どれぐらい歩いたのかはわからない。しかし■■は歩き続けた。片足の無い男を見たときの絶望も、遠く聞こえる鈴の音の恐怖も、全てが現実と地獄を隔てる長城になろうとも、■■はトンネルの向こうを目指す。
トンネルの中は湿っぽく、薄暗い。犬の吐息のような臭気が漂っており、胃が締め付けられた。それでも■■は脇腹に力を入れ、擦り傷だらけの足を前に進めた。
何処かに溜まった雨水の水滴が、ぴちゃんと心細い音を立てる。足音は反響し、トンネルの向こうの景色だけ見つめ、涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔を袖で拭う。
程なくして、トンネルの外にたどり着いた。線路はまだ続くようで、不安と恐怖で心に嘘とつきながらまた進もうと足を前に出したとき、何処かから声が聞こえた。
「□□□□□?」
声の方へ目をやると、一台の車が停まっている。運転席から窓を開けてこちらを見ている男性が、心配そうな表情で■■を見つめていた。
「□□? □□□□。□□□□?」
安堵で顔の筋肉が緩んだとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「行くな!!」