8.
曜子の葬式が執り行われた夜、ファイブマート千川3丁目店には、杉村と修司が立っていた。
「大変でしたね。」
杉村が呼びかけるが、それを無視する修司。
「でも、奥さんの分まで・・・。」杉村が続けて言うのを遮って、「バイトの分際で、ペチャクチャ喋りかけて来るんじゃねえ。うまし棒の棚卸しでもしてろ。」と修司。
拳を握る杉村であったが、修司の心情を察してキレそうになるのを必死で堪えた後、うまし棒の置いてあるお菓子コーナーへ向かった。
「どんな~~!?」
突然、軽薄な声が店内に響いたかと思うと、大麻クッキーでのトリップがまだ抜けきっていない崎谷が店内の様子を見にやって来た。
「オーナー、ご愁傷様。でもさー。これでやっと店たためるね~。ほら結構大きめの生命保険入ってたじゃん。人が解約しろっつってんのに、意地でも払い続けてたヤツ。あれ、ガッツリ入ってくるんでしょ!?ねえねえ。いいな~。俺が本部にゴマすってたから解約せずに済んだんじゃん。本来ならウチの赤字補てんが先よ?ねえねえ。」そう言いながらレジに近づいて、お菓子コーナーにしゃがんでいる杉村に気付くと、「ん?お前何してんだよ?」とたずねた。
「棚卸っす。」
「ん?おお。そいつぁ~。まじで!かなり!重要な!仕事だな!ほれっ一本!投げてほれっ!」
「え……?」
「いいからホラ!」崎谷の求めに応じてうまし棒を投げる杉村。
包みを開くと、うまし棒の周囲に振りつけられている調味料を前歯で削り取りながら食べる崎谷。
「うめえな!…んん?ああ!!もしかして最初から店たたむつもりで母ちゃん殺ったとか?ほらほらあの日辞めたいって言ってたじゃん!店!でもさ~。うまいことキレイに殺ったよな。どうやったの?なあ。」
修司は黙って泣きながら身震いしている。
恍惚の表情で身震いする修司を眺めながら、うまし棒を前歯で削り続ける崎谷。
杉村は棚卸を止めると崎谷の背後へ近付いた。
「おい!もう一本食えや!」と杉村が言う。
「ん?」と崎原は振り向いた。
その刹那、杉村の拳が顔面にめり込んだ。
「胸くそわりー。お前が死ねよ。」杉村が怒鳴った。
「痛ってーーーーー!なんだこの豚!痛って!てめーは首ぃ~!オーナーこいつ首ね!くっそ痛ぇ~!クソ!帰る!」ここで揉めても何のメリットもないことがわかりきっている崎谷は足早に店内から立ち去ろうとする。杉村は追い掛けてボコボコにしてやろう思ったが、これ以上はオーナーに迷惑がかかると判断してなんとか思いとどまった。
崎谷は自動ドアの前で一度立ち止まると修司に向って。
「あとそうそう!俺、クソみてえな現場仕事がやっと終わってよ、来週から本部だから!てめーら現場のシケた面拝むのも、今日で最後だ!じゃーな!痛って~!」と言うと店を出ていった。
「オーナー大丈夫ですか?短い間でしたけど…お世話に…」杉村が別れの挨拶を言い終わろうとするのを遮って「ぶっ殺してやる!」と修司は叫んだ。
「な、何言ってんですかオーナー。」
「おい!手伝ってくれ!」
「ええー?」
「会長の小林ぶっ殺して、全部終わらせてやる。」
「いや…」
「保険金入ったら1000万払う!手伝え!」
「ええ…1000万すか。でもどうやって…。」
「妄想の中であのクソじじいを何回殺したと思ってんだ!俺に任せろ!」
「はあ…。ええ…。まあ…。1000万か~。時給1000円で…」そう言いながら店の電卓で計算を始める杉村。
「1万時間ここで豚になるよりはましかー。1日8時間として、1250日分の働き、1年で250日働くとしてざっと5年分か~。うーん。」
修司が杉村にパートナーとなるよう依頼をして1月後、計画は遂行されることになった。