二千十二年生まれの悠真君
悠真君が産まれるまで、もう少し。
「名前はどうするの?」
「実は、もう決めてあるんだ。」
二千十二年の冬、悠真君はこの世に誕生した。体重約3千グラム。医者は、「佐藤さん、元気なお子さんですよ。」何て定番のセリフを彼の両親に言っていた。両親もそれを聞いて安心し、自分達の産んだ我が子に愛情と期待を同時に捧げていた。
二千十三年、彼は一歳となる。彼の記念すべき初の誕生日であった。この頃になると体重も十キロ程となり、生後間もない頃と比べて、大きな成長を見せた。
「ちゃんとビデオ回してるの?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「そろそろ初めましょうか。」
「そうだな。」
この日の為に買った誕生日用のケーキ。そこに、小さな蝋燭が年の数ほど刺さっていた。
「ここに、息を吹きかけるのよ。ふぅって。」
「まだちょっと無理じゃないのか?」
「そうね、仕方無いかな。」
母親が彼の代わりに蝋燭を吹いて消し、悠真君はおいしそうに、ケーキを食べた。
十三年から三年後。二千十六年となった。悠真君は幼稚園の二年目を過ごしている。友達もでき、毎日園内の遊具等で楽しく遊んでいた。
彼がいつもの様に友達と遊んでいると、そこに毛の生えた蝶か蛾か、どちらか判らない幼虫が一匹、彼らの足元にあらわれた。
「うわぁ、何だこれぇ。毛虫がいるぅ。」
大和君は脅えてるような、嬉しい様な声で言った。
それはあまりにも、小さな彼らには生々しい生き物で、彼らが好きなカブト虫やクワガタ虫ともまた違う、「毛虫」という名の別の生物だった。
「うわぁ、気持ちわるぅ。」
健太君は遊具から降りてきて近づいてそう言うと、靴をその上にあげた。落とした。それを繰り返す。
「健ちゃん、やめなよぉ。」
「そうだよぉ、やめなって。」
そう言った彼らの口元は、どこか笑っている様な悲しいような顔をしていた。
足は止まり、静かに足を上げると。動かない小さな毛の固まりがそこに在った。
「うわぁ、グロッ。」
皆が半笑いをしながら、反射的にそう言うと、
「あ、そうだ。高オニの続きしようよ。」
「そうだね、しようよ。鬼だれだっけぇ?」
「大和だよ。大和。」
彼らは高鬼に戻り、つい先程ここで一つの物が生まれた事は、彼等以外誰も知らなかった。