Neetel Inside 文芸新都
表紙

新都社作家の後ろで爆発が起こった企画
いくつかゔぁくはつ/Kluck

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◆旅をする僕っぽく

 地面から震える空気を感じた。直後、低くおどろおどろしい音が響いた。
 振り返ると幾日か前、歩いた山の山腹から黒い煙が上がっていた。
 何事かと思い僕は足を止めて、そのまま、その光景を眺めていた。

 再び低い音を立てると、山肌が上空にはじけ飛んだ。
 それは思いの外遠くに飛んで、他の山にぶつかった。ぶつかったところからは白い煙が昇った。

 洒落にならない爆発だ。
 慌てて駆け出すと、ちょうど、目の前をトラックが横切ろうとしているのが見えた。
「待って下さい!」
 僕はトラックに向かって叫んだ。


◆爆発が日常的な戦争物系

「テメェの彼女宛の手紙が俺のカミさんとこに届けられたせいで、こっちの戦場よりもひどい事になっちまったよ」
 クッチャクッチャと音を立てながら、ジョナサンは言った。
「しゃーねーだろ。俺もお前もジョナサンなん…」
 と、もう一人のジョナサンの言葉が終わる前に、ドンという低い音と共に車に衝撃が走った。その衝撃は思いの外強く、車は横に半回転した。
 ヘルメットからボディーアーマーまでフル装備であったので、ダメージは少ない。すぐに平常心を取り戻したジョナサンは横たわった装甲車から飛び降りた。
 チューインガムを吐き出して、IEDが仕掛けられて粉々になった自動車にサブマシンガンを向けて言った。
「ファッキン! ××××人のイカレポンチめ」


◆午前8時13分(日常で爆発が起きる系)
 むせ返るような血の臭い。本能的に搾り出された悲鳴と嗚咽。頭が痛い、そう思って右のこめかみに手を当てるとヌルッとした感触とともに激痛が走った。手のひらは真っ赤に染まっていた。
 気が遠くなりそうだったが、顔を上げた。上半分が吹き飛んで全体が黒く煤けた銀色の箱、電車だったものが目の前にあった。それ以前にそこに倒れている映画でも見たことがない人間の変わり果てた姿が沢山あった。でも、それは俺の視覚からカットされたかのように理解できなかった。入って来なかった。
 呆然と立ち尽くしたが、なんとか冷静な自分のスイッチを入れる。
「ユキ、大丈夫か?」と俺は振り向きながら、さっきまで横にいた彼女に声をかけようとした。
 でも、そこには人が立つスペースなんかなくて、電車の扉が巨大なナタのごとく、コンクリートのプラットフォームをぶった切っていた。ハッとなって見下ろすと、そこには赤く染まった見知った形の細いリボンが落ちていた。

 в в в

 アクビをしながら、タッチパネルの音楽プレイヤーをいじる。この曲も飽きてきたし、プレイリストの整理をしないとなぁ、と思いながら、今かかっている曲をスキップ。その次のちょっとメタル入った曲は最近のお気に入り。かかり始めてラッキーと思った直後、体に遠心力的な力がかかる。かかっても、この超満員の電車ではそれを逃がす方策もなくもみくちゃに。駅に付く前に歌詞が始まらねーよ、とちょいブルー入ったがブルーになっている暇は無い。停止ボタンを押し、画面ロックを行なって、イヤホンをグルグル巻きにして、狭い車内の中、体をずらしてカバンの中に突っ込んだ。
 車掌の駅名を長く伸ばすアナウンスとともに扉が開く。ところてんのように人が吐き出されて、俺も流れに乗って降りる。ホームに立つと目の前に乗っていたのとまた違う色の電車が入ってくる。日本最大の乗り換え駅だから、こういう乗り入れがある。その電車も扉が開き、ホームは小学生の頃住んでいた田舎の祭りなんか目じゃないほどに混雑する。そして、俺はその8時12分着の電車に乗ってきているはずの人の姿を探す。
 「ショウちゃん」という声とともに下からほっぺをつんつんしてくる存在が現れる。見下ろすと、ニッコリとした笑顔がそこにあった。
「ユキ、おはよう」
「おはよう、ショウちゃん」
 そして、小さく手をつなごうとした。
 背中に他人がぶつかる感触がした。だから、俺はちょっと振り向いた。だけど、それと同時にとんでもなく大きな音が響いた。その瞬間、俺はそれが起こった方を向いていたはずだが、何もかもが瞬間的で記憶に残るようなことはなかった。ただ、意外と大きなネジが飛んできたので、とっさに体を逸らしたら、俺の右側をかすめて飛んでいったことだけは見えていた。その直後、俺は強い力で倒れてしまった。

 в в в

「ユキ! ユキ!」
 そう叫びながら、俺は辺りを見渡した。
 どこから飛んできたのか鉄骨が刺さった自販機の影に見覚えのある腕時計が見えた。俺が誕生日プレゼントにねぼすけの彼女にあげたものだ。真面目そうな雰囲気を漂わせる彼女に、思いの外似合った、ちょっと大人びた感じの革ベルトの時計。爆発で金メッキが黒くなっていたが、間違いなくあれは俺のプレゼントだ。
「ユキ、大丈夫だったか?」と声をかけながら、俺は彼女の手を取った。
 腕しか無かった。
 俺の絶叫とともに時計は無情にも短針を進め、8時14分を指した。


◆もうちょっと素直に
 俺の体は宙に舞った。チラと後ろを見たら爆発だった。そのまま、大気圏突破した。ガガーリン。
 目が覚めると、もちろん病院だった。

       

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