勇者「君だけは僕が守る」 魔王「勇者…」
勇者は魔王に恋をする
コンコン
勇者「入るぞ、魔王」
勇者「おはよう、朝食だ」
魔王「いつもすまない…」
勇者「いいんだ君の為なら。まだ傷は癒えないかい」
魔王「そうだな…まだ痛む」
勇者「はは、じゃあ今日も僕が食べさせてあげないとな」
魔王「だ、だから一人で食べれると!」
勇者「はいはい、あーん」
魔王「ぐむぅ」ムグムグ
†
勇者「みんな魔王を勘違いしているよ」
魔王「何が?」
勇者「帝国は君のこと鬼か悪魔みたいに言ってるけどさ、本当はこんなに弱くて優しい、可愛い女の子なのにってさ」
魔王「ば、ばか」
勇者「はは」
魔王「勇者…」
勇者「好きだよ、魔王」
魔王「…私もだ」
勇者「君だけは何があっても、僕が守る」
「例え世界が敵に回っても」
†
魔王「先日の帝国飛竜騎士団は強敵だった」
勇者「その前の聖槍士団も、十字軍も…」
魔王「そのどれもがかつてのお前の仲間だった者たちだ」
勇者「うん…」
魔王「痛まないのか、心は?」
勇者「…僕は、帝国では魔王は侵略者だと教わった。君は討伐すべき敵だと」
魔王「我々は侵略などしない。人間とは共存は無理でも不可侵を貫くつもりで私は政を為してきたつもりだった」
勇者「そうだ。君と出会って本当に侵略したかったのは帝国の方だったと分かった。神の名の下に、民を扇動し、領土を得る為の戦争だった…僕らは騙されていた」
魔王「しかし私を最後まで追い詰めたのはお前一人だった。私はこれで最期だと思った。だがお前は私を殺さなかった」
勇者「そうだね」
魔王「…なぜ、だったんだ」
勇者「そんなに複雑な理由じゃない。論理的なものでもないんだよ」
「僕はただ、君に一目惚れしてしまったんだ」
「羊の赤い角をはやし、闇夜の月の下でベッドで眠る、君を見て」
魔王「勇者…」
魔王「・・・しも・・・」
魔王「私もだよ、勇者」
†
勇者「おかしな話だね、勇者と魔王が、この伏魔殿でともに暮らしているなんて」
魔王「まこと滑稽な話だ」
勇者「この傷…」
魔王「敵ながら剣士の剣は見事だった。彼の剣は私の肩を切り裂いた」
勇者「(服を脱がし、傷口で指をなぞる)」
魔王「・・・・・・」
コンコン
下部「魔王様…」
勇者「次の討伐が来たみたいだ…行ってくる」
魔王「無理はするな」
勇者「ああ」
魔王「勇者」
勇者「なに?」ニコ
魔王「もう私には、お前だけなんだ」
†
格闘家「勇者よ、帝国に育ててもらった恩を仇で返すとは陛下もお嘆きだぞ」
勇者「今日は君か、格闘家」
格闘家「あえて聞こう、何故祖国を裏切り魔王に付く!」
勇者「待ってくれ、君たちは勘違いをしている!本当は魔王や魔族たちは人間に害はないんだ!」
格闘家「戯言を!」
勇者「魔王は…優しい子…なんだ」
格闘家「ふん、どうやら妖術にかかっているようだな。安心しろ、俺が貴様を帝国に帰してやる。その後で罪を知り処刑されるがよい!」
勇者「くっ…どうしてわかってくれないんだ」
†
勇者「分かったよ、君との決着は避けられないんだね…」
格闘家「問答無用」
勇者「最期に聞きたいことが一つだけあるんだ」
格闘家「…ふん、言ってみろ」
勇者「(ニヤ)君の家は小さな建設会社を営んでいるようだが、どうも少々経理が合わないようだね」
格闘家「!?」
勇者「裏金と闇取引、これが帝国上層部に知れたら、君と君の家族はどうなるんだろうねえ」
格闘家「ざ、戯言を!嘘だ!」
勇者「あれ、もしかして…知らなかった?wwwうちには優秀は暗部が揃っててねぇ…勇者のコネも合わせて帝国の情報なんて結構ザルなんだよwwwwwww」
格闘家「勇者にあるまじきやつめ!」
勇者「ちなみに君の大事な妹も、僕が負ければその場で誘拐、拷問の末始末する手筈になってるなんてことになってたりして?」
格闘家「卑怯者!!!」
勇者「はっはっは!何とでも言え!笑いが止まらないね!脳筋相手は!」
格闘家「うおおおおおおおおおおお」ダッ!
ザシュ!
格闘家「!? 罠か!」
勇者「これだからバカ相手は簡単だ」
格闘家「ぐ…ぐおおおぉ」
勇者「撃てえぇ!」
手下「キキィーーー!!!」
ダダダダダダダダダダダダダダ
格闘家「無・・・ね・・・・」
勇者「者共!こいつを磔にして帝国領に立てておけ!見せしめだ」
手下「キキ!」
格闘家「勇者…」
勇者「しぶといねアンタも」
格闘家「妹には…」ザシュ!
格闘家「ガク…」
†
勇者「魔王、僕だ、入るよ?」
魔王「勇者か、怪我は…大丈夫だったか…」
勇者「心配そうに見るな。うん、勝ったよ」
魔王「今回も、かつての仲間だったのか」
勇者「うん…そうだった」
魔王「そうか」
勇者「悲しいね…何が世界を狂わせているんだろう」
魔王「そう、だな」
勇者「僕はただ・・・君と二人で、静かに生きたいだけなのに」
魔王「そうだな…ゴホッゴホッ」
「僕はもう二度と戻れない」
「それでも僕は、君だけは守ってみせる」
「世界中の、誰よりも」