ロマサガロワイヤル
シフとアルベルト2
「シフー、シフってば」
ギシギシとまぶた無理やりに持ち上げる。
目の前には見慣れた金髪の少年がいた。
「……おはよ、アル」
軽い口付けをして、シフは体を起こした。
洞窟の入り口からぼんやりと明かりが入ってきている。
少し眠り過ぎたかもしれない。
「ん…っと、行こうか、アル」
シフは一つ伸びをするとアルベルトの方を振り返った。
「うん。あっ、でもどこに行くの?」
支給品のアイアンソードを腰にしっかりと固定しながら、アルベルトが聞く。
「朝ご飯だよ」
洞窟を出て、シフは辺りを見渡した。
(海の方へはできれば向かいたくないな)
森を通るルートは誰かと出会う確率が高そうだ。
「よし、朝の散歩開始としましょうか」
「散歩って……もしかしてこの斜面登るの?」
シフが向き合った場所を見て、アルベルトはげんなりとした。
朝の散歩にしては、ハード過ぎるコースだ。
「イヤならアタシ一人で行くよ?」
ニヤッとアルベルトに笑いかける。
よく彼のことを知っているシフらしかった。
1時間程度登っただろうか?
ようやく斜面が終わり、平地に辿り着いた頃には、アルベルトは肩で息をしていた。
「よく頑張ったね。アル」
シフはよしよしと頭を撫でてやった。
アルベルトは払いのける気力もなかった。
「ちょっと待ってな、何か食べるもの探してくるよ」
アルベルトに微笑みかけてから、シフはさっさと走っていった。
ザク、ザクと足音がする。
「あ、おかえり、シ……フ……」
振向いたアルベルトの表情が変わる。
「おいィ、聞こえたか?ゲラハ」
下卑た笑い声がアルベルトの耳に響く。
「あ……あぁ……」
声にならない声が漏れる。
そこにはシフではなく、悪名高き海賊の姿があった。
ギシギシとまぶた無理やりに持ち上げる。
目の前には見慣れた金髪の少年がいた。
「……おはよ、アル」
軽い口付けをして、シフは体を起こした。
洞窟の入り口からぼんやりと明かりが入ってきている。
少し眠り過ぎたかもしれない。
「ん…っと、行こうか、アル」
シフは一つ伸びをするとアルベルトの方を振り返った。
「うん。あっ、でもどこに行くの?」
支給品のアイアンソードを腰にしっかりと固定しながら、アルベルトが聞く。
「朝ご飯だよ」
洞窟を出て、シフは辺りを見渡した。
(海の方へはできれば向かいたくないな)
森を通るルートは誰かと出会う確率が高そうだ。
「よし、朝の散歩開始としましょうか」
「散歩って……もしかしてこの斜面登るの?」
シフが向き合った場所を見て、アルベルトはげんなりとした。
朝の散歩にしては、ハード過ぎるコースだ。
「イヤならアタシ一人で行くよ?」
ニヤッとアルベルトに笑いかける。
よく彼のことを知っているシフらしかった。
1時間程度登っただろうか?
ようやく斜面が終わり、平地に辿り着いた頃には、アルベルトは肩で息をしていた。
「よく頑張ったね。アル」
シフはよしよしと頭を撫でてやった。
アルベルトは払いのける気力もなかった。
「ちょっと待ってな、何か食べるもの探してくるよ」
アルベルトに微笑みかけてから、シフはさっさと走っていった。
ザク、ザクと足音がする。
「あ、おかえり、シ……フ……」
振向いたアルベルトの表情が変わる。
「おいィ、聞こえたか?ゲラハ」
下卑た笑い声がアルベルトの耳に響く。
「あ……あぁ……」
声にならない声が漏れる。
そこにはシフではなく、悪名高き海賊の姿があった。
身に纏った青い装束には褐色に変色した血の痕がいくつもあった。
失った右目の分までギラギラと輝く左目。
世界の航海史において大きな足跡を残すであろう人物。
こういう状況下で絶対に会いたくなかった人物。
キャプテン・ホークがそこに、いた。
「あ~っと、今保護者いねぇみたいだな」
片目で素早く周囲を見つめる。
「シフ……シフ!!」
半狂乱に陥るアルベルト。
「ゲラハ」
ホークは隣で控えていたトカゲ男を呼ぶ。
呼ばれるが早いか、ゲラハの拳がアルベルトの腹にめりこむ。
「かっ……は……」
空の胃袋から胃液が搾り出される。
「騒ぐなよ?な?死にたくないだろ?」
優しい声音でホークは話し掛けた。
アルベルトは声も出ず、こくこくと頷くことしかできなかった。
「あ~、んじゃ、まずその剣もらうか」
ホークは無造作にアルベルトの腰から無造作に鞘を毟り取った。
手馴れた仕草で鞘から刀身を抜き、見つめる。
「んだよ、ショボい剣だな。お前もツキがなかったな」
鞘に収めると、左腰にぶら下がっている剣に添えるように身に付けた。
「さて、と。ツイてないついでで悪いが」
穏やかな口調でホークは続ける。
「間引かせてもらうぜ、っと」
剣を収める仕草に気が緩んでいた。
再び姿を現した鉄の刃に気付いた時には、身を翻すこともできず、
とっさにアルベルトは腕を出した。
朝日に血しぶきが反射して、キラキラと宙を舞った。
「あぁ!あああああああ!!」
右腕だった場所を見つめ、アルベルトは狂ったように叫んだ。
「うるせぇ」
ホークが目配せをする。
ゲラハは背中のロングスピアを手に持つとアルベルトの心臓目掛けて腕を突き出した。
(だめだ、死んだ……)
腕の痛み、混濁する意識、朝日と草木の緑。
全てを遮断するように、アルベルトは目を閉じた。
ドサッと音がした。
近くて遠い距離から、凛とした声がした。
「抜刀つばめ返し」
無意識に目を開けたアルベルトの前にあったのは、
上半身と下半身が分かれたゲラハと、ジュウベエだった。
失った右目の分までギラギラと輝く左目。
世界の航海史において大きな足跡を残すであろう人物。
こういう状況下で絶対に会いたくなかった人物。
キャプテン・ホークがそこに、いた。
「あ~っと、今保護者いねぇみたいだな」
片目で素早く周囲を見つめる。
「シフ……シフ!!」
半狂乱に陥るアルベルト。
「ゲラハ」
ホークは隣で控えていたトカゲ男を呼ぶ。
呼ばれるが早いか、ゲラハの拳がアルベルトの腹にめりこむ。
「かっ……は……」
空の胃袋から胃液が搾り出される。
「騒ぐなよ?な?死にたくないだろ?」
優しい声音でホークは話し掛けた。
アルベルトは声も出ず、こくこくと頷くことしかできなかった。
「あ~、んじゃ、まずその剣もらうか」
ホークは無造作にアルベルトの腰から無造作に鞘を毟り取った。
手馴れた仕草で鞘から刀身を抜き、見つめる。
「んだよ、ショボい剣だな。お前もツキがなかったな」
鞘に収めると、左腰にぶら下がっている剣に添えるように身に付けた。
「さて、と。ツイてないついでで悪いが」
穏やかな口調でホークは続ける。
「間引かせてもらうぜ、っと」
剣を収める仕草に気が緩んでいた。
再び姿を現した鉄の刃に気付いた時には、身を翻すこともできず、
とっさにアルベルトは腕を出した。
朝日に血しぶきが反射して、キラキラと宙を舞った。
「あぁ!あああああああ!!」
右腕だった場所を見つめ、アルベルトは狂ったように叫んだ。
「うるせぇ」
ホークが目配せをする。
ゲラハは背中のロングスピアを手に持つとアルベルトの心臓目掛けて腕を突き出した。
(だめだ、死んだ……)
腕の痛み、混濁する意識、朝日と草木の緑。
全てを遮断するように、アルベルトは目を閉じた。
ドサッと音がした。
近くて遠い距離から、凛とした声がした。
「抜刀つばめ返し」
無意識に目を開けたアルベルトの前にあったのは、
上半身と下半身が分かれたゲラハと、ジュウベエだった。
ひゅうっと風が吹き、草が音を立てる。
「大丈夫?腕。止血してちょっと待っててね」
ジュウベエは振り返らずに言った。
「あ~あぁ、派手にぶった切ってまぁ」
まだピクピクと動くゲラハを一瞥してホークはぼやいた。
「嬢ちゃん、なかなかやるねぇ」
刀身の反った、独特な形状の刀を抜きつつ、ホークの目が鋭さを増す。
「久しぶりに、いい悲鳴が聞けそうだ」
「アァァァル!!」
悲鳴とも怒声ともとれない、色々な感情が綯交ぜになった声が響く。
「ちっ、帰ってきやがったか」
舌打ちをすると、恨めしそうにジュウベエとシフを交互に見つめ、ホークは走り去った。
二人同時に相手にするのは得策ではないと踏んだようだ。
ジュウベエは仕込み杖を収めると、アルベルトに駆け寄った。
「触るなぁぁぁ!アル!アル!大丈夫か!?」
シフはジュウベエを突き飛ばすと、手際よく止血処置を施した。
「だめ……ここじゃ十分な処置なんかできない。早く……」
「だ、大丈夫、シフ。何とか、血はおさまってきたし」
アルベルトは、こんなに狼狽するシフを初めてみた。
逆に冷静を取り戻す自分を、こんな状況にも関わらず誇らしげに感じた。
「あ、ジュウベエが。ジュウベエが助けてくれたから」
アルベルトはシフにお礼を促すつもりだった。
「そう……」
落ち着きを取り戻したかに見えたシフを見て、アルベルトは安心していた。
「あっ、気にしないで別にボクは……」
「死んでちょうだい」
シフの赤い目が大きく見開かれた。
背中に背負った大剣を横に薙ぐ。
ジュウベエは跳びずさって避けた。
「シフ!?何する……」
「アンタは黙ってな!!」
シフはギリギリと歯を鳴らしている。
(アタシがついてれば……こんなことには!)
柄を握る手に力が篭る。皮手袋がぎちぎちと悲鳴をあげた。
「アル」
振向かずにアルベルトに声をかける。
こんな顔は、愛する人には見せたくなかった。
「このゲームの間は、優しさとか情はもらうだけにしときな」
「そ、そんな!」
「いいからアタシの言うこと聞いてよ!」
シフの悲鳴にアルベルトは次の言葉を飲み込んでしまった。
「すぐに……すぐにこんなゲーム終わらせたげるから」
アルベルトはただ見守るだけだった。
シフは鬼気迫る剣筋で攻め立てている。
一方でジュウベエは困惑しているようだった。
紙一重でかわしつつも、ちらちらとアルベルトの方を伺っていた。
(だめだ……!だめだ!)
振り下ろそうとした大剣がジュウベエの目の前で止まる。
シフの体にかかった光の輪が彼女の自由を奪っていた。
アルベルトが得意とする光術、スターライトウェブがシフをその場に留めた。
「な……?」
「早く、逃げて……早く!」
二度、三度アルベルトの方を振り返りながら、ジュウベエは走っていった。
「なんで?なんでとめたんだい?」
「……」
「……はい、レバー。血、補給しなきゃ」
焚き火を起こして、遅い朝食にありついたが、二人の間には気まずい空気が漂っていた。
シフが差し出したウサギの肉を受け取ろうと、手を伸ばそうとした。
その姿を見て、またシフが辛そうな表情をした。
「ごめん、アタシがもっと早く……」
「シフの」
アルベルトは改めて左手を伸ばしてシフの手から肉を受け取った。
「シフのせいじゃないよ」
「……でも」
「僕のために、誰かが死んだり、シフが辛そうなのは辛いよ。
言ってられない状況だって、わかってるけど」
アルベルトは、自分の右肩を焚き火に当てた。
「……っつぁ!」
「アル!?」
「止めないで!」
アルベルトはシフを睨みつけた。
そんなアルベルトの表情をシフは知らなかった。
「これで、少しはもつから……シフの荷物にはならないから」
それだけ言うと、アルベルトは気絶した。
日は頭上に昇っていた。
そろそろ動きださないと。
シフはアルベルトを背負い歩き出した。
「アル、アンタだけは死なせないから」
「大丈夫?腕。止血してちょっと待っててね」
ジュウベエは振り返らずに言った。
「あ~あぁ、派手にぶった切ってまぁ」
まだピクピクと動くゲラハを一瞥してホークはぼやいた。
「嬢ちゃん、なかなかやるねぇ」
刀身の反った、独特な形状の刀を抜きつつ、ホークの目が鋭さを増す。
「久しぶりに、いい悲鳴が聞けそうだ」
「アァァァル!!」
悲鳴とも怒声ともとれない、色々な感情が綯交ぜになった声が響く。
「ちっ、帰ってきやがったか」
舌打ちをすると、恨めしそうにジュウベエとシフを交互に見つめ、ホークは走り去った。
二人同時に相手にするのは得策ではないと踏んだようだ。
ジュウベエは仕込み杖を収めると、アルベルトに駆け寄った。
「触るなぁぁぁ!アル!アル!大丈夫か!?」
シフはジュウベエを突き飛ばすと、手際よく止血処置を施した。
「だめ……ここじゃ十分な処置なんかできない。早く……」
「だ、大丈夫、シフ。何とか、血はおさまってきたし」
アルベルトは、こんなに狼狽するシフを初めてみた。
逆に冷静を取り戻す自分を、こんな状況にも関わらず誇らしげに感じた。
「あ、ジュウベエが。ジュウベエが助けてくれたから」
アルベルトはシフにお礼を促すつもりだった。
「そう……」
落ち着きを取り戻したかに見えたシフを見て、アルベルトは安心していた。
「あっ、気にしないで別にボクは……」
「死んでちょうだい」
シフの赤い目が大きく見開かれた。
背中に背負った大剣を横に薙ぐ。
ジュウベエは跳びずさって避けた。
「シフ!?何する……」
「アンタは黙ってな!!」
シフはギリギリと歯を鳴らしている。
(アタシがついてれば……こんなことには!)
柄を握る手に力が篭る。皮手袋がぎちぎちと悲鳴をあげた。
「アル」
振向かずにアルベルトに声をかける。
こんな顔は、愛する人には見せたくなかった。
「このゲームの間は、優しさとか情はもらうだけにしときな」
「そ、そんな!」
「いいからアタシの言うこと聞いてよ!」
シフの悲鳴にアルベルトは次の言葉を飲み込んでしまった。
「すぐに……すぐにこんなゲーム終わらせたげるから」
アルベルトはただ見守るだけだった。
シフは鬼気迫る剣筋で攻め立てている。
一方でジュウベエは困惑しているようだった。
紙一重でかわしつつも、ちらちらとアルベルトの方を伺っていた。
(だめだ……!だめだ!)
振り下ろそうとした大剣がジュウベエの目の前で止まる。
シフの体にかかった光の輪が彼女の自由を奪っていた。
アルベルトが得意とする光術、スターライトウェブがシフをその場に留めた。
「な……?」
「早く、逃げて……早く!」
二度、三度アルベルトの方を振り返りながら、ジュウベエは走っていった。
「なんで?なんでとめたんだい?」
「……」
「……はい、レバー。血、補給しなきゃ」
焚き火を起こして、遅い朝食にありついたが、二人の間には気まずい空気が漂っていた。
シフが差し出したウサギの肉を受け取ろうと、手を伸ばそうとした。
その姿を見て、またシフが辛そうな表情をした。
「ごめん、アタシがもっと早く……」
「シフの」
アルベルトは改めて左手を伸ばしてシフの手から肉を受け取った。
「シフのせいじゃないよ」
「……でも」
「僕のために、誰かが死んだり、シフが辛そうなのは辛いよ。
言ってられない状況だって、わかってるけど」
アルベルトは、自分の右肩を焚き火に当てた。
「……っつぁ!」
「アル!?」
「止めないで!」
アルベルトはシフを睨みつけた。
そんなアルベルトの表情をシフは知らなかった。
「これで、少しはもつから……シフの荷物にはならないから」
それだけ言うと、アルベルトは気絶した。
日は頭上に昇っていた。
そろそろ動きださないと。
シフはアルベルトを背負い歩き出した。
「アル、アンタだけは死なせないから」