Neetel Inside ニートノベル
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バレンタインの七日間戦争
五日目

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2月11日。建国記念日で学校は休み。
朝起きて、何かに期待してメールボックスを開いたが、やはり何も来ていない。
完全に見捨てられたことに気付き、急に寂しさが込み上げてきた。
昨日は相手に対して嫌悪感を抱いていたが、今はそれが自分に向けられる感情へと変わっている。
だが、自分の何が悪かったのかは未だに分からない。
誰にも相談することの出来ないこの悩みを聞いてくれたのは、小学生のころから可愛がっていたうちの三毛猫だった。
一言言うたびに、解ったかのよう「ニャォ」と返事をする。
猫は気楽で幸せといつも思っていたが、こうも理解されてしまうと猫社会にも色々あるのだと思う。
話しも終わり、猫が外へ散歩しに行くのを見届けると、俺は初めて、独りになったことを感じた。


夜になった。正確には、7時とちょっと。
冬といってももう二月だ。暗くなるのも遅くなったように感じる。
今頃あいつら、一人ぐらいからは貰えることになったのだろうか。
そんなことを考えていると、携帯のバイブレーションがなった。メールだ。

「今からそっちに行っていい…?」

と、持木から。
ふと思えば、もう何年も彼女を家に入れていない。こっちから行くこともなかった。
いつからそうなったのだろう。丁度中学校に入ったころからだったかもしれない。
だが、今までそれを気にしたことはなかった。
学校で会えるからとか、行きの道では一緒だからとか、そういうことを抜いても。
なんというか、男と女として当然違う道を行くようになった。みたいな。
いつも一緒に遊んでいたのが不思議なぐらいだ。

「いいよ。」

特に何の戸惑いもなく、昔のように気軽な気分でそう送った。
すると10秒も経たないうちに玄関から「ピンポーン」と鳴った。
もしかして、俺が昔を懐かしんでいる間、ずっと外で待ってたんじゃないか?あいつ。
これは悪いことをしたと思って、すぐに階段を駆け下りて玄関の扉を開けた。
持木の私服…。いや、寝巻?よくわからないが、こいつの普段着を見るのも久しぶりだ。
肩を震わせながら、ゆっくり白い息を吐いている。寒そうだ。

「返事するの遅くない?」

「いやちょっと考え事してたんだ。早く上がれよ。寒いだろ。」

「うん。」

一つ一つの動作が気になって、靴を脱ぐところから部屋に入って座る姿までちらちら彼女を見てしまう。
なんだか緊張する。
「あ、あのさ…今日は何の用で…。」
「ん、と…。昨日さ、喧嘩してたじゃん。大丈夫かな~って。」
「…大丈夫。いや、大丈夫じゃないかも。ってか、それだけ?」
もっと大事な用かと思った。いやこれも結構大事なことなのだが、メールで済ませればいい話。
話は他にもあるはずだ。俺は妙に確信を持っていた。
「それだけって。一番仲いいメンバーじゃなかったの?」
心配はしてくれているようだが、やっぱりなんだか「この話は本題じゃない」感が出ている。
「それはそうだけどさ。バレンタインが終わったら、どうせ自然に元に戻ってるよ。」
「そう。それなら良いけど。」
「ん。」

会話が途切れた。

「え――っと、それだけじゃないんだろ?」
「…。」
また途切れた。というか無視された?
「なあ。それだけの事で来ないだろ。」
「…。」
何だこの状況。
しつこい男みたいじゃないか。実際そうなのかもしれないが。
また俺が悪いのか?やっぱりよく分からない。自己中なのか俺は。

「ごめん…。今日、帰るね。」

…えぇー。なんだよそれ。
来てまだ10分。いや5分も経ってないだろう。
何?まじで喧嘩の事について聞きに来たの?と頭の中で文句を言った。
結構通じ合ってるものだと思っていたが、初めてこいつの意図が分からない。
そうこう考えてるうちに、持木はそそくさと出て行ってしまった。
人の気持ちが分からないというのは結構不便なことなのだと実感した。

するとその時、不意にバイブが鳴った。…また持木からだ。
今度は一体何なんだ、と思いながらも、メールを開いた。

「今年のチョコは今までより凝ってるから!(笑顔)」

一瞬ドキッとしてしまったが、二日前に持ってこないって言っていたはずだ。どういうことだ?
「この前、今年はチョコ無いって言ってなかったっけ…。」
と、聞いてみたら、すぐに返事が返ってきた。
「え?学校に持ってこないとは言ったけど、やらないっては言ってないよ。」
…そういうことか。そういうことだったのか。
例年通り、家に直接持ってくるって事だったのか!!
それが解ると緊張の糸が切れたように体中を脱力感が襲った。

それと同時に、田中の言った言葉が脳裏に浮かんだ。
…と思ったが、あの時熱くなっていたせいでよく思い出せない。
『最初からできる事をやっても意味が無い。出来ない事に挑むからこそ得る物がある。』
確かそんなことだったような…。いや、そうだった。
今。田中の言葉の真意が分かった。

俺は逃げていたんだ。
毎年あいつからは貰えるものだと割り切って、自分であいつから貰おうと思ったことは無かった。
今年は無いと言われたときに、「何故」と心で思っても口に出せなかった事がその証拠だ。
相手ばかりに頼りきって、自分から大きく動こうとはしなかった。
田中はそれを気付かせるために…。

俺はすぐにまた携帯を開き、「ありがとう。」とだけ書いて持木に送った。
その一言に色々な意味を詰め込んだのだが、彼女には伝わっているだろうか。
いや、俺があいつなら伝わる。だからあいつにも伝わるはずだ。

そして俺は、次に田中宛にメールを書き始めた。
その時ちょうど、携帯の電子時計の数字が全て「0」に揃った。

       

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