長いのはデフォルトらしい。説教ぽいけど説教にならないような何かを永遠と一時間近く続けやがった。マジでいい迷惑だ。
 結局、その長い、長い話を聞かされた挙句、オレは完全にシロってことでお咎め無しだったのがなおムカツクところだ。
「さすがにここまで鮮明に顔を出された写真を出され、しかもこの音声。どう訊いても君たちだよな、部長と副部長くん」
 ついにこの時がやってきた。多分、処分についての話だろう。君はもう帰っていいよ、と言われた後だが、ここまで付き合わされたんだから最後まで付き合ってやる。
「はい」と部長が力なく返事した。
「写真を撮っているだけならば、まだ停学ってことですんだかもしれない。だが、金が絡んでくると話は別になる。そのお金がどのようなことに使われたとかはおいおい個人的に訊くことにするが、分かっているよね?」
 この時、表情態度には一切出さなかったが、心のなかで思いっきり「ざまああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 写真部ざまあああああああああああああああああああああ!!」と叫んでやった。



 その後、写真部は廃部、部員の九割は退学となった。残りの一割はオレではなく、幽霊部員らしく、そいつらにはなんのお咎めもなしとのことだった。他にも数人の売人をしていたと思われる生徒も退学になっていた。
 あれから一週間ほど経つが、クラスメイトの話題は未だに写真部で持ちきりだ。まるでオレの存在を忘れたかのように写真部について話し続けているクラスメイトを見て、心から笑ってやっている。しかも、あいつらのおかげで虐めも、ちょーっとだけ軽くなったしな。
 これで安心してパンチラを見れるようになったかと言われればそんなことはない。多分、この学校でパンチラを見るのはかなりキツイだろう。ほぼ不可能と言っても過言ではないかもしれない。そりゃ、これだけいろいろあったためか、女子のスカートガードレベルが異常じゃないくらいに上がってるし。

 いつも憂欝で仕方なかった日曜日だが、今日は違う。今日は違うね! そんなことを思いつつ天井を見ていると、窓の方からコンコンと言う音が聞こえてきた。
「タカシいる?」
 おや、ユカリさん。

「久々だね、この公園くるの」
 夕暮れは好きだ。曖昧なこの感じが好きだ。
「だな、小さい頃はよく二人で遊んでたっけ」
 ユカリに連れだされ、オレは今、昔良く遊んだ夕日のよく見える公園のベンチに二人で座っている。
「綺麗だね。夕日」
「うん。で、なに?」
「いや、あのパンチラ写真のあれ……謝ろうと思って」
「ああ……うん」
 おいおいおいおいおい、なにこれ、待てよ、待ってくださいよ! なにこの雰囲気! 本格的すぎやしませんかああ!?
「でね、一応あんたに言っておきたいことがあって」
 オレは唾を飲み込んだ。しかも一回とかじゃなく三回くらい。だって、なんか……雰囲気に殺されそう。ときめき的なあれで死んじゃいそうなの!
「あたし、一応、あんたのこと許すけど……けど、いままでみたいな付き合いは出来無い」
「え?」
「あの紙に写ってた写真、やっぱりあんたなんでしょ?」
 あの紙とは多分、写真部の奴らがオレがパンツを覗いているというのを書いたあの紙のことだろう。
「……うん」
「まあ、その前からあんたパンツを覗こうとしまくってたしね」
 バレていたのか? 何故だ。
「なんで? って顔してんね」ユカリは組んでいた足を崩して。「だって去年の春先のあれ、気づいてないふりしてただけだもん」
「マジで?」
「マジで。しかも、この間、パンチラ写真撮った犯人を探すためにって、あの二人に合わせてくれたでしょ? あれあの時の二人だよね?」
「うん……まあ……」
「しかもあんた、小学生の頃アキ姉のパンツ盗もうとして怒られて家に逃げてきたことあるじゃん?」
「う、うん……」
「あの頃は楽しかったなあ……」
 ユカリは何かを思い出しているのか、夕日に染まる空を眺め言った。
「でも、お互い成長して、今回こんなことがあって……今まで見たいに友達として、幼馴染として付き合えるかって言われたら無理だと思う。勿論、近所付き合いとかクラスメイトとしては付き合うけど」
「そっか……」
「うん、それだけだから。ごめんね、時間食わせちゃって」
「いや……こっちこそごめん。でも、ありがとうな」
「うん……。じゃ、また明日学校で」
「ああ」

 ふと、ベンチの横を見る。そこにはさっきまでユカリと言う元幼馴染が座っていた。
 ふと、そらを見る。そこには先程まで輝いていた夕日の代わりに、淡くオレを照らす月が輝いていた。
 ふと、正面を見る。先ほどまでは誰も座っていなかったベンチに一人の少年が座っていた。
 なにを思ったのかオレは、その少年に話しかけることにした。
「やあ。なにしているんだい? そろそろ家に帰ったほうがいいんじゃないかい?」


 
 写真部の一件から、夏休み後校則が厳しくなるという噂が立ちつつ、学校は夏休みへ突入した。
 勿論、あの一件から一度もパンチラ同好会は活動していない。いや、あの二人はもしかしたら活動していたのかもしれないけど、でも、あの一件からあの二人と連絡を取っていないので、詳しいことはよく分からない。
 まあ、ユカリに決別されてから全てがどーでも良くなったというのもあるけど。
 あ、そういえば、あの公園で話した後からユカリの部屋に灯りがつくようになった。



 一部完結。二部へと続く。

       

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G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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