Neetel Inside ニートノベル
表紙

恋愛上等小悪魔理論!
安価でデートコースきめるお(^ω^)

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外に出て初めて気づいた、夏だった。
「あっつー……」
思わずハモって、気恥ずかしくなりお互い黙り込む。
「……行こうか」
俺がなんとなく促し、二人で炎天下を歩きだした。


電車を乗り継いで着いた街はやけに眩しく感じた。
「あたしワンピース欲しいかも」
店頭の白いワンピースを悪魔が指さす。
「お前悪魔なのに白好きなのかよ」
「好みに口出さないでくれる?」
指摘すると早速噛みつかれた。約束、いや契約が違う気がするのは今更だからもう言わない。
「試着してくる」
悪魔はラックからパフスリーブのそれを取り上げた。
「高いな」
タグを見て後ろ姿にぼそっと呟いてみた。妥協してはくれないか、と願うも悪魔の姿は既にない。
金が無い。その言葉を舌の上で転がすと苦みが自ずと滲み出てくる。
今の所持金は中学生のころにもらったお年玉くらいだった。
それも大体カツアゲされたから、殆ど残ってないけど。
洋楽のかかる洒落た店内を見回す。どのカップルも友達も楽しそうだった。
買い物になど興味はないと思ってはいるが、なぜか泣きそうになった。
俺は楽しくない。
「どう?」
カーテンの開く音。振り返ると可愛い女の子が俺に笑いかけていた。でもすぐに眉を顰めて、カーテンを引く。
「やっぱりあたしに白は似合わないね」
「俺はいいと思うけど」
悪魔の名誉のために言ったのに、態々カーテンの陰から顔だけ出して憤怒の形相で睨まれた。
反論しようとして気がつく。
悪魔は俺の懐具合を気遣ってくれてる――?
またゴスロリに着替えて悪魔が出てきた。
「情けない顔、しないでくれない?」
溜息をついて頬をつつかれる。
知らず知らずのうちに出費を気にしてそんな表情になっていたらしい。
「もうっ、あんたのせいでおちおち楽しんで買い物できないっつーの!もっと安いとこ行くから!」
そう言い捨てて店を出て行く。
「ごめん」
速足の悪魔に追いついて、謝った。
「何がよ」
悪魔は不機嫌極まりない。
「さっきの似合ってたのに――金、無いからさ……ごめん」
頭を下げた。情けなかった。
彼氏、失格。
「馬鹿」
その声のトーンの柔らかさに、ちょっと顔いろをうかがうと悪魔は。
仕方ないなあ――というように、笑っていた。
「あとでクレープ、奢ってよね」

     

ジャージの袖を引かれて速足で歩く。
悪魔といえど、普通の女の子だった。むしろ悪魔要素なし。
気づいたことだが、この街はメインストリートを西に向かうほど安価な店になるようだった。
それを言うと、悪魔は水色のシャツを食品衛生検査ばりに厳しくチェックしながら「あんたそういうこと全然知らないよねー」とこともなげに返答した。
「俺としてはお前が知ってることが驚きなんだけど」
「まあ、この街有名だし」
今度は白いフレアスカートを取り出して、買って?という眼で見られた。
とことん白に拘るやつ。
「いいと思う?」
さあな、と返すと足を踏まれた。
「いいと思います」「今更言われてもうれしくない」
じゃあ最初からいいって言ったら喜ぶのかよ。
まさか。
レジの電光表示を見て「安っ」と思わずつぶやくとまた足を踏まれた。
「着て行ってもいい?」と悪魔が聞いて店員が頷く。
「そちらのお連れ様はよろしいのですか」
「あー、適当に見つくろっといて。あたしその間に着替えてくるから」
悪魔はひらひらと手を振って奥へと消えた。
俺と男性店員だけがとりのこされる。
コミュ障ピンチ。
妙に媚びた視線のイケメン店員に付き添われながら、居心地の悪さを噛みしめた。
ちくせう、イケメンは嫌いなり。

結局安い緑のカーゴパンツと黒いTシャツを見つくろってもらって、ジャージは処分してきた。
冷房の利いた店を未練がましく一人で出る。
自動ドアが開いた瞬間、店の冷気がふわっと流れ出て、待っていた悪魔の髪がさらさらと風になびいた。
「お帰り」
悪魔の瞳がきらりと光る。
俺は思わず、口に出しそうになる。
ああ、可愛いんだなあ。
「ほら、次行くわよ!サンダル」
くいっとTシャツの袖を引っ張られる。
「まだ買うのかよー」
「いいでしょ!彼氏なら買ってよ」
あ ざ と い 。
でもそう思うからには多少なりとも心を動かされた訳で。
「しゃーねーな。これで最後だぜ」
「えー、クレープは」
無意味に舌うちしてみるけど、悪い気はしなかった。
「もうずーっと甘いもの食べてこなかったんだもん、贅沢させてよ」
そういって悪魔は笑った。
「お前、笑顔可愛いじゃん。ずっと笑ってろよ」
「死ね」

     

家に着いたのはすっかり夕方の橙が鮮やかになったころだった。
窓から入る悪魔と別れ、玄関から家に入った。
母は揚げ物をしていて、俺が出かけていたことにも帰ってきたことにも気づいていなかった。
でも俺は敢えて。
「ただいま」
声をかけると母は驚いて菜箸を取り落としそうになった。
「おっ、お帰りなさい!どこ行ってたの!?」
それから俺のいでたちに眼をとめて、更にびっくりしている。
「服……買ってきたんだ。ぶかぶかだったから」
恥ずかしかったが悪い気分じゃなかった。
「……似合ってるわ」
母はそれだけ言ってぎこちなく笑った。
「夕飯、持ってくわね」
その声を背中に聞きながら、早々に退散した。

「遅かったわね」
悪魔はもう部屋に戻っていて、窓の外を眺めていた。
「そういえばお前、眼の色以外は完全に人間なのな」
思ったことをいうと「まあね。昔は人間だったし」とそっけなく返された。
そのトーンを聞いていると、先ほどの買い物の時の笑顔はどこへ行ったのかと頭を抱えたくなる。なんだか前の冷たさに逆戻りしてる。
「なあ、魂取ってどうするんだよ」
純粋な知的好奇心で何気なく聞いてみたら、今度こそ本当に睨まれた。
でりけーとなもんだい、だったらしい。
母の足音で、二人押し黙る。
「……ここに置いておくからね」
傷つけるほどに優しい声。

無言でご飯を食べるのを、悪魔もまた無言で見ている。
「食わなくてもいいの」
「私食べなくても生きていけるし」
へえ。
「まあくれるっていうなら話は別だけど?」
「人参やるよ」
「それは嫌いなだけでしょ」
図星。
間隔をあけたぽつりぽつりの会話は、思えば昔懐かしい。
それはまさしく俺がちゃんと生きてるってことなのな、とキザに思ってみる。

       

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Neetsha