「だーかーらー、つまんないの!わかる?退屈なの!」
叩き起こされた声は悪魔のものであった。
「なにが『だから』だよ。話の筋が全然見えねえよ」
「あたしはー、外の世界に出たいの!こんな薄汚れた部屋、嫌んなっちゃう」
「外出なら昨日したばっかじゃねーか!」
俺は夜型なので基本的に寝起きは不機嫌だ。どれくらい不機嫌かと言うともうなんか壁とかばんばん叩いて雄たけびを上げたいぐらい。
「学校行こうよ」
「はぁ?」
突然悪魔が静まって、俺を軽く誘う。思わず頷きそうになったけど。内容が内容である。
「がっこう?schoool?マジで言ってんの」
「oが一個余計よ。マジなの。あんたの学校に潜入してやる」
「お断りします」
「行けばいいじゃん。あたしも身分とかちゃちゃっと誤魔化してちゃっかり転校してくるから」
いやいやいやいや。ないわ。俺あの場所にもう行かなくていいんだったらパソコン以外なんでもあげちゃう。ゲームボーイとか要らない?
など茶番を繰り広げている余裕はない。このまま悪魔をつけ上がらせるとあとが大変である。早急にきっぱり断ろうと、大きく息を吸った。
「あのな――」
「融!」
凛とした悪魔の声に、思わず目を見開く。
名前、呼ぶなんて卑怯だろ……。
「ったくしょーがねーなー」
俺はぽりぽりと頭を掻く。フケが雪みたいに舞って、気持ち悪いと悪魔に風呂いけ命令を出された。
変われるかな。
温い昨日の浴槽につかりながら、考えてみる。
どうせ一日目でリタイアした俺なんてだれも憶えてないだろうし、あのタカシだってとっくに忘れている筈だ。新たなサンドバッグだっているだろうし。
決めた、行こう。ただし一日付き合ってあげて無理そうだったらまた俺の部屋にこもればいい。
だから俺は短慮だって言われるんだけどな。