今日はなんてツいてないの。
私がそう思ったのは隣に座った男があまりにも暑苦しかったからだ。
ニヤニヤしてたかと思うと、今度はため息をついたり、さっきなんて胸に手をあてて、お姉さん・・・なんて呟いてた。
このシスコン野郎が。
よっぽど席を移ろうかとも思ったのだけど、空いている席は見当たらない。
立ってもいいのだけれど、この電車はよく揺れる。
吊革に掴まれない私は暑苦しい男の隣で我慢するしかなかった。
私は鞄の中から履歴書を取り出した。
漢字表記 深瀬明
カタカナ表記 メイ・フカセ
性別 女
この名前のせいでよく男に間違えられる。
私はこんなにもかわいいのに。
自慢じゃないが私は本当にかわいい。
身長145センチ、体重35キロ。いや、そんな数字どうだっていい。
流れるような黒髪ロングにパッツン前髪。この髪型が許されるのはやっぱりあたしがかわいいからに違いない。
さらに女子高生補正まで加わっている。
それだけじゃない。
先週のことだ。
「メイちゃん、バイトしてないの?」
そう訊いてきたのはクラスメイトのよっちゃんだ。
「なんでバイトしないの?楽しいよっ。」
よっちゃんはとにかく明るい。世の中には楽しいことだけだと思っているくらい底抜けに明るい。
別にバイトをしたくないわけじゃない。
私は背が低い。それがチャームポイントとなっている。実際クラスの男子の大半は私にメロメロだ。
でも、背が低いというのはいいことばかりではない。
本棚の高い所には手が届かないし、満員電車では呼吸できないし、映画館では前の人が大きいと席を代わってもらわないといけないし。
とにかくいろいろと大変なんだ。
だから、背が低いとできないことがいっぱいあるバイトなんてもっての他なのだよ、よっちゃんくんよ。
よっちゃんは、たのしいのにっ、と推し続けたが、丁度チャイムがなったので、逃げるように自分の机に帰ろうとしたところ、でも、というよっちゃんの声が聞こえた。
「でも、メイちゃんがコンビニの制服着てたら、きっと、とってもとっても可愛くてあたしトキメイちゃうよっ!」
ふふふっ。
やっぱり私はかわいいんだ。
よっちゃんが昼休みも私のところへ来て、バイトやりなよぅ、と勧めてくるから、しょうがなくバイトを始めることにした。
もう一度言っておくけど、しょうがなく、です。