一話 『コノは狐娘の儀式をする』
初春。日差しが暖かく、日向にいると少しだけ汗が滲む。この日は私『コノ』にとっては特別な日で、儀式の行われる洞窟を目指すため、木が生い茂った森深くを数時間歩いて、歩いて歩き疲れている。長い間放置され続けていた森だろうか。木がかなり歳を取っていて幹が太い。息を整えようと不意に顔を上げ、空を見ようとする。視界には葉のおかげで、緑緑緑。歩き始める頃は、まだ緑よりも空の青の方が多かったような。深く考えている時間もないので、目を閉じて空気を吸う。酸素だけを体内に取り入れ、その代わりに二酸化酸素を体内から出す。二回ほど繰り返し、また前で歩いている少女二人に急ぎ足でついていく。
「こらこら、あまり急いでいると儀式途中で眠ってしまいますよ」
そう優しい声が大きな耳に響く。振り向くと、人間の体をした『キン』さんだった。腰までの長い金髪を風で靡かせて、伏せ目は心配そうに私を見つめている。細い体は紫色の浴衣がよく似合う。
「そうだよ? 結構睡魔襲うんだから……」
キンさんのあとに続き、こちらも人間の体をした『セイ』が笑う。幼い顔は、とても印象に残る。肩までの銀髪といい、みっともない着方をした朱色の浴衣は膝までと丈が短いことといい、幼い体とはとても釣り合わない。そう思うのは私だけだろうか。
この二人は、狐娘儀式に成功している。そして、今日私もその儀式で狐娘になる。生憎狐のままでは、思った事を伝えれないし、表情で表すこともできない。本当は夏に儀式をする予定だったのだが、キンさんに頼み込み早めてもらったのだ。やるからには成功したい。だなんて、口に出すことさえできない。
「もうすぐよ。儀式が行われる洞窟」
「ほらほら! 見えてきた!」
セイが指差す先は、如何にもRPG系のゲームに出てきそうな暗い洞窟があった。洞窟の入口近くには鳥居が置いてあり、まるで神社のようにも思える。ここで一夜を過ごし、人間……狐娘になれるのか。意味もなく振り返る。どこまで森奥深くまできただろうか。日光の明るさは葉で全て覆い尽くされてしまっている。
もうすぐ日が沈み、夜が来ようとしている。今日は綺麗な満月です。