Neetel Inside 文芸新都
表紙

文芸新年企画~執筆はじめ~
穴/近松九九

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 男はどこか良い土地を見つけ、裕福で幸福な暮らしをしたいと望みながら旅をしていました。けれども、その日食う飯にも困るのが実状で、そのため主人公はよく詐欺や盗みを働きました。まともな人間とは到底言えない生き方をしていました。
 旅の途中、男は人里離れた場所に、家を見つけました。そこには老人が一人住んでいました。男は半ば脅すように頼み込み、しばらくその老人の家に泊めてもらうことにしました。
 男はこの家が割合気に入りました。暖かく、静かで、それでいて働かずとも飯が食える。いっそここに腰を据えようか。いやしかし、この老人も先が短そうである。逝ってしまえば自分が働かねばならない。この人里離れた地で職を見つけるのは些か骨が折れるだろう。男はそう考えながら怠惰に日々を過ごしていたのでした。
 ところで老人は昼間、男に見つからないようにこっそりとどこかへ向かっていました。大方わずかばかりの銭を稼ぎに出ているのだろうと、最初は気にならなりませんでしたが、日を重ねるうちにどうしても気になって、ある日男はとうとう老人の後をつけてみることにしました。
 野道を進み、木々をかきわけ、山道を下り、また上り、川を渡り、橋を歩き、そうしてたどり着いたところは、人どころか熊や山兎さえ居そうにない、至極寂しげな場所でした。
 老人はそこで穴を掘っていました。何のためだかは分かりませんが、驚くほど大きな穴を掘っていました。男は老人に気づかれないように観察を続けました。
 そんな日が、何日も何日も続きました。
「いつまでいるのだ」
 ある日老人は尋ねました。男は「もうしばし」と答えました。
 実のところ、もう男はこの家に飽き始めていましたが、いかんせん穴の理由が気になって旅立つ気になれませんでした。老人はじぃっと男の目を睨んだ後、小さく「そうか」とこぼして、また再び黙り込んだのでした。
 もしかしたら老人は、宝を掘っているのかもしれない。男はある時ふとそんな考えを抱きました。最初はなんと荒唐無稽な考えだとも思いましたが、よくよく老人の行動を思い返してみると、いくつか思い当たる節があるのも事実です。案外この考えは的を射ているのかもしれないと考えました。
 男は金が欲しくて堪りませんでした。金さえあれば家を買い、商売を興し、嫁ももらい、幸福な生活を送ることができる。何と素晴らしい。男の中に生まれた宝に対する欲望は、日と月が入れ替わるたびに、むくむくと大きくなっていきました。
 老人が掘っているのは宝に違いない。男はとうとう我慢できず、老人を問いただしました。けれども老人は首を横に振るばかりでした。そんなものは存在せぬ、とかたくなに否定していました。
 老人の態度があまりにも妖しかったので、男は己の考えにさらなる自信を持ちました。欲望は抑えの利かないほど肥大化していました。
 そしてある日、男は老人の首を絞め、殺めてしまいました。
 老人の弔いなど後回しにし、男はがむしゃらに穴を掘りました。日が沈んでも、昇っても、手から血が出ても、疲労で意識を失いかけても、必死で掘り続けました。
 けれども、どれだけ掘り続けたって、宝は出てきませんでした。出てくるのは固い石や木の根ばかりでした。限界を迎えた男は老人の死体のある家に戻り、深い深い眠りにつきました。
 翌朝目を覚まし、食事をとろうと戸棚を開けると、そこには少しばかりの食べ物と、何故だか文が置いてありました。男は何の気なしにその文を手に取り、眠たい眼をこすりながら文を開きました。
 男はその内容に愕然としました
「身よりも知り合いもない私は、せめて御山に埋めて貰いたく思い、穴を掘っていた。さすれば欲に目がくらんだお主が、自分を殺すかもしれないと思ったのである」
 家をやる、とも書いてありました。わずかばかりの金も好きに使って良い。その代り、あの穴に自分を埋めてくれと書いてありました。
 そして文の最後には、こう記されていました。
「殺めてくれて、感謝する」
 独りぼっちだった老人でしたが、最期の時は独りではなかったのです。
 男は乾いた笑いをこぼしながら、老人の屍を穴へ放り、日が沈むまで土をかけ続けたのでした。




抱負

今更グレンラガンにハマりました。
アニキ、そしてシモンのような人間になりたいなぁと思いました。

       

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