にばん、朝の僕と菜々津ちゃん
「いってきます」
「にゃ」
僕がランドセルを背負って玄関から出ると、カナはそれ見送ってまねき猫のように片手を上げて、可愛らしく僕を見ている。
「いってらっしゃーい」
居間の方から、おかあさんの声が聞こえた。僕の声が居間まで届いたということだ。
家を出てから、僕はまず隣の家のインターホンを押す。そうすると、すぐに隣の家から出てくる人がいる。
「おはよ、ミッチー」
「おはよう、菜々津ちゃん」
元気に出て来たのは、衣笠菜々津ちゃん。家がお隣同士なので、小さい頃から僕と仲が良い。
「ねえ、ミッチーって呼ぶの・・・やめて?」
「何で?」
菜々津ちゃんは、僕より二歳年上の小学六年生で、女の子なのに体育も勉強もできてかっこいい。勉強しかできない僕とは大違いだ。でも、そんな菜々津ちゃんにもよくない所がある。いじわるなのだ。
「逆に聞くけど、何でミッチーって呼ぶの?」
「君がとても可愛いから」
菜々津ちゃんは、左手で僕のあごを軽く持ち上げてそうささやいた。
「髪は綺麗でなめらかな銀色で、目が大きくて、全身ぷにぷにしているからね。本当に可愛いよ」
目を合わせて真顔でそう言われても、困るだけなのですけれど。
「そんなこと言われても、全然うれしくないよ!」
真っ赤になった顔を思い切りそむけながら、僕は菜々津ちゃんの手を振り払った。
「・・・私の外見は何一つ女の子らしくないし、初対面の人にはいつも男の子に間違われる。私は君に、自分にはないものを求めているのだが・・・道朗。君が本当にいやなら、もう君が嫌う呼び方では君のことを呼ばないよ」
少し悲しそうに早口でそういわれても、困るだけなのですけれど。
「・・・うー・・・」
「うなっていては解らないよ」
菜々津ちゃんは、時々とても大人っぽいことを言う。たった二歳年上なだけで、こうも違うものなのだろうか。
「解ったよぅ・・・ミッチーでいいよ・・・」
いつだって、折れるのは僕だ。
「ははっ、ミッチーは本当に可愛いなあ!」
「大声で叫ぶなあっ!」
「どうしてかな?」
「・・・うー・・・菜々津ちゃんのバカ」
菜々津ちゃんは、本当にいじわるだ。
にばん、終わり。
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