コクピットのシートに座り、ハッチが閉じて視界を遮断する瞬間。
何かがコクピットの中に滑りこんで、体当りするようにアリスにぶつかる。
メガネのずり落ちているその人は、クレアだった。
「何が!ありがとうだ!」
「く、クレア・・・!」
怒っている。
「どうしても行くって言うなら、私も連れていきなさい・・・」
肩を掴まれて、目を合わせる。
「エリカを失って、今度はあんた・・・またあんたたちPHは悲劇のお別れで終わらせる気なの・・・」
「あんたたちって・・・」
目を背ける。
「私はエリカさんとは違う・・・それに私は思い出したの。私はグレース、グレースなの」
「思い出したのか・・・」
「そう、全部思い出したの」
もう、私はアリスではないのだ。
「よかった・・・」
「よかったの・・・?私はもうアリスじゃないんだよ・・・?」
クレアは、微笑んだ。
「私の大事な人には変わりないよ。アリス、いや、グレースと呼ぶよ。本当の名前」
そうか・・・そうなんだ
「私がグレースになっても、クレアは他人にならなくていいの・・・?」
「もちろんじゃないか。まったく、世話のかかるやつ。グレース、あんたのなかで私はもうどうでもいい人間なのか?」
私の心のなかでも、クレアは大事な人のままだった。
大事な人で、頼れる親代わりだった。
「私・・・助けに行かなくちゃいけないの・・・友達を」
「それが、あんたを呼んでた声の正体か」
「早く助けないと・・・あの戦場の真ん中にいるの」
この子が行こうとしているところは戦場だ。人殺しの業が渦巻く混沌の地獄。
グレースのPH能力とこのサイコ・フレームを搭載した機体性能なら、間違いなく狩る側として戦場に君臨することになる。それほどにこの子のPH能力は高いし、この機体も掛け値なしの最新鋭機だ。
だが、グレースの若い小さな心で、何もかも背負うことはないんだ・・・そのときは、私が背負ってやる。
「一緒に行こう、グレース。それともあたしが乗ってると邪魔か?」
「ううん・・・。なんだか、クレアが居たほうがこの子への反応がいい気がする」
親しい人間と居ることで、精神波が安定するのだろうか。そうだといいな、という願望込みで思う。
「発進するよ、クレア」
アリスがコールする。
「プラチナバード!」
2人を中にやどしたプラチナバードが飛び立つ。