Neetel Inside 文芸新都
表紙

ロマサガロワイヤル
エレン2

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頭がぼうっとする。
あぁ、行かないと。動いて、隠れなきゃ。
わかってはいたが、体が言うことを聞かなかった。

ビシュッ。
空中に大きなスクリーンが映し出された。
(……何?)
スクリーンの中にはクジンシーがいた。

「生徒諸君、楽しんでくれているかな?
定時報告のお時間だ。
2月14日0時となった。
死者を発表するぞ。
ユリアン、ぞう、詩人の3名だ。
初日で皆緊張してるのかな?全然死んでないぞ?
明日からはもっと殺し合ってくれよ~」

「ユリアン?嘘でしょ?え?死……?」
体に残る体温と、感触を確かめる。
「なんで?なんで?」
蘇る記憶。
東方開拓民として共に赴任したこと。
恋人ごっこのような日々。
そして、拒絶。
「アタシが殺したんだ……一緒にいてれば、今も……」
こみ上げる嗚咽を飲み込んだ。
もう、泣かない。
泣いても戻らない。泣いても生きていけない。
「ユリアン、ごめんね。アタシは死なない」
立ち上がり、砂を払うと、エレンは走り出した。



仮眠をとっていたエレンは話し声で目が覚めた。
そっと耳をすます。
(……厄介なコンビね)

     

「な、なにをする!きさまらー!」
「うっせ、ハゲ」
人肉の焦げる嫌なにおいが充満した。
うっとりとした表情でそれを嗅ぐ女が言う。
「あぁん、ぞくぞくしちゃう」
ため息をつきながら、相方を見つめながら、金髪の女が答える。
「アンタラリってんの?」
「うるさいわよ、ってゆか、その剣ウチのだからね」
「は?なんでよ」
事切れた男の死体には既に興味はないようだった。

「あたりまえでしょ、そのハゲ見つけたのウチじゃん。
アンタに殺させてあげたんだから、獲物くらいよこしなさいよ、ミリアム」
赤い髪の女は平然と言ってのける。
ミリアムと呼ばれた金髪の女は声を荒げた。
「チョー意味わかんないんスけど。アメジスト、アンタも燃えとく?」
ギャアギャアと聞くに堪えない悪口雑言が飛び交う。

(殺れるかな?今なら)
エレンは静かに腰に手を回し、手斧を掴んだ。
(トマホーク!!)
おもむろにそれを二人めがけて投げた。
(一人でも欠ければ、アタシの勝ち!)
しゅるるる……と空気を裂き、斧は二人に近づいていく。
(獲った!)

「ざ~んねん」
ミリアムは一度も斧を眼で追うことなく、カカッとバックステッポで避けた。
「え!?」
確実に捉えたはずだった。
しかし、確かに放った手斧はミリアムをすり抜けていった。
「ま、まだ終わってない!」
弧を描き、手斧はアメジストへと向かう。
「めんどくさいって」
ぐしゃり、と音を立てて、手斧はアメジストを捉えた。
が、アメジスト『だったもの』はパシャッと音を立てて崩れ落ちた。
「シャドウサーバント!?」

シャドウサーバントとは、端的に言えば術者の幻影を作り出す月術だ。
駆け出しの術者が使えるようなものではない。
東方に古くから伝わる秘術である。

ヒュン……ヒュン……
勢いをなくした斧がエレンの足元で落ちる。
(しくじった……かな?)
冷たい汗が背中を流れるのを感じた。
「ほんとに野蛮な女ね~、エレン」
アメジストが見下すような視線でエレンを見つめた。
その眼がエレンは一番嫌いだった。
ぎりっと奥歯に力が入る。
「ってかさ~、エレン」
ニヤニヤとミリアムが笑う。
「アンタ、な~んか、イカ臭いんスけど」
「あぅ!?」
おたおたとエレンは自分の腕を嗅ぐ。


「死んじゃいな?」
気付けば、目の前でミリアムが笑っていた。

ドスッと体に衝撃が走る。
冷たい感覚。
「あ~、この剣、重いしチョーつめてぇ」
「だっからウチが持つっつってんだろ?」
完全に仕留めたという錯覚が、油断を招いた。
エレンの頭上に電球が光る。
「残念……まだ死ぬわけにはいかないのよ」
ボソッとつぶやく。
ミリアムの顔色が変わった。
「ナイアガラ・バスタァァァァァ!!」

地面にはぽたぽたと血が滴る。
「チョー……いてぇ……このアマ……」
頭頂部から地面に叩きつけられたミリアムは体の自由が利かないようだった。
しばらくはタイマンバトルに専念できそうだった。

にらみ合うアメジストとエレン。
そこに一頭の狼が姿を現した。
どうやら血の臭いに誘われて現われたようだ。
「……しけた」
「?」
アメジストは言うと、ミリアムの体を抱えて背を向けた。
「次会ったら覚悟しときな」
「か…覚悟しときなよ、アンタ」
「アンタも簡単にのされてんじゃないよ」
「てっ」
ミリアムの頭をぺしりと叩くと、アメジストは廃屋へと歩きだした。

「た……すかった……かな?」
エレンは傷口を押さえながら、前へと突っ伏した。
狼は自分の様子をうかがっているようだった。
「死にたく……ないよ」
エレンはそう言うと、気を失った。

       

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