――この物語は、かつてエルジェの魔導学校でで術を学ぶ少女リリシアが、黒き復讐の魔導士に変貌するまでを描いた、数年間の記録・・・。
それは・・十数年前のことであった・・。
かつて魔王として武勇を馳せていた魔族の魔軍師・ガルアドスとエルジェの術士であるリリエール・グラシアと結婚し、一人の赤ん坊を授かったことから、すべてが始まった・・。
「もうすぐだな・・。もうそろそろ生まれてくる子供の名を決めないとな・・。」
ガルアドスが生まれてくる子供のために名前を考えていた。
「私もいろいろと考えていたの・・。いい子に育ってもらえるようないい名前を・・。でもなかなか思いつかないわ・・。」
グラシアはそのお腹に子供を授かってもう9ヶ月が経とうとしていた・・。
この9ヶ月間、生まれてくる子供に傷がつかないよう、体を大切にしていた。
「うむ・・。かつて魔王の名前に「リリアン・エシュランス」という魔王がいた。その魔王は戦いを好まず、平和を愛していた魔王だ・・。慈悲深い魔王・リリアンとお前の名、グラシアから半分ずつとって「リリシア」という名前はどうかね・・。きっとこの名前なら、すくすくと育ってくれるだろう。」
ガルアドスがそう言うと、グラシアは嬉しそうな表情でこう答えた
「その名前、いいわね!!生まれてくる子供の名前は「リリシア」に決まりね!!」
グラシアがそう言うと、二人は眠りについた・・。
――そして一ヵ月後、待望の赤ちゃんの誕生の瞬間がやってきた・・。
グラシアが陣痛を起こし病院に運ばれたという知らせを聞いて飛んできたガルアドスは、すぐさまグラシアの元に駆け寄った
「グラシアっ!!もうそろそろだな・・。がんばるんだぞ!」
ガルアドスがグラシアの手を握り、励ましの言葉を送る
「ええ・・。がんばりますわね・・きっと元気な赤ちゃんを産んで見せるわ・・。」
グラシアが陣痛の痛みに耐えながら、こう答えた
「力みながら、まず息を吸って・・その後ゆっくりと息を吐くんだ・・。そうすれば少し痛みが和らぐだろう。」
ガルアドスの言葉で、グラシアは呼吸をはじめた
「ひぃ・・ひぃ・・ふぅ・・・。」
グラシアは力みながら少しずつ息を吸い、その後すぐに息を吐いた・・。
ガルアドスの手を握りながら、彼女はその動作を繰り返した・・。
そして数分後、グラシアは元気な女の赤ちゃんを出産した。
「おめでとうございます!!元気な女の赤ちゃんです!!」
産婆が元気な赤ちゃんを産むために最後までがんばったグラシアを祝福する
「ありがとうございます・・。あなたが私の手をつないでくれたから、元気な赤ちゃんを産めたのよ。」
力を使い果たしたグラシアが産婆にこう言った
「よくがんばったね・・。妻のほうはしばらく休養が必要です。しばらくは入院生活です・・。これも母体の回復のためです。」
その言葉に、ガルアドスが答える
「すまぬ・・。グラシアを頼んだぞ・・。グラシア・・私も一緒に病室にいたいのは山々なんだが、私は事情があって故郷である魔界に帰らなくてはいけない・・。何年も帰ってこられなくなるかもしれない。グラシアよ、赤ん坊のリリシアの事はお前に任せたぞ。」
そう言うと彼は、翼を広げて大空へと飛び立って行ったのであった・・。
そして7年の歳月が流れ、リリシアはすくすくと育っていった。
リリシアはエルジェの魔法学校で術を学ぶ、7歳の少女へと成長したのだ。
「リリシア。早くしないと学校に遅れるわよ!!」
グラシアの声が、家の中に響き渡る。それがいつもの日常であった。
「母さん!!行ってきます!」
リリシアは慌てて家を出た後、すぐさまエルジェの魔導学校へと走り出していった・・。
そして授業が終わり、放課後を迎えた。
「はぁ・・。今日も術の授業が終わった・・。早く家に帰らないとね・・。」
リリシアが自分の家に帰り、家のドアを開け、リビングへと向かった。
しかし何かがおかしい。母親の姿がどこにもなかったのであった・・。
「あら・・こんなところに手紙が・・。」
リリシアはテーブルにおいてある手紙を見つけ、読み始めた・・。
私は消えた夫を探すために、しばらく旅に出ます。リリシアには辛い思いをさせてしまった私を、そうか許してください・・。いつになるか分かりませんが、必ず帰ってきます・・。
その手紙を読み終えたリリシアの目からは、涙があふれていた
「そんなの・・勝手すぎる!!勝手すぎるよっ!!」
リリシアは泣きながら、家を飛び出していった・・。
母親の失踪により、行く当ても帰るところをなくしたリリシアは、一人魔導学校の屋上で涙を流していた。
「ひどいよ・・・。母さんがいなくなったら私どうすればいいの・・・。まだ子供の私には分からないよ・・・ううっ・・。」
リリシアの目からは、涙がとめどなく溢れ出していた・・。
その時、一人の男がリリシアに手を差し伸べた
「一緒に・・・来るかい・・?」
その言葉のするほうにリリシアが振り向くと、仮面をつけた一人の男がそこにいた。
「誰なの・・。」
リリシアが答えると、その男が答えた
「私は仮面の魔導士・・。君の事は知っている。母親がいきなり失踪し、君一人で辛い人生を送る羽目になったのだな・・。ならば私と一緒に来ないか・・。エルジェよりもよりよい暮らしが、君を待っているぞ・・。」
仮面の魔導士の言葉に、リリシアは首を縦に振った。
「私・・、あなたについていきます!!だって、こんな運命、間違っているわ!!」
リリシアの言葉に、仮面の魔導士はリリシアの手を握った。
「わかった。ならば私の手を離さないでくれ・・。このまま一気に私の故郷である魔界へと移動する。君がここにくれば、エルジェの術士よりも強い魔力が手に入るぞ・・。さぁ、そろそろ行こうか・・。」
仮面の魔導士がそう言うと、リリシアをつれて魔界へと消えていったのであった・・。
魔界へとやってきた二人は、どこかの家の中へとやってきた。
「ここが私の実家だ・・。リリシア・・ゆっくりしたまえ。」
その言葉を聞いたリリシアは、大きなベッドに転がり込んだ。
「わ~いっ!!少し遊んでもいいかしら!!」
リリシアの言葉に、仮面の魔導士が答える。
「奥の部屋で遊んでもいいが、けがしないようにするんだぞ・・。」
仮面の魔導士がそう言うと、リリシアは奥の部屋へと入っていった。
奥の部屋には、子供が好きそうな遊具がそこにあった。
その部屋の片隅に、大柄の子供が一人で遊んでいた
「ねぇ・・一緒に遊ぼう!!」
リリシアが大柄の子供に声をかけた瞬間、その大柄の子が答えた
「僕の名は・・ベルだじょ~。友達一人もいなくて退屈だ。よければ、一緒に遊んであげてもいいじょ~。」
ベルの言葉に、リリシアが嬉しそうな表情で答えた
「嬉しいわ!!一緒に遊びましょう!私も友達がほしかったの!!」
リリシアがそう言うとベルと一緒に遊び始めた・・。
遊びつかれたリリシアとベルが眠りについたとき、仮面の魔導士が一人呟いた
「リリシアとかいう女・・魔導士に仕立て上げるのにはいい魔力だな・・。あの二人には魔導術の修行でもさせてやれば、私でもクリアするのに難しかった魔王の試練も無事にクリアできるかもしれないな・・。あの二人の潜在能力には私も驚かされる・・ハッハッハ!!」
仮面の魔導士がそう言うと、自室に戻り眠りについた・・。
「二人には私の計画のために・・最強の魔導士に仕立て上げてやるぞ・・。ハハハハハッ!!」
Lilithia ~復讐の黒き魔姫~ 1/3 終