文芸新年企画~執筆はじめ~
結晶/栗野鱗
さらさら、と。
さらさら、さらり、さら、さらり。
メスシリンダアに注がれた、『とき』という名の溶媒に。
さらさら、と。
さらさら、さらり、さら、さらり。
ザラメにも似た結晶の、曝されて尚、白く在り。
たゆたう者と、先行く者と。
戸惑い悩み躊躇う者と。
匙の機嫌にぐるぐると、溶媒に身を磨り減らす。
きらきらと。
メチルランプのぬくもりに、尾引き煌く綺羅箒星。
その輝きは身を削り、されど笑顔で溶け消ゆる。
きらきらと。
ネオンランプの優しさに、嘘隠すなら大嘘の中。
本当なのは、その輝きが、恨めしかった。恨めしかった。
初雪さらら、ましろにさらら。
雪降り積みつ、七難隠す。
目に麗しく思えども、その七難は、まだ雪の下。
ちらちらと。
メスシリンダアに刻まれた、数字の意味が重くなりゆく。
またひととせと、またひととせと。道祖神にも似た一里塚。
ちらちらと。
わが身も削る溶媒の、一部となりし懐かしき笑顔。
直に皮肉も届かぬけれど。直に想いも届かぬけれど。
残りの目盛と過ごしたメモリ。
天秤はさて、どちらに傾く。
それの重さを信じるために、それの軽さに切り刻まれて。
さらさらと。
己<おの>が脆さを誇りつつ。
ましろき澱となり降り積まん。たださらさらと、ただ降り積まん。
さらさらと。
水面<みなも>は遙か、揺れるだけ。
磨り減り損ねた澱なれど、今日の水面は微笑んでいる。
ただ降り積む。そして降り積む。過ぎ去りし者を讃えつつ。
ただ降り積む。そして降り積む。続きし者をいとおしみつつ。
今年の抱負:一年かけて考える。