面白い話をする時は行きの電車の所から話すのがいい。
ゆっくりゆっくり盛り上げていって、クライマックスに持っていくのだ。
賢明な諸君はもうお気付きであろう。
そうっ!俺は今電車に乗っている。しかも行きの電車だ。
これから面白いことが起るのかって?そんな野暮なことは聞いちゃあいけない。
そもそもお前は誰なんだって?そうだな、それは良い質問だ。
俺のことを知りたいと思うってところ、君の感性悪かあない。
俺はガイ・タイガ。逆から読んでもガイタイガ。漢字表記大河涯。
頭脳明晰・容姿端麗・質実剛健三拍子揃ったパーフェクトガイだ。涯とGUYがかかってるとこ、笑うとこだぜ。
ん?そんなパーフェクトガイはどこに向かっているのかって?
しょうがないなあ。
お前にだけ、教えてやるとするか。
あの日は雨だった。
傘を忘れちまった俺は雨が通り過ぎるのを待つ場所が必要だった。
しかし、偶々持ち合わせのなかった俺に都会は冷たかった。
世知辛い街のど真ん中で俺を受け入れてくれる場所なんてなかった。
絶望した。
でも、そんな俺の目の前に光が見えたんだ。
看板だ。
二十四時間営業の小売店。
そう、コンビニエンスストア、略してコンビニだ。
コンビニの店員ってのは客が何してようが興味を示さない。決して向こうからはすり寄っては来ない人種だ。
でもな、あいつらは何ものも拒否しない。すべてを受け入れるんだ。
心まで冷え始めた俺は心の汗を目から流しそうになったさ。
ああ、ここに俺のベストプレイスはあったんだ。
ウィーン。
その瞬間だ。
俺の横を走りぬける女性。
巨乳。
えっ?
巨乳さんっ!じゃなかった。お姉さん、外は今雨ですっ。
傘をささずに手に持って大きく振ってお姉さんは叫んだんだ。
「お客さ~~ん、傘っ!!傘っ!!!」
びっくりしたね。
雨の中傘を持たずに店を出て行った客にじゃない。
巨乳のお姉さんにだ。
傘を届ける親切さにだけじゃない。
巨乳さんは、コンビニの制服を着ていた。
俺の驚きが分かるか?
客に興味を示さないはずのコンビニ店員が、肢体を濡らしてまで傘を届けたんだ。
しかも、忘れたのは客の失態だ、巨乳さんはなにも悪くない。
俺は立ち尽くした。
自動ドアは早く入れとばかりにその口を開けて待っている。でも、感動の嵐に打ちつけられている俺は彼の期待に沿うことはできなかった。
その時だ。
「お客さん、びしょびしょですよ?どうぞいらっしゃいませ」
天使がいた。
上目づかい、巨乳。
聡明なる諸君にはこのコンボの素晴らしさが分かるだろう。上から見下ろすとフレームの中に二つが同時に収まるのである。
感動の嵐は去り、俺の心に春が訪れた。
そう、俺は恋に落ちたのだ。
ふうっ・・・・。まさかお前まで彼女に惚れてしまってはいないだろうな?ライバルは増やしたくないからな。
まあ、でもそんなことはどうでもいい。隣に座った少女が俺の嘆息に見惚れてるのだって今の俺にはどうでもいいのだっ。
巨乳さんが、見た目のみならず心まで素晴らしい人であることは理解していただいただろう。
ん?結局どこに向かっているかって?
決まっている。
彼女のところだ。
あぁ、愛しい貴女。
今、あいにいきます。