Neetel Inside 文芸新都
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拡散記
災厄予報

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   9 災厄予報

 当該世界における第三種災厄の接近が予想された。発生確率は七十パーセントを越えそののちに晴れ。まずい事態だ。もっとも必ずしも何かが変わるわけじゃない。平時でも世界は少しずつ拡散し続けているから今度の日曜日に町が様変わりしていてもなんの不思議はない。例えば以下の様なことがあった。
 ある朝、具体的には■■月■■■日に私が起きると辺りはとても騒がしかった。縁側の白い花が風に揺れている。見ると我が家は恐ろしく高い場所に移動していた。遥か下に片側四車線の交差点があり車がいきかっている。頭の上には不必要なほどの高さの建造物が建ち並び非存在の空母が蒼白く煙りながら離陸するところだった。
 予報されていたものではない。第三種災厄は生物の消失だ。今回はかなり大規模に人々がいなくなってしまうらしい。あくまでそういう予報……これは突発的な他領域との融合だろう。数ヶ月に一度は起こる。
 家の中に■■■がいた。これはどうも夢かもしれないと私は思う。はっきりしないが判断するため彼を窓から突き落とすといった蛮行に出ることは避けられた。現実だった場合れっきとした殺人になるから。たぶん。
「この都市は拡散と改変に対するシェルター的役割を果たしてると思ってたんだけどそういう甘い話じゃなかったようだな。内部に拡散要因があるのか? まったく、縦方向に広がる迷路をすり抜けるほうが簡単ってもんじゃないか?」
「そうかも」
「なあ■■■、オレは仕事をやめるよ。なぜかっていうと学校まで行く道中に花が咲いたんだけど、それが気持ち悪くてしかたないんだ。具体的にどう気持ち悪いか言うのは難しい。『それが今にも怪物として襲い掛かってくる』という映画みたいな説明方法をしてお茶を濁すなら簡単だけどそれじゃない。なんというか異物感がすごいんだ。そこにそれがあっちゃいけないような恐ろしさだ。それが人の家の庭に咲いてて、まさか駆除してくださいと家主に言うわけにはいかないだろ? おたくの花が怖いんで仕事にいけません、なので摘んでください、ってさ。情けない話だけどだめだ」
 私も新しい仕事を探さなくてはならなかった。先輩もだいぶ焦っている。彼女は親と同居していて、日々ただで飯を食らっていることを非難されているそうだ。肩身が狭い話だ。こちらは一人暮らしだからいいものの、貯金も少ない。いっそ強盗でもやろうかという気にもなっている。さいわい銃と弾薬はある。夏の暑い盛りにどこかの駅前の宝石店か銀行で人を撃ちたい。しかしやめておこう。

 ある日、道を歩いていると急にぶどうが食べたくなった。そのとき向こうから歩いてくる四人の女の子がヘリコプターについて話していた。ヘリコプターがどこかの砂漠に墜落してその機体とパイロットの亡骸を温床にぶどうの木が生えたということが実際にあったのだそうだ。ちょうど私もぶどうのことを考えていたので少し驚いたけど、だからといってぶどうが食べられるわけではなくがっかりした。次の瞬間、後ろを歩いていた子の体全部と、その隣にいた子の左腕が消失した。血が腕の切断面から吹き出ていて彼女は最初の数秒間気づかずにぶどうの話をし続けていたのだけど、そのうち痛くなってきたようで悲鳴を上げて地面に倒れてのたくっていた。私は、これはいっそ彼女の頭を撃って殺害したほうがいいんじゃないかと思ったけど銃弾をそんなことに使うのはもったいない気がしたのでやめた。街じゅうで同じようなことがあったけど人々はなんの関心もなさそうに負傷者たちを見下ろして歩いていた。
 その後空の雲が全部なくなって快晴になった。

 誰かから、片方の羽が欠けた天使の像が届いた。私は不吉な気がしたので裏の沼に沈めた。緑色の泥があわ立っている不気味な場所だ。何体もの死体が沈んでいる。私は家で出たほとんどのゴミをそこに投棄していたが、あるとき知らない人にそれをとがめられた。恐らく単なる旅行者だろう。彼を殺害してそこにゴミとともに沈めようとしたがやめた。
 ■■■■教団と■■■軍閥が首都の近くの西部平原で睨みあいを始めた。内戦が始まる。しかし私にはあまり関係のないことだ。そのころ寝ようと思ったらいつまで経っても眠れない日があった。あまりに眠れないので既に三週間は経過したのではないかと私は思った。暫くしてから私が寝るのを諦めて目を開けると天井がなかった。そして、広大な星雲のさ中にまで私は急上昇しはるかかなたの小さな銀河を見下ろしていた。その後私は恐ろしい速度で地上に戻り自宅の布団の上にいた。不可解な幻視だ。窓から、首都の西で煙が挙がっているのが見えた。

       

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