両親の仇である虎雅を討つべく大和へと行軍を開始した桜華たちは、大和街道で虎雅の武士たちに虐げられている平民たちを助けるべく、龍牙丸を走らせ、虎雅の武士の列に突っ込んでいく。
「龍牙丸よ、あの武士の列に突っ込むのだっ!!」
――パシンッ!!桜華が鞭を振るうと、龍牙丸は猛スピードで虎雅の武士の列に突進した。スピードと体重が加えられた体当たりの一撃により、虎雅の武士たちの足が地面から離れた。
「ぐわああっ!!」
虎雅の武士は地面に叩きつけられ、そのまま気絶してしまった。桜華は平民を馬車に入れると、馬車の中にいる雅沙羅にそう言った。
「すまぬ、雅沙羅殿よ、紅零と共にこの平民たちを山城へと送り届けて欲しい。龍牙丸とはここでお別れだが、ここは私と東雅殿、そして竜五郎殿で大和へと向かう。」
桜華がそう言うと、雅沙羅がこくりと頷いた。
「大丈夫です。私たちが無事に山城へと送り届けます。桜華殿、どうかご無事で……。」
雅沙羅は龍牙丸の背中に乗り、平民たちを送り届けるために紅零と共に山城へと向かっていった。桜華との別れを惜しむ龍牙丸の目には、涙が溢れていた……。
龍牙丸と別れた桜華たちは、虎雅のいる大和へと続く唯一の道である大和街道を歩いていた。桜華たちの移動手段である馬を失った今、三人はただ歩き続けるしかなかった。
「龍牙丸を失った今、私たちは歩くしかないな…。皆の者、敵の本拠地である大和の城下町が見えてきたぞ。城下町にも虎雅の武士がおりそうなので、気を抜かぬようにな。」
桜華たちはしばらく歩き続けたとき、目の前に大きな門が現れた。どうやらこの門を抜ければ、悪の総大将である虎雅のいる大和の町だ。桜華は大きな門に手を当て、力いっぱい押し始めた。しかし、女の武士の力だけでは大きな門はびくともしなかった。
「桜華殿、私も手伝いますぞっ!」
「俺も手伝うぞっ!俺も桜華殿の家臣だからなっ!」
大きな門をたった一人で押す桜華を見た東雅と竜五郎が桜華の元に駆けつけ、大きな門を押し始めた。三人の力により、大きな門は音を立てて動き始めた。
「皆の者よ、礼を言う。無事にここまで来れたのも、おぬしたちのおかげだ。さぁ、今こそ力を合わせて、虎雅を討ち倒そうぞ。」
桜華がそう言った後、全員は門の隙間から大和の城下町へと向かった。城下町に入り込んだ桜華たちは、敵に見つからぬよう静かに歩き始めた。
「さすがに敵の本拠地とあるだけに、人通りも少ないようだな。できるだけ音をたてるでないぞ。音を立てたとたんに虎雅の武士たちが一斉に襲ってくるぞ…。」
桜華が辺りを見回すと、城門の辺りに数人の虎雅の武士の姿が確認できた。むやみに城門に近づくと、命すら危ない状況であった。
「さすがにこれは危険すぎるな…。城門の辺りは虎雅の武士がうようよしている。とりあえず対策を練ってから進もう。」
桜華が悩んでいる表情でそう言うと、東雅が手を挙げて提案した。
「ここは私が手を挙げて提案しよう!!私たちが城門にいる武士を倒し…ゲフンゲフンっ!!いや、なんでもない。ただの独り言だ。」
東雅の提案に気に入らないのか、桜華が鋭い目つきで東雅をにらみつけた。東雅は桜華に睨みつけられた瞬間、言いかけたセリフを咳払いでごまかした。
「東雅殿…むやみに敵の軍勢に突っ込むと危ない。その作戦は私的にはダメだ。とりあえずここで隠れていい作戦を考えよう。」
桜華はそう言うと、桜華と家臣たちで城門を突破する作戦を考え始めた。城へと突入するためにはあの武士たちと戦わなければならない。万全の状態で虎雅と戦うためには、せめて無傷で城の中に入る方法だけを考える必要があった。城の中に入る方法を考えていていても、謎は深まっていく一方であった……。
そのとき、桜華が入ってきた門とは別の場所から城下町に入ってきた一人の女の武士が大勢の家臣を引き連れ、虎雅の武士に立ち向かっていった。桜華はその女の武士に見覚えがあった。それは因幡の町でであった冥那であった。
「あれはもしかして冥那殿ではないか…。どうやらこの近く鋼獅朗殿もここに来ているのか…。」
桜華がそう呟いていると、桜華たちの入ってきた大きな門が大きな音を立てて開かれた。開かれた門から大きな男の武士が大勢の家臣を引き連れてやってきた。この人もまた、桜華には見覚えがあった。かつて備前の城を取り戻すため共に戦った鋼獅朗であった。
「おお…鋼獅朗殿もここに来てくれたか…。心強い限りだ。私たちも先を急ごう。」
桜華は城の中へ急ごうとしたそのとき、鋼獅朗とばったり出会ってしまった。
「おぬし…まさか桜華殿ではないかっ!よくぞここまできたな。総大将である虎雅はこの城の中にいる!!それより、家臣はどのくらい集まったのだ…。」
桜華が鋼獅朗に集まった家臣を紹介すると、鋼獅朗が桜華の肩に手を当て、こう答えた。
「桜華殿よ、よくぞここまで挫けずにここまで来たな…。私の家臣である冥那も、私の大勢の家臣と共に今城門にいる虎雅の武士と戦っている。私はその隙に大和の城に突入する。桜華殿も私と共に大和の城へと突入してくれ…。総大将である虎雅の首を討ちとる時だっ!!」
鋼獅朗がそう言った後、冥那たちと虎雅の武士が戦っている隙に、城門を開け大和の城へと突入を開始した。鋼獅朗の後を追うかのように、桜華たちも城へと突入していった。
「総大将・虎雅様…外がなにやら騒がしい様子ですが、何者かが大和を襲撃している模様です。虎雅様、ここはどうしますか…?」
総大将の間では、虎雅の側室である亜夢音慈阿(あむねじあ)が虎雅にそう言うと、虎雅は慈阿の方を向き、静かに答えた。
「報告ご苦労様だな…。お前は我が忍術、幻惑の術により忠実なる僕となったのだからな…。役に立たないと判断したときはこの場で首を切り落とす……いいな。」
虎雅は慈阿に刀をちらつかせると、慈阿は首を縦に振り、こう答えた。
「わかりました…。私は直ちに侵入者の排除に向かいます。私は一応姫武者ですからね…。」
慈阿は着物の帯を外し、着物を放り投げた。するとそこから赤銅色の甲冑が姿を現した。
「では任せたぞ慈阿よ…必ずやこの城に入り込んだ侵入者を打ち倒すのだ…。」
虎雅がそう言った後、甲冑を身に纏った慈阿に侵入者の排除を命じた。
一方大和の城内に突入した桜華と鋼獅朗たちは、虎雅のいる総大将の間を目指していた。鋼獅朗の家臣たちが迫り来る武士を次々と蹴散らしながら城の奥へと進んでいく。すると目の前に女の武士の姿がそこにあった。
「何者だっ!!私は虎雅を討つためここまで来た。そこを通してもらおう…。」
桜果が女の武士にそう言うと、女の武士が不気味な笑いを浮かべながら近づいてきた。
「残念だけどここは通せないわ…。私は虎雅様の側室であり姫武者…亜夢音慈阿と申す!虎雅様の命により、そなたを倒すっ!!」
慈阿が桜華に刀を向けた瞬間、城門前での戦いを終えた冥那が駆けつけてきた。
「ここは私が引き受ける!桜華殿は虎雅のいるところへ向かえっ!!私のことなど心配するな…。無事で帰ってくるさ……。」
冥那が刀を鞘から抜いた瞬間、慈阿が刀を構えた。冥那と慈阿が鍔迫り合いをしている中、桜華たちは城のさらに奥へと進んでいった。
「桜華殿…強くなったでござるな。頼もしい家臣とともに…総大将の虎雅を倒せ……。」
冥那が心の中でそう呟くと、慈阿との戦いに身を投じるのであった。
冥那のおかげで、桜華たちは総大将の間の一歩手前までたどり着いた。
「虎雅…今度こそ、絶対に許さない…。私がこの手で復讐を成し遂げる…。今は両親の仇を討つまでは、私は死ねないのだからな…。」
桜華がそう呟いているとき、後方から追っ手の武士が現れた。
「しまった!!不意打ちとは卑怯なっ!」
桜華が突然の不意打ちに驚いているとき、東雅と竜五郎が追っ手の武士に立ち向かっていった。
「桜華殿、ここは私たちに任せて、はやく虎雅の所へお向かいください!!さぁ、早く!」
「必ずや虎雅を倒してくれよっ!!死んだら許さぬからなっ!!」
東雅と竜五郎がそう言った瞬間、桜華は総大将の間へと走っていった。今は桜華を先に生かせるために戦う家臣のため…虎雅によって殺された両親のためにも、今は総大将の間へと向かうしかない。ここまで来ると、もう後戻りなど出来ない。虎雅を倒すまではこの城から出れないのだ。
「私はあのような家臣たちをもって本当によかった…。冥那殿や鋼獅朗殿…そして我が家臣たちのためにも、ここは絶対に負けるわけにはいかないのだ!!」
桜華が足を止めたその先には、大きな扉がそこにあった。どうやらこの先に諸悪の根源である虎雅がいる総大将の間であった……。
仲間や家臣たちのおかげで、桜華はついに総大将の間の前までやってきた。
桜華は虎雅を倒し、両親の仇をとることが出来るか!?