Neetel Inside ニートノベル
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僕とカナのいつも
一番

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一番、私がそこにいるということ

 私はカナ、高田家に住まう、心正しき猫だ。
 私の主は、今年で十歳になる。彼の名は高田道朗。彼が正しくない行動をする時も、私は文句一つ言わずに彼に従う。私は大人で、彼はまだ子供なのだから。
「おはよう」
 私の意識がまだ夢の中に置き去りにされているというのに、道朗は構うことなく私の体を揺さぶった。
「起きて、もう朝だよ。カナ」
 私は低血圧だ。
「おはよう道朗・・・だがあと五分程眠らせてくれ・・・」
 もちろん私の言葉が霊長類の頂点に立つ彼の耳に届くはずもなく、その言葉はただの鳴き声として認識されたはずだ。
 何を思ったのかは知らないが、道朗は私を抱きかかえ、問答無用で歩き出した。私は大人らしく、落ち着いてこの事態に適応したいと思う。
「いやお前・・・!やめろって・・・!高い所は駄目だってばあ!」
 ぐだぐだだぞ私。落ち着け。
 しかし私の本能は理性を抑えて暴れまわる。迷惑な話である。
「じゃ、少しだけ待っててね」
「やっと降りれた・・・じゃなくて!」
 落ち着け私。子供のしたことだ。大人の対応を見せてやろうではないか。
「・・・って、うわあ」
 あろうことか、道朗は恥じることもなくパジャマを脱ぎ、普段着に着替えはじめた。
「・・・いかに歳が離れていようとも・・・男と女なのだから・・・もう少し・・・気を使いたまえ・・・」
 そむけた顔が紅潮していた私は、ちらちらと道朗の様子をうかがいながら呟いた。いや、別に何かが見たかった訳ではなくてだな、着替えが早く終わらないかな、と思っていただけだ。きっと。
「よし、じゃあご飯にしよう」
「うむ」
 ご飯と聞いて、私の尻尾は勝手にぶらぶらと揺れ動く。悲しいけれど、私、猫なのよね。
 私と道朗が居間まで歩いていくと、そこには既に道朗の保護者である秋子と勝武殿がいた。
「おはようおじいさん」
「おはよう。道」
 勝武殿は、私の主である道朗の祖父にあたる人物で、もう相当な御歳であるはずなのだが、私の眼に映る勝武殿は、いつも若々しく力強かった。
「おかあさんも、おはよう」
「あら、私はついで?」
 出た。秋子だ。妖怪か何かのような言い方をしてしまったが、あながち出たという表現は間違ってはいまい。
 秋子は、道朗の母に当たる人物なのだが、秋子の行動の節々には、私に危害を加えようとする他意が見受けられることがあるので、私はあまり彼女に対して好意を抱いていない。
「え?あの、そんな」
「私は良いが道朗を困らせるな!」
 うろたえる道朗を見て、私はつい助け舟を出してしまった。道朗のことをあまり甘やかしたくはないのだが、相手が妖怪では致し方あるまい。
「あら、カナちゃんは私に最初に挨拶をしてくれるのね」
「いや違うわ!」
 もちろん猫にすぎない私の言葉は二人には届かず、なにやらアットホームな雰囲気が出来上がってしまったが。
「じゃあ、ご飯にしましょうか」
「うん」
「まあいいだろう」
 私が自分の皿の前まで歩いていくと、道朗も同じように席に着いた。
「いただきます」
「私のは?」
 奇妙なことに私の皿には何も乗っていなかった。
「はい。カナ」
「・・・いやあ・・・」
 どう突っ込もうかしら。
 道朗は、なにやら自信ありげに、私の皿の上に食べかけの魚を置いた。食べかけと行っても、身はほぼ残されていない。
「食べてもいいよ」
「・・・やはりそうきたか・・・」
 確かに私は魚の骨を食べることができるし、食べること自体に問題はない。しかしその食べる過程が問題である。私は魚を丸ごと食べる過程で骨も一緒に食すため、なんというか味の緩和剤として魚の身がないと物足りない気分になってしまうのである。つまり、贅沢な言い分であるが、おいしく食べることができないのである。
「食べ残しなんて渡さないの!カナちゃんだって、家族の一員なんですからね」
 私が困り果てていると、秋子が道朗を小突いた。これが名高きどめすていっくばいおれんすか。そう思いながら見ていると、どうやら事態は私にとって望ましい方向へ進みだしているようであった。
「でも・・・」
 しかし秋子が私の利になる行動をするとは、珍しいこともあるものだ。 
「それに、カナちゃんの分はしっかりと用意してあるのよ」
 ようやく秋子も、ペットに対する愛に目覚めたというわけか。歓心なことである。
「はいカナちゃん」
そう言って、秋子は道朗の食べ残しを取り上げて、私の皿の上に乾いた魚の骨を置いた。
「猫を馬鹿にするなよ」
 完全に骨しかないので、道朗の食べ残しより遥かに性質が悪い。道朗の食べ残しには、まだわずかに身が残されていたぞ。やはり秋子は敵だ。妖怪変化だ。
「ほらねえ、自分用のをもらってうれしそうでしょ?」
「そうだね・・・ごめんなさいね、カナ」
「いや、うれしくない・・・いや、あやまるな道朗よ・・・」
 食べ残し返せ。秋子。
 私の言葉が通じない以上、私の朝食は目の前にある骨だけですまされてしまうのであろうう。
 まあ、別に良いのだけれど。
 私はカリカリと、骨をかじった。
「うまい」

一番、終わり。

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