家臣たちの力を借り、桜華はついに総大将の間までたどり着いた。決心のついた桜華は扉を開け、総大将の間へと突入した。
「虎雅よ!!私の両親の仇を取るべく、ここまでやってきた……!早く姿をあらわせっ!!」
桜華がそう叫んだ時、何処からとも無く虎雅が現れた。どうやら彼は天井裏で戦うための準備をしていたようだ。
「お前は……あの時のっ!?私が焼き討ちにした村にいた娘だな!!両親を失い、泣いてばかりいたと思えば…姫武者となって私の首を討ち取りに来よったか!しかし…この私の首をお前に討ち取ることが出来たらのことだけどなっ…!!」
虎雅は身に纏っている布きれを放り投げると、黒装束と鎧を掛け合わせた鎧が露になる。腰紐には忍者の武器である忍び刀・手裏剣などが納められていた。
「貴様…武士ではなく忍者だったのか!?」
桜華は虎雅に忍者だと問いただすと、虎雅は笑いながら答えた。
「フハハハッ!!忍者というのは昔の話だ…今は武士だ。私は風魔と炎魔、それぞれの流派を使える忍者なのだからな。二つの流派を持つことは忍者として禁忌だが…力を持ち他国を滅ぼし、わが国の天下統一のためだからだっ!!貴様…桜華とか言ったな……。ここまで来たからには…死んでもらおうぞっ!!」
虎雅は忍び刀を構え、桜華に襲い掛かってきた。
「なるほどな…忍者と武士を併せ持つ存在か。両親の仇…今ここでとらせてもらうっ!!」
桜華は刀を構え、虎雅に向かっていく。しかし元忍者である虎雅は、素早い動きで桜華を翻弄する。
「フハハハハッ!!武士である貴様にこの私が倒せると思ったか!忍び技の極意、受けてみるがいい!!喰らえ、炎魔烈風刃!!」
虎雅が投げた手裏剣が桜華を狙った。しかし桜華は刀を盾にし、防御する。しかし、防御できず床に落ちた手裏剣から炎が巻き起こり、桜華の周りを囲んだ。
「その手裏剣…何か仕込んであるのか!!」
その手裏剣は忍者の使う普通の手裏剣ではなかった。手裏剣に火薬を仕込み、地面に向かって投げつけることで摩擦が起こり、それにより火薬に火がつくという炎魔手裏剣であった。
「そうだ…仕込んであるとも。この手裏剣は特殊でな、火薬が仕込めるというところだ…他にも、この風魔手裏剣もそうだ…。」
虎雅は風魔手裏剣を取り出し、桜華の眼前でちらつかせる。
「それも何か仕込んでいるというのかっ!?」
「そうだよ…こいつは風魔手裏剣といってな、特別鋭利な刃が武器だ。たとえば…こんな風になっ!!」
虎雅投げた風魔手裏剣は、桜華の体を掠めるようにして飛んでいった。手裏剣の刃によって出来た風の刃が、桜華の頬をかすかに切り裂いた。
「うぐっ……。今のは効いたぞ。しかし私はまだ動けるぞっ!!!」
桜華は炎を振り払い、すぐさま虎雅に反撃を仕掛ける。
「喰らえっ!!」
桜華の刀の一撃が、虎雅の体を切り裂いた。しかし、虎雅の体は丸太に変わっていた。
「フハハハハッ!!甘いぞ桜華よ…こんなことでは両親の仇は討てぬぞっ!!」
変わり身の術に惑わされた桜華に、背後から虎雅が斬りかかった。その気配を察知し、桜華は身をそらして斬撃をかわした。
「不意打ちなど卑怯な!!武士ならば正々堂々戦え!」
桜華の言葉に、虎雅は笑いを浮かべながら答える
「フハハハハハッ!!卑怯だと…!?そうだ。私は卑怯だ。この日本を支配するためにも…大名というのは卑怯かつ狡猾でなきゃならぬのだ!貴様…桜華といったな。その意味が分かるか?分からないなら教えてやろう…。私に歯向かう奴は皆殺しにしてやるということだっ!!」
虎雅は忍刀から武士の刀に持ち替え、そう言いながら天守閣から屋根の上に向かっていった。
「桜華よ、両親の仇をとりたければ天守閣の屋根の上まで来い!!ここで決着を付けてやる!」
天守閣の屋根に向かっていった虎雅を追うべく、桜華も天守閣の屋根に向かっていった…。
天守閣の屋根に来た桜華の目に、武士の格好をした虎雅がそこにいた。
「虎雅よ…今ここで両親の無念を晴らすために、決着を付けにきた!!」
「ここまで来るとはたいした奴だ…今こそ本当の決着をつけようぞっ!!」
両者一歩も譲らぬ緊迫した状態の中、桜華と虎雅が刀を構えて斬りかかろうと摺り足で近づく。一陣の風が二人の髪を揺らした後、先に前に出たのは虎雅であった。
「フハハハハッ!!勝つのは私だっ!桜華よ、ここで死ねっ!!」
虎雅は刀を握り締め、一気に桜華に斬りかかった。桜華は刀を盾にし、虎雅の斬撃を受け流そうとする。
「悪いがここで死ぬわけにはいかない…。だから私は貴様を倒す!!」
桜華は腕に渾身の力を込め、虎雅の刀を受け流し、虎雅の背後に回る。彼の背後に回った桜華は、虎雅の背中を一気に蹴り飛ばした。
「虎雅…おぬしの負けだ…。地獄でその罪を悔い改めるがいいわっ!!」
桜華の蹴りを喰らった虎雅は、天守閣の屋根から一気に地面へと叩きつけられた。地面に思い切り叩きつけられた虎雅は、二度と動くことはなかった。
「父上様…母上様…私はたった今虎雅を討ちました。どうか安らかにお眠りください……。」
虎雅が死んだのを確認すると、桜華は瞳を閉じて手を合わせ、天に向かってそう呟いた。
一方城の中で戦っている桜華の家臣たちは、戦いを終えて桜華のいる総大将の間へとやってきた。
「桜華殿!!助太刀に来ましたぞっ!」
その言葉を聞いた桜華は、天守閣の屋根から総大将の間に戻ってきた。
「助太刀はいらぬ…虎雅はすでに私が倒した。私の復讐は終わったのだ…。」
家臣たちが桜華の武功を称える中、冥那と鋼獅朗、そして冥那と戦っていた慈阿が現れた。
「何々…扉越しから聞いていたが、桜華が虎雅を倒したという話は本当か?」
冥那の言葉に、桜華は静かに口を開いた。
「そうだ。私は虎雅を倒したのだ。冥那殿、私を上に行かせるために戦ってくれてありがとう…。」
「いいってことよ。桜華殿はあの頃は私に刀の使い方などを教えられていたが、今は私を越えるほどになったな……。おっ、それよりあなたにお礼を言いたいって言う人がいるので、私の話はこれで…。」
冥那が話を終えて後ろに下がると、慈阿が桜華の前に現れた。
「あなたが桜華殿ですか…あなたが虎雅を倒してくれたおかげで、私は幻惑の術から覚めることが出来
ました…。虎雅が倒されてしまった今、この大和を治める者がいなくなってしまいました。」
慈阿がそう言った後、桜華の家臣である東雅が前にでた。
「私がこの大和の領主となります!虎雅によって荒廃した大和を、私が立て直して見せます!」
東雅がそう言った瞬間、竜五郎も前に出た。
「俺は東雅殿の副領主となるぜ。一人より二人のほうがいい国を作れそうだな…と思うからさっ!!」
東雅と竜五郎の行動を見た桜華は、名残を惜しみながらそう言う。
「東雅殿…竜五郎殿…おぬしたちと旅が出来て私は嬉しいぞ…。二人でこの大和を立派な国にするのだぞっ!!」
桜華の言葉を聞いた二人は、深く桜華に一礼をした。その後慈阿は桜華の方を振り向き、そう言った。
「あなたとともに戦った家臣なのですから…きっといい国になりそうですわ。これからが楽しみですわね…。今日は疲れたでしょう…この城で休んでください。」
慈阿がそう言った後、桜華は平和になった大和の城で一泊することにした。虎雅との戦いで疲れきったのか、桜華はすぐに眠りに着くことができた。
「桜華殿…早いとこ出発の準備をするぞ。」
鋼獅朗がいきなり桜華を起こした。桜華が目覚めたときには鋼獅朗はすでに出発の準備を進めていた。
「うむ…。こんな朝に何のようだ…。」
桜華は眠たい目を擦りながらそう言う。すると冥那が桜華に事情を伝えた。
「今からおぬしの故郷に向けて馬を走らせる。さぁ行くぞ!」
桜華は準備を済ませると、すぐさま鋼獅朗の馬車に乗り込むのであった。
桜華の活躍により、虎雅は倒れた。
虎雅が倒されたことにより、虎雅に侵略された領地は元の領主に返還され、日本に平和が戻った。
一方復讐を成し遂げ、故郷に戻った桜華は、自分の村で狩りに明け暮れる普通の毎日を送っている……。
女流武者 御剣桜華 完