新都社作家の後ろで爆発が起こった企画
どうしてこうもメランコリーに/夏目ギンヒト
―――揺らいだ。
後方で起きたそれの影響により視界がぶれ、足下が酷く揺らいだ。それが爆発だと理解するのにそう時間は要らなかったが、項から腰の辺りに渡っての衝撃があまりに凄惨な為、俺は逃げ遅れた。
「うっ……」
心臓を捕まれるような恐怖に、俺の両の足は震え、歯がカチカチと音を立ていた。思わず灰色の路面を這う体勢に陥る。それでも本能的に此処にいては危険だと過ぎり俺は前方を見渡す。
視界には逃げ惑うケモノの姿が、見えた。我先に我先にと大通りへと移っていく。子供を蹴り飛ばし者、若者の今流行の髪を引きちぎらんばかりに掴む者、女を殴り車を奪い、人をなぎ倒しながらも前へ行く者。
……言葉が出なかった。否、言葉に出来なかった。
悲哀過ぎて俺は目を逸らす。そして反吐がした。他者を踏み潰してまで救われたいと願う奴らに。 死への恐悸は痛いほど解るが、俺は奴らを軽蔑する。
やがて、取り残されたのは俺と、折れているであろう足を引き摺る老人、気絶したランドセルの少年とベビーカーだけになった。
その中で俺はベビーカーに焦点を合わせた。泣いているのか、破けた布の合間から赤子が貌を顰めていた。しかし母を呼ぶその声も爆発の轟音の前では掻き消される。それに、頼る親も傍にはいない。この子を置いて逃げたのだろう。
やはり人間なんてそんな物だ。
興味本位ではなく、憐れみの意で赤子に近寄る。しかし俺も出来の良い人間ではないのでただ泪を流すことしか出来ない。
後方から、また爆音と熱風が身体をゆらりと包む。
その時一瞬だが視界の隅、洋服屋のショーウインドウに歪んだビルが映り込んだ。それは見事なまでに形骸と化しており、いつか観た映画のワンシーンに良く似ていた。
ああ、俺も君も死ぬのか。
ただ、俺は現状を憂い、そして形骸が唸る方へ振り返った。
潰れた―――。