Neetel Inside 文芸新都
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拡散記
離党者

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   1 離党者

 前世紀の終わりに■■■皇国で事変が起こると私は三十年前から予測していたがその通りになったので■■■革命党を離脱することにした。私服を持っていなかったので党の黒い軍服を着服。ついでに警棒と回転式拳銃と書記をするうちに悪くなっていった視力を矯正するための分厚い眼鏡も。首都は■■軍閥によって制圧されていた。地方領主による連合軍が挙兵したのは夏の暑い盛りだ。しばらくしたあと日蝕が起こった。私は十三歳になったあと五十二年間十四歳のままだったが、この蝕を切欠に十五歳になった。自宅に帰るとひどく荒れていたが白い花が一面に咲き乱れていて安らかな気持ちになることができた。壁面や屋根にも。そして屋内にも。私が所持していた二十五足のブーツはすべて腐って肥料になっていた。私は■■■■商会に電話をかけて弾薬を注文した。
 信託財産のおかげで餓死せずには済んでいた。仕事を探すことになったが自宅から離れている間に都市がどうも様変わりしているのが気がかりだった。電車は数十分遅れで来るようになっていた。路上に人が倒れているので声をかけようとすると突然灰の山になっていたりするし私は外郭部に住んでいたのだが都市の外に巨大な何かが聳えていた。それをしっかりと見ようとするといつの間にか視界の外に移っていて永遠に見つめることができない。どうやら金属の塔のように見えたがとてつもなく大きかった。
 外郭部の西側を歩いていると壁に貼り紙がしてあった。告発文だった。汚い字で書かれている。文字のサイズもばらばらだ。

 犯人は■■■■家
 これはすべて本当のことでありこれを嘘だというやつもいるがそれは■■■■である。■■■■家の■■はまず最初に被験者五十三号の頭を切り取って移植したのである。なぜならそれは三十六年前の七月から決定付けられていたことでありそれをしないという選択肢は彼にはなかったからである。これはもちろん自治領の法律に反する行為であるが彼はしなければならないのでそれをやった。それは二十七年前から始まっていたことでとても大きな決定がなされていたからである。いずれにしても最後はその頭を五個に切り分けていずれも三十七人の人々にたいして決定を行って平等に分け与えなくてはいけない。少なからず自治領の法律に違反しているし当局もそうした判断を下すことは自明であるが彼はしなければならないと考えていたのでやった。■■■■家においてそれは吉兆とされるからである。吉兆はこれまでの七世紀で四回見出された。企業体の努力によるどうしようもない天災や諸外国からの密偵の工作や市民による略奪においてもそれは希望となる。今回見出された吉兆は六つでありそのために頭を五個に切り分けて三十七人の人々に配布した。保安上の理由で自治領の駅構内の通路はすべて封鎖されている。当該地区において夜間の外出は許されてはおらずそれも■■■■家のせいである。これは間違いのないことでその理由は彼らが吉兆は大切だと考えて行動しているからである。もしくは外郭部の管理機構のせいである。自治領の外郭部には吉兆とは縁の無い人々がいて打ち据えられているから彼らの呪詛によって吉兆は打ち消されるのである。それもまた■■■■家の仕業である。平時において彼らは常備軍に五十三号の害意を適合させようとして集合知を利用した。それは二十五年前に行われたことである。それは揺るぎ無い事実である。妊娠中の女性が外郭部の地下道を通ると精神に異常を来たす恐れがあるとされてきた。それは五十七年前から言われていることである。最初地下道において日の当たらない部分で犬が飼育されていた。それは吉兆であった。ところが当該地区の担当者である■■はそれを

 という具合でそこから先は滲んでいて読めなかった。
 路地を進んでいくと交差点を見下ろす場所に出た。雑踏の中に二メートル程の黒い影のようなものが点在していて闊歩している。少し離れた場所では演説を行う赤い服の一団がいた。よくは聞き取れなかったが「追跡」に対して抗議を行っているらしかった。
 私は近くの書店で便箋を買って手紙を書き始めた。党にいた年下の少女に対して。彼女は常に左目に眼帯を付けていた。彼女が言うには、五歳の頃交通事故で体の左側が潰れてしまったので狼の体でそれを埋めたのだと。形成は無事に完了したが後遺症で、月を左目で見ると口が耳まで裂けて暴れだすのだという。そのせいで弟を殺してしまい、彼女は朝五時になるといきなり起きて頭を床に付けてそれを悔いながら祈るのだった。
 近況を書いて便箋に封をしたが、党や彼女の家の住所を知らないのを思い出した。
 私は手紙を川に捨てた。茶色に濁った川に。

       

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